第6話 助けてくれた人


猫ちゃんファミリーとお別れをして、しばらく進んだところで思う。


「お風呂に入りたい」


いや、本当に切実に。

それが贅沢だと言うのならお風呂じゃなくてもいい!

ただ、水で身体を洗い流したい!


「猫ちゃん、川か湖か。何でもいいけど水辺を探そう」


そう決めて歩き出すと、猫ちゃんが「こっちだよ」と方向を示してくれた。


「遠い?」


と聞くとフルフルと可愛らしく首を振る。

なら走らなくていいか。と歩いて向かう。

本当に、川が流れていた。

川の周りは少し開けていた。


「猫ちゃん嘘ついたね?もう夜なんだけど…」


もしかしたら、距離の感覚が違うのかもしれないなぁと思いながら猫ちゃんに言う。

猫ちゃんは知らないよー?って感じでそっぽを向いてた。

………可愛いから許そう。


まずは身体を洗いたいのだ。

少し考えて、このままでいいやと服のまま飛び込む。

汗をかいてた真理にとって丁度よかった。

パシャパシャと水で遊び、気が済んだところで濡れたままの服を脱ぎゴシゴシと洗っていく。

水気を切って、近くの木の枝に引っ掛ける。

今がどんな季節なのか分からないが水の温度は冷たすぎることもなかったので風邪を引く心配はないと思う。

元々そんなに長い間入るつもりもない。


「……早く洗っちゃおう」


深いところから腰のあたりの高さに水が来たところで立ち止まった。

両手で水をすくい、肩や胸にかけて汗を流した。

髪を濡らすのがめんどくさいと思い切ってしゃがみこみ、

水に潜りこんで一気に髪を濡らして洗い上げる。

水面から立ち上がったときには全身のべたつきが綺麗になくなり、

清々しい気分になった。


「気持ちいい…」


ここは辺りが開けてるおかげか、

月明かりが眩しいほどで暗闇の怖さはあまり感じなかった。


「明るい…」


ふと、空を見上げれば白い満月の月。


「綺麗……」


こんな風に空を見上げたのも久しぶりな気がする。

大変だったけどいいものが見れた。

うんうん。


「…そろそろ上がらないと風邪引いちゃう」


そういえば、火属性の魔法は使えるのか試していなかった。

使えないとなると少し辛いところがある。


頑張って汚れを落としたワンピースが掛かっている枝に向かって、

送風をイメージして…


「ウィング」


良かった、乾いた。使えるか分からない属性の魔法を試すよりも、

使える魔法を使った方が効率がいい。


乾いた服を着て、猫ちゃんを抱き上げる。

#無限収納__インベントリ__#に入っている木の実やらフルーツやらを出して、猫ちゃんと食べる。


その後すぐに就寝した。





『キキッ』


という鳴き声で目覚めた。辺りはまだ暗い。

目の前にはうさぎらしき動物。

うさぎにしてはちょっとだけ大きい。…これもモンスターなのだろうか。


「え、なに?どうしろと?」


しばらくそうして見つめ合っていると突然地震並みの地響きがしてきた。

ものすごい揺れだったので、咄嗟に木の枝にしがみつく。

漸く収まったかと思えば獣の咆哮がした。


少し収まったところでキョロキョロと辺りを見渡すと、少し先の方で今まで出会ったどのモンスターよりも大きいのが二体戦っていた。

出会ったって言ったってほとんど逃げおおせて来たのだけど。

戦ってるのは二体の熊。


戦いの余波でうさぎさんはいつの間にか木に衝突して死んでいた。


ひたすら息と気配を殺してバレないように必死に木にしがみつく。

猫ちゃんは私にしがみついてた。

可愛い。


三時間くらい経っただろうか。

未だに決着がつかないこの戦いであるが、

漸く片方の熊が優勢になったようだ。

しかし、戦いの余波で周りにかなりの被害が出ている。


(もう嫌、こっち来ないで…気づかないで…)


