第3話 花畑 妹Side


「おねぇちゃん?」


一方、妹は神様たちと出会った場所と同じような花畑にいた。

黄色、ピンク、水色、白、と色とりどりである。


「きりぇー…」


白一色の花畑も綺麗だったが、理麻はこっちのほうが好きだった。


「ここどこー?」


側に姉がいないことに凄く不安を感じる。

いつだって側にいたのだ。当たり前だろう。


姉が神様と話していたことは正直余り理解していなかったが、

ここがファンタジーの世界なのは分かった。


「…まほーのしぇかい」


周囲を見渡せば一面花畑と言っても、そこまでの広さはない。

周りは木で囲まれていて開けた場所がここのようだ。

となると、ここは森の中…なのだろうか?

理麻は大きな桜?の木にもたれて座っていたようだった。

開けたこの場所は所狭しと花々で覆われていた。


「まほーつかえるかも…」


神様たちに魔法が使いたいとお願いしていたから使えるはず。

試しにと唱えてみる。


「ネーベル」


唱えれば霧状に水が現れた。

そのまま辺り一面を包む。


「できたー!」


理麻はまだ発育途上なので言葉はあまり上手く喋れない。

特にサ行とラ行は苦手だ。

しかし、何故か魔法の呪文となるとしっかり喋れるのであった。

ファンタジーや異世界物が好きな姉の影響だろうか。


「…まわりみえなくなっちゃった」


流石にやりすぎたようだ。

このままでは何も見えないし出来ない。


「うーん…あ!ライセン」


ぱっと視界が開ける。

よしよし、これで大丈夫!


(しょれにしても、これからどうしゅるべきか。)


