俺は友達を作らせたい!

「ということで始まりました第一回友達作ろうぜ会議。全ての問題の生みの親である先輩が不在という最悪なコンディションですが、司会進行伊東でお送りしていきたいと思います……ということでですね、早速話し合っていきたいと思いますが、当事者である城崎さんから何かないですかね」


「……あなたは一体何をやっているの、置き型マイクまで用意して」


 城崎は文庫本を閉じて、呆れたように言った。


「高校生二人が真剣に友達作りを討論してるこの状況を少しでもマシなものにしようとしたんだよ。お前は恥ずかしくないのか? よく堂々としてられんな」


「恥ずかしいわよ!」


 俺の視線を避けるようにそっぽを向く城崎。

 どうやら相当に恥ずかしいようだった。


 どうしてこんな悲惨な状況になっているのか。

 五限の授業中、隣の城崎こいつからとあるラインをもらったことからはじまる。


『友達ってどうすればできるの』


 あまりのイタさに俺は演劇部からわざわざこのマイクを拝借して部室にこんなふざけた場をセッティングしたというわけだ。

 真剣に話してられるかよ。笑いが止まらなくなるわ。

 しかしいつまでも笑ってはいられない。こいつに友達が出来なきゃ俺まで留年なのだから。


「それにさぁ、相談する相手が俺って時点でもう悲惨だよな」


「しょうがないじゃない。友達候補に『友達って何』なんて質問できないわよ」


 俺は候補ではないからOKというわけだな。

 まぁ、それが当然な気もするが……俺やっぱこいつに嫌われてるらしい。疑念が確信に変わった。


「普通にその流れからも友達になれそうだけどな……友達いないから困ってる、なんて言えばお前なら一撃で友達作れると思うぞ。男ならなおさら」


「そういうので作るのって、なにか違くない?」


「お前無駄に理想高いなっ!」


「え、そうなの」


 本人、すごく意外そうな顔。

 マジで笑うからやめてくれ。正月に小学生の親戚を相手にしているような気分になるからその純真無垢な瞳で見つめないでくれ!


「……それ恋人作るときにみせる理想だぞ。お前は友達作りなんだからもっと基礎レベルからだ。国語で言えば『スイミー』あたりから」


「『ちいちゃんのかげおくり』じゃないの?」


 こいつ自覚あんのか? 自分が結構やばいとこにいるってこと。


「……とにかくまず他人と一緒に行動するところから始めないと」


「嫌よ」


「じゃあ留年してもいいのか?」


「それも嫌よ」


「お子ちゃまか」


 しかしひそめられた柳眉りゅうびを見れば、こいつが本気で嫌がっていることが容易に想像できた。

 たしかにこいつは普段他人を寄せ付けないようにふるまってはいるが、かといって他人を嫌っているというわけでもなさそうであった。まぁ俺に関しては分かんないけど。

 だからこそ、


「城崎はさ、なんでそんな一人でいたいわけ?」


 そんな質問に城崎は淡々と答えた。


「一人にしかなれないからよ」


「いやその件はほんとごめんって……」


 本当に申し訳なく思ってるんだから。


「ま、それも事実と言えば事実だし。それに一人の方が気楽でしょう? 自分のことだけ考えていればいいのだし、他人ひとから傷つけられることもない。逆に私が――」


 何かをいいかけて、やめる。


「とにかく一人の方が楽なのよ」


 それはよく聞く『おひとりさま』の台詞だ。

 俺もどちらかといえば群れるよりひとりでいたい派だし、その言い分も分かるのだが。


「でもやっぱ他人といるのは面白いよ。一人じゃ見つけられなかった楽しさってのは絶対にあるし――って別にそんな結果的な動機は今はいらないか」


「……言いたいことは分かるわ。私もに興味がないわけじゃない。あなた、熱海君とバカしてる時が一番楽しそうに笑ってるし」


 自分でも意外だった。

 あいつと話しているときそんな笑ってたのか。 


「そうかね。俺は美少女とこうして会話してる今の方がよっぽど充実してる気がしてるけど……まぁたしかにあいつとは結構長いからなぁ。でも俺とあいつだっていつも一緒にいるわけじゃないし……だとするとまずはお前に合いそうなやつを探すところから始めた方がいいのかもな」


 人にはやはり相性というものがある。会いたいときに会えて、それ以外はほどよい距離を保てる、そんなひとがこいつにはお似合いなのかもしれない。


 そうして後日、俺と熱海が見繕ったのは鳥羽とばみどりという同級生の女子だ。

 黒髪を後ろで結んだ、落ち着きのある、大人しい子だ。きっとこういう静かなタイプが城崎にマッチするだろう、という考えだった。


 城崎は乗り気ではなかったが、友人は自然発生するものではない。ここは積極的にいこうという説得に応じた彼女はいま、鳥羽と一緒に教室に二人きりだ。

 ちなみに俺が放課後鳥羽にプリント配布をお願いして、そこに城崎が入室してきたという設定だ。

 企画立案の熱海と補佐の俺は、通話状態で机に忍ばせたスマホ越しに様子をうかがっていた。


『……なんでわざわざ他人の、しかもあいつの頼み事なんて受けたの?』


 いやいや、会話の入りおかしくないか?

 隣の熱海は耐えられないといった様子で笑っていた。


『え……だって伊東くん困ってたし』


 困った様子ながらも、鳥羽は素直に答える。

 心が痛かった。

 しかしこれは彼女の良好な人間性が出た良い展開だ。

 城崎もきっと鳥羽はいいやつだと認めたことだろう。ならばさっさと――。


「無理よ」


「うぉお!?」


 教室にいるはずの城崎が背後から声を掛けられた。


「なんでここにいんだよ」


 俺は少々キレ気味で言った。


「あんないい子、友達には出来ないわ」


 俺は熱海と顔を見合わせた。


「「どういうこと?」」


「どうもなにも、そういうことよ」


 ということで結局鳥羽との縁談は破談になった。

 その理由が結局明かされることは無かった。


 


 


 

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