俺は亜熱帯で遊べる!! ふつかめ!!

 HEY BOY? 

 HEY GIRL!

 俺はいつになくハイテンションだぁ!

 何故だか分かるかい? 


「分からなーい!!」


 いい返事だ!

 ならばこの俺が答えてやろう。


 ――おっぱいだ!!


 ……いや、失敬。これではお尻好きの諸君との全面戦争になりかねない。|

 おっほん、それでは言い直そう。


「「海だぁあああ!!」」


 男二人、浜辺に向かって走り出した。


 晴れ渡った空。そびえたつヤシの木。

 雪のような真っ白な浜に映えまくるエメラルドグリーンの海は、俺らを歓迎するように優しく波打っている。

 まさにこれぞ常夏の楽園。こんな絶景スポットなのに俺ら以外には数人ぽっちしかいない! ならば突っ込まずにはいられまい!! 

 こうして俺らは普段のテンションを忘れて海に飛び込んだ。

 ばしゃん!

 生ぬるい。しかし潮の生臭さなんてものはなく、まるで温水プールにでも浸かっているような心地よさだ。

 足の爪がはっきり見えるほど透明な海水はもはや浄水済みのようだが、少しばかり舌に乗せれば塩辛さが脳につんと伝わってくる。ここは紛れもなく海だった。


 名を、渡口とぐちの浜という。

 ホテルのある沖縄本島からさらに南下したところにある伊良部島いらぶじまにあるビーチだ。

 本島からさらに南下してるだけあって海の透明度と砂の白さはもはや常世とこよのものとは思えないほど。綺麗な海を常日頃から見ている本島の人でさえ憧れているという。


「いやマジで綺麗だなー! ちょっと感動!」


 熱海は大はしゃぎで筋肉質な身体を器用に動かして遊泳している。

 ……ふっ、甘い。甘すぎる!

 俺らはふたりで海に来たんじゃないんだぞ?


 俺はささっと浜に戻って、近くの小屋で借りていたビーチパラソルをセッティングする。

 なんのためかって? そりゃあ――


「はぁ……あんまり露出したくないんですけど……」


「何言ってるのよ真理ちゃん! スタイルいいんだから見せなきゃ損よっ!」


 Oh my GOD.

 俺がゼウスなら白い牡牛になって君たちを攫ってしまいたいよ!


 ……落ち着け俺。流石に今のテンションはおかしい。

 いやでも無理だよ学校が誇る美少女二人の、しかも水着姿を前にしてテンション下げろだなんて。


「お~ハヤト君、ありがとー」


 声をかけてくれたお姉ちゃん先輩は正直おっぱい(意味不明)。

 きらめくような肌とかいろいろあるんだけど、どうしても胸に目がいってしまうのはどうしようもないだろ!?

 先輩のオレンジの髪――今は編み込んでポニーテールのようにしている――に赤を混ぜた色合いのシンプルなビキニに包まれて――というか若干はみ出ているスイカ級の巨乳のインパクトはすさまじく、数少ない観光客もまさに釘付けと言った状態だった。歩くたびにたぷんたぷん揺れてるんだもん。まじ災害レベルだって。

 伊東、ちょっと前かがみに変形する。ここで元気になるのはヤヴァイ。


 ふぅ、一旦城崎の胸で落ち着こう。

 あー安心す――。


「ほんと最低だと思うんだけど。びっくりだわ、人ってこうも簡単に失望できるものなのね」


 視線を徐々に上げていくと、ジト目で俺を軽蔑する城崎の顔がみえた。


「……申し訳ない」


 謝るついでに城崎の全身をチェーック……!


 白いシャツで上半身を隠しつつも、お腹上部でシャツを結ぶことで、へそチラを忘れない素晴らしいコーディネート。

 胸はともかくスレンダーなモデル体型だけあって、まるで芸術作品のような肢体に、興奮を忘れてそのまま見惚れてしまう。


「……な、なによ。そんなじろじろ見て」


「あ、いや、綺麗だなって思って」


「ありがとキモい」


「最後の言葉要らなかったじゃん!」


 と、俺が前かがみで突っ込んでいると、海から上がってきた熱海が鼻血を垂らしながら


「城崎さん。まじで結婚してください」


 そう叫んで土下座した。


「太平洋泳いで横断してきたらいいわよ」


「うっしゃあああ!!!」


 熱海、雄たけびを上げながら再び海へとダイブ。クルーザー並みのしぶきを上げて外洋へと突き進んでいった。


「……おいあいつ目が血走ってたぞ」


「……?」


 私何も言ってないわよアピールすんなよ。あいつが哀れ過ぎるだろ。

 と、俺が海に哀悼を捧げているとお姉ちゃん先輩があっと声を上げた。


「日焼け止め塗るの忘れちゃったわー! ハヤト君、頼めるかしら?」


「え」


 お姉ちゃん先輩は俺に日焼け止めのボトルを手渡すと、ビキニの紐を解き白い肌を露わに――。


「破廉恥ですよっ!」


 なんと、城崎が顔を真っ赤にして俺の目を塞ぎに来た。

 真っ暗になる視界。


「おっ、ちょ、うわっ!?」


 結構な勢いで飛び込んできたので衝撃を吸収しきれずに、どさりと砂の上に倒れ込んでしまう。

 城崎を巻き込んで。


「…………っ」


 彼女の吐息がすぐそばで聞こえた。

 彼女の体温を、鼻先で感じる。

 未だ光のない世界で、彼女の存在だけが確かで。

 心臓の音がうるさい。

 はやくどかないと迷惑だと思うんだけど、どうしても俺は目を開けたくて。

 触れてしまうほど近くで彼女を見てみたくて。


 目を開けた。

 例えようがないほどに美しい紅をした瞳の中に、俺がいた。

 それに気づいたとき、俺は反射的に飛び退いた。


 ――しかし、何を思ったのか、城崎は、遠ざかった俺を追いかけてきて、俺を浜に押し倒した。


「……おい……おまえ……なにを……」


 すぐ眼前に、彼女の端正な顔がある。切り揃えられた黒髪が垂れてきて、俺の頬をくすぐる。

 吐息にはもっと熱があった。

 もう心臓が散り散りに爆散しそうだった。

 意味が分からない。なんでこいつがこんなことをしているのか。

 意味が分からない。なんでこいつがこんなに綺麗なのか。

 熱暴走した脳みそじゃ何もわからなくて、なされるがままに見つめられ続けること十数秒。

 城崎のしっとりとした唇がゆっくりと動いて、言葉を紡いだ。


「――あなた、綺麗な目、してるのね」


 それだけ告げて、城崎は俺のそばからいなくなった。

 俺だけ取り残された時間で、彼女の言葉が押し寄せては引いていた。


 

 

 

 

 

 


 


 


 



 


 

 





 


 


 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る