ここがどこかも分からないし、何より姉である真理がいない。

今は、…前もだけど、体は幼女なのでそんなに動けない。何より危ない。

この場所は安全でも外は危険かもしれない。


「…ひともいないのー」


周りに頼れる大人もいないというのはいただけない。


…身動きが取れなくなってしまった。

この世界には確実に姉も来ている。

きっと場所が別々になってしまっただけだ。

探してくれているはず。

ならば、この場所から動いて特はないだろう。


「おねぇちゃんのことまつのー」


取るべき行動が決まると、さっそく暇なので神様のところでもやっていた花冠作りに没頭する。ここは色々な色の花があるから作るのが楽しい。


一つ作り終わって、頭に乗せる。

すぐにまた次を作り始めた。


いつの間にか、ふわっふわのうさぎらしきものと小さい鳥たちが集まってきていた。


「ふぁ!うしゃぎしゃんなのー!とりしゃんもいるの!」


気配を感じて目を向ければ嬉しい光景だった。

そんなに数は多くない。

鳥二匹とうさぎ一匹。


「うしゃぎしゃん、なでなでしていー?」


こくんと首を傾げながら聞けば、一定以上から近づいて来なかったうさぎが側によってきた。鳥二匹はすでに肩の上である。

うさぎが早く撫でろとばかりに、すりすりしてきたのでそれを了承ととりなでなでする。


「ふぁー、もふもふなのー」


至福の時間であった。





――――……



「できたのー!」


しばらくそうしていただろうか、

太陽が西に傾き始め辺りが薄暗くなってきた頃。


うさぎと鳥たちの分の花冠も完成していた。

うさぎはいつの間にか膝の上である。


眠くなってしまって、ウトウトしていたらいつの間にか眠ってしまっていた。それからどれだけ時間が経ったのか分からないが人の気配を感じた。


「ん、だーれ?」


眠い目をこすりながら、近づいて来た人に声をかける。

気配だけでも複数人。

もし、悪い人だったら大変だなぁと考え、声をかけないほうが良かったかもと後悔した。


「…誰か、いるのか?」


しかし、向こうは理麻に気づいていなかったようで、質問を質問で返された。

辺りはすっかり暗くなっていて、ぼんやりと周りが見える程度。


「いるよー」


漸く目が暗さに慣れてきて、声の人が見えるようになった。

それは向こうも同じだったようで、警戒は解かずにこちらへ向かって来た。


「…子供?」


「え?」


「なんでこんなところに子供が…」


「……罠?」


罠?最後の人が言ったことは理解できなかったが勘違いは訂正すべきだ。


「ちがうよー。わなじゃないよー」


現れたのは男女二人ずつの冒険者さんだった。


「君は…」


四人とも驚きすぎたのか固まってしまった。


「おはなしできるー?」


やっと人と会えたのだ。お話がしたい。

それに起きたときにはもう、うさぎさんの姿がなかったから少しだけ悲しかったのだ。


「あ、あぁ」


一番最初に我に返ってくれたのは、やはり最初に声をかけてくれた人だった。


「おにぃしゃんたちはだーれ?」


「俺らは冒険者をしている。どうして、お前みたいな子供がここにいる?」


「よくわかんないのー、きづいたらここにいたのー」


「え、一人なの?」


「おねぇちゃんがいるけど、いまどこにいるかわかんないなの。だからここでまってたの」


「そうか…」


発言を聞いて、四人がコソコソと話し出した。

時折聞こえてくる単語から想像するに、理麻をどうするのか話しているんだろう。


「ねぇ、貴方これからもここにずっと一人でいるの?」


「…おねぇちゃんがくるまではしょうなの」


綺麗なお姉さんは困った顔をすると、後ろの三人を見た。


「とりあえず、俺らはこれから食事なんだ。もしよければだが一緒に食べるといい」


「いいのー?」


そういえば、ここに来てから何も食べていないことに気づく。


「えぇ勿論。一緒に食べましょう」


「ありがとなのー」


冒険者さん四人は木の周りに荷物を置き、野営の準備を始めた。

理麻も何か手伝おうとするが、なにせこの身体なのですることがない。

することがないというより、出来ることがないのだが…


「ねぇリーここら辺、近くに川か泉あったかしら?」


「ん、あーそういや確認してなかったな。…足りねぇか?」


「そうね、ちょっと心もとないかもしれないわ」


「こういう時、水属性の魔法使える人いたら便利なのにね」


話を聞いていたら、水が足りなくて困っていたらしい。


「おねぇしゃん」


料理をしていたお姉さんの服の袖をクイクイと引っ張る。


「どうしたの?」


「おみじゅ、ひつよう?」


「え?あ、えぇそうね」


一瞬びっくりしたような顔をした後、困ったような顔で笑った。


「なにかようきほしいの」


「容器?」


またしても不思議そうな顔をされたが、上手く説明出来ないのでコクンと頷くだけにする。

お姉さんは不思議そうな顔をしながらも中ぐらいの大きさのお鍋を渡してくれた。


「はい、どうぞ。これで何するの?」


「おみじゅ、だすの」


質問に答えて、呪文を唱える。


「ヴァルア」


お鍋の中に八割ぐらい水が入った。


「おねぇしゃん、これでこまりゃない?」


「え、えぇ。ありがとう」


「どういたしましてなのー」


お鍋を受け取り料理を再開していたお姉さんだったが、突然…


「ってえぇ!?貴方、魔法が使えるの?!」


突然、驚かれて凄く困った。

余りにもびっくりしすぎたのか声も若干大きくて、こっちまでびっくりしてしまった。

他の三人の人も見ていたようで凄く驚いていた。


「しょ、しょうだよー?」


「リツ、リンネ、この子と話しをするから料理を完成させてくれ」


「わ、分かったわ」


それから少しだけ魔法についてお話をした。

その少しの時間で料理は完成したらしく、お話の途中で食事となった。


「はい。今日はもう遅いからこれ食べて早く寝なさいね」


「そうだな。話は明日でもいいだろ」


「ありがとうなの」


渡されたスープをいただきますと飲むと身体が温まった。

あまりに美味しくておかわりまでしてしまった。

お腹がいっぱいになったことで眠くなる。

ウトウトしていたら、優しく木の根元に敷かれた毛布の上に運ばれる。


「お姉ちゃん一緒に探してやるから安心して眠れ」


と優しく撫でられた記憶を最後に理麻は夢の世界へと旅立った。



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