第4話

私はまだカケル君の素顔を知らない。


私はまだカケル君がマスクを外しているところを一度も見たことがない。


それはだって、カケル君自体がずっとマスクしてるし、登校は午後からだから昼食の時間は無いし、部活も違うしでチャンスが全く無い。かと言って無理矢理にカケル君のマスクを外すのも、何かが違うような気もするし....。


「今日も、大変そうだったね....」

「これくらい、慣れちゃったものだよっ」


あはは、と出来るだけ女の子らしく、かつ、平気を装う風に笑みと一緒に返す。


「いつでも僕が、マイちゃんの味方するからね。クラスは違うけど、同じ学年生として。そして、僕の大切な人として!」

「ありがとう....。本当にありがとう....」


マスク君はヒドいよ。私が平気を装おうとしてるのに、簡単にそうはさせてくれないんだもの。


「でも、マスク君に悪いよ。マスク君はマスク君の事情もないわけじゃないんだし....」

「あははっ。そろそろその“マスク君”って言うのやめなよ〜」


マスク君、すなわちカケル君がふんわりと笑って話をそらしてきた。そんなやわらかい笑顔を潰したくないから、私はカケル君が敷いてくれた話のレールに乗ることにした。


「前にも言った気がするけど、カケル君がずぅぅっとマスクしてるから....。だからマスク君!」


これをキッカケにマスク君が私に素顔を見せてくれればいいんだけど....。まあ、そう思ったようにはいかないか。


「あはは。そっか!でも“く”が二つ重なるから言いにくくない?」


またふわりと笑うカケル君。見ていると心は休まりそうだけど、どこか儚く感じて、ずっと見てないと不安になりそう。それが、カケル君の笑顔。


「私はマスク君で満足かな〜っ。ずっとマスクしてて暑くないの?まだ夏だよ」

「暑いよ〜。でもつけてる!あっーと、じゃ僕はここで」

「あ、もう別れ道か。バイバイ!また明日ね」


私とは別の帰り道へ進むマスク君の背中が街灯に照らされるのを見た私は、帰る途中にあるホームセンターへ足を運んだ。



私は小さな期待の実を胸の奥でパンパンに膨らませて、ホームセンターの中へ入った。


でもその熟れた実は、ぴゅっと果汁を吹き出して、ちょっと腐ってしまった。


「今日はハイダさん、いないのか....」


私はここのバイト店員のハイダさんに会ってから、学校帰りにこのホームセンターのペットコーナーに来るのが習慣になっていた。ハイダさんに会うために。


ここのペットコーナーでバイトしているハイダさん。カッコよくて、優しくて、私のことをよく知ろうとしてくれる数少ない人の一人。今のところ、マスク君、ハイダさん、後は昔からつるんでる二、三人の女友達だけが私の大きな宝物。


猫好きな私は、スコテッシュの子猫を眺めてから、「また明日」という期待を胸にしまい込んで、ホームセンターを後にした。

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