まさかの展開に追いつけない!!
「こんな別れ方、乃々お姉ちゃんが許しませんっ!」
頬を膨らませた先輩が俺と城崎の頭をコツンと叩く。
「二人ともそんな言い方したら、めっ! 感情的な争いは何も生まないの! ほ~ら、お互いに謝るの!」
「……私は事実をただ言っただけ――」
「知らない方が良い事実もあるのよ真理ちゃん。盗撮されたことなんて知らない方が幸せでしょ?」
「先輩例えもうちょっと考えてください」
それに誰のフォローにもなっていない。
「とにかく、お互いに謝るの! お姉ちゃんが見ててあげるから」
立ち去ろうとしていた俺をくいっと引っ張って城崎と向い合せる。彼女の頬には未だ涙の軌跡が残っていた。
……ありがとう、先輩。こんな俺に機会をくれて。
「……ごめん、城崎。ちょっと言い過ぎた」
謝罪の言葉と共に頭を下げる。
するとするりと、城崎の手が伸びてきた。
仲直りの握手だろうか。
「慰謝料」
「さてはお前ちっとも反省してねぇな⁉」
図太すぎんだろこの女。
しかし、しばらくすると、
「……ご、ごめんなさい……私も、少し核心を突きすぎたわ……」
伏し目がちに、ちょこんと頭を下げた。
こいつにもわずかながら人の心が残っていたらしい。
「もう、真理ちゃんたら。真理ちゃんが意地を張るなんて珍しいねぇ。自分が非があると思ったらすぐに謝る子だったのに」
「それは今も変わらないですよ先輩。ただこいつに頭を下げるのが嫌だっただけです」
「そんな特別扱いいらねぇよ……」
というわけで、俺らの仲違いは数分で終わったのだった。
*
翌日、再び放課後部室にて。
机にあるのはティーカップではなく茶瓶と茶碗の和のセット。美味しそうな桜餅付きだった。
「そういえば先輩と城崎って結構仲いいですよね」
昨日も城崎のことを前から知っているような口ぶりだったことを思い出してのことだ。
「中学校同じだったのよ~。それに同じ部活だったしね」
「へぇ~。中学のこいつどんな感じだったんですか?」
そう聞くと、先輩は昔を思い出すように天井を見上げた。
「そうね~、正直変わらないかな~。思ったことをすぐ口に出しちゃうのはずっとだよ。あ! でも中学入学したての頃はもっときゃぴきゃぴしてたかも!」
何それ気になるジャーナル。
「せ、先輩……その話はやめてください」
普段感情を顔に出さない城崎がもじもじとし始める。
これはこいつの弱み握れるチャンスなのでは!
「これはもっと喋ってという前フリです。安心して喋っちゃってください」
「耳に指突っ込まれたいの?」
「何その新しい
結局城崎の必死の抵抗によりこいつの過去が明かされることはなかった。
でもこういう話って結局明るみにでるよね。
「ぜーはー……ぜーはー……騒ぎたいだけなら……は、はやく帰りなさいよ……!」
抵抗の代償として、城崎の肺は酸素を欠乏していた。
そんなに黒歴史なのか……後で色々調べてまわろっと。
「それなんだけどさ、俺めちゃくちゃ暇なんだよ」
「邪魔」
「休日の妻の感想やめてくれよ。結構傷つくんだぞ」
「私は一人がいいって何度も言ってるじゃない」
「確かにウルトラつまらない俺といるのは苦しいかもしれないけどさ――」
――ピピーッ!
突然、部内にけたたましいホイッスルの音が響く。
え、なに。
二人して目を丸くしていると、
「二人とも今のはイエローカードっ!」
「すみません洋ゲー並みの説明不足で事態が把握できないのですが」
「お姉ちゃんは昨日決意したのです! 二人を立派な大人に育て上げると!」
そう高らかに宣言してグッと拳を握り込む先輩。なにやら瞳が決意の炎に燃えている。
こんな台詞実の母親からも聞いたことないぞ。
「というわけで、二人にはこの一年で色々と成長してもらいます!」
まさかの宣言に、あの城崎でさえあっけにとられた顔をしている。
「……それはどういう?」
「ハヤトくんっ!」
勢いよく指を差されたもので思わず「はい!」と返事をしてしまう。
「ハヤトくんはもっと自分に自信を持つこと! お姉ちゃんは聞きました……入学式の時に自撮りを嫌がったということを! なのでハヤトくんには!」
ビシリ!
「嬉々として自撮りが出来るようになってもらいますっ!」
「……マジですか」
首を横に触れないほどの勢いに圧倒される。
「出来なければ留年です。お父さんは県の教育理事長ですので」
……冗談だろ?
救いを求めるように城崎を見る。
「……(こくり)」
マジなようだ。
いやマジなの、え?
「そして真理ちゃん!」
先ほど動揺指を差されて背筋を伸ばす城崎。
「真理ちゃんには人の心が分かるようになってもらいますっ! ですので!」
……すげぇ悪口じゃんそれ。
ビシリ!
「自分で『あなたとはお友達だ!』と大声で叫べるような友達を作ってもらいます!」
「……は、はい……」
さしもの城崎も白浜先輩の圧倒的速度には追い付けないらしい。
見事に死んだ魚の目をしている。
この先輩、さては大物政治家のたまご……?
「出来なければ留年です。お母さんは文科省のお役人さんですので」
城崎を見る。
「……(びくり)」
マジらしい。
城崎が生まれたての子鹿のように震えていた。
おいなんだこの状況。幻覚か、そうだよな!
脳内に糖分が足りないのかと思い餅を食すが、額に貼られたイエローカードは消えないままだった。
昨日までの落ち着いた感じの青春ドラマはどこいったんだよ。
「二人とも、分かった? どっちかが達成不可能だったなら連帯責任だからね!」
「「は、はい……」」
俺は自撮り。
城崎は友達作り。
こうして問題だらけの高校生活が始まった。
……ほんとに始まるの……?
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