祈りも虚しく、そろそろ決着がつくというタイミングでしがみついていた木が余波で倒れる。大勢を整えるも叶わず、転げ落ちてしまった。

多少の距離はあるとしても、この距離で気づくなと言う方が無理がある。

気づかれてしまった。


「……ヤバイ」


二匹の目がキラリともギラリとも光った。

戦闘を中断してこっちに向かってくる。


それを確認して、ダッシュで逃げ出した。

そんなに速度はない。頑張って走れば逃げ切れるかもしれない。


この時間だから、それほどモンスターもいないようで遭遇することはなかった。それはいいことなのだが、やはり幼女の身体だからなのか、

向こうの速度は大したことないはずなのに一向に距離が開かない。


それでも走るしかないので必死に走る。

どこをどう走ってるのか分からないがどこからかなにかの音が聞こえた。


ちら、と後ろを見るとまだ追ってくる。

逃げるのと確認するのとで期待を込めて音の方に走る。

後ろからビッグベアさんたちつきだけどね!


「夜明けがいつなのか分からないけど…まだ暗いし…」


周りが見えないのだ。

音の方に走ってきたはいいがモンスターつきだ。ゆっくり確認することなどできない。

悩んでいると追いつかれてしまった。

しかし、すぐに攻撃してくる気配はない。


「もしかして…疲れてる?」


三時間も戦って、三十分ほど追いかけっこだ。

疲れないほうがおかしい。見れば二匹とも満身創痍だった。


………よし。

いい所取りしよう。

最後仕留めるだけだし、弱ってるしなんとかなるはずだ。

風魔法だけじゃ倒せないかもしれない。これは賭けだけど…


「…きっと夢ならやれば出来る子」


そう思って、魔法を発動しようとした。


「………え?」


人が、現れた。

剣を持った人が、上の方から現れて…

二匹のビッグベアを倒していた。

思わず、その場にへたり込む。

知らず知らずのうちに猫ちゃんをギュッと抱きしめていた。


「ちょー、隊長なんだってビッグベアなんかがここに走ってくるんすかー」


「知るかボケ。一発で倒せてよかったわ。こんなん俺らじゃ無傷でなんて無理だからな。…で?」


軽口を言い合っていた人たちが、こっちを向いた。

へたりこんで何も出来なかった私は、その目に思わずビクッとしてしまった。


「お前は何なの?なんでここにいるわけ?」


怖い、怖い怖い怖い怖い怖い!

この森で初めて人に出会って嬉しいはずなのに、この人たちは怖い!

すごく嫌な感じがする。


「たーいちょ!そんな目してたら怖くて何も言えないっしょ?んで君も。怖いことはしないから質問に答えてくれるかな?」


言葉は明るくて優しい言葉のはずなのに、この人たちは目が笑ってない。

でも、助けてくれたことは変わりないので、ビクつきながらもコクンとうなずいた。


「うん、よかった。じゃあもう一度質問するね。君は誰で、どうしてここにいるの?」


「分かんない」


この人たちにはあまり情報を開示しない方がいい。そう思った。


「ふーん。なんかわけありみたいだね。まぁ、このままここに置いておくわけには行かないし、暗いし。嫌かもしれないけど、僕たちと一緒に来てくれる?僕たちこの森には依頼できてるんだ。他のパーティと合流しなきゃだけど、向こうのパーティーは優秀だし大丈夫でしょ。隊長もそれでいいよね」


「問題ないな」


え、保護してくれるっぽい?

嫌な感じは私の勘違いでこの人たちは本当はいい人?


「あと、もう一人いるけどー……俺の弟だし大丈夫でしょ。あいつ欲とかないし」


ダメな人だ。危ない。でも、もしかしたらもう片方のパーティ?の人が妹を保護してるかもしれない。何より、モンスターに出会ったときに戦わなくて良さそうだから危険じゃないし。

メリットの方が多そうだし。


この人たちについていくことにした。


「助けて、くれるの?」


設定的には、なーんにも知らないただの幼気な少女ってことで。うん、お願いします!


「助けるよー?僕はアルト。よろしくねお嬢さん」


「あ、りがと…」


差し出された手を掴んで立ち上がる。


前途多難です、神様。


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