貼る話
私にしてみれば、いつも通りの1日です。たとえ今日が年に1回の行事の日で、正月にすら会わないような親戚が一堂に会する日だとしても、「過去のその日と違わぬ行動」を皆がとったのであれば、それはいつも通りの日と見なせるのです。
まあ、俗に言うとバカ騒ぎですよ。
1年ぶりの友人(遠すぎて親戚という気がしないのです)との再会で得られる感慨は、休日特有の気の緩みと酒によって増幅され、そうして──
──
というわけで、潰れなかった人──主に私たち子世代(もれなく成人済)──が出荷&撤収作業に取りかかります。
空き皿、空き缶、グラスに割り箸。ありがたいことに、この家の男の人たちは基本的に大食漢なので、食べ残しというものは出てきません。
いとこたちが和気あいあいと皿を洗いグラスを拭い、箸をゴミ箱に投げ入れ机を運ぶ、その横でひとり淡々とビール缶を縮める私。暗い。暗すぎです。
……突然ですが
……ああ、
「あいたっ」
左手からぷすりという擬音が。
「んま」
手のひらの赤い膨らみがだんだん大きさを増しています。缶を見ると、力を入れ過ぎたのか破れて尖った部分が目に入りました。
ぞんざいな仕事のツケがこうもあっさりと返ってくるとは。自分の短絡さが嫌になります。
「しかし、うーん」
絆創膏なんて持っていませんし、それにまだ作業は終わっていないのです。困りました。さすがにこのまま作業するというわけには。
逡巡と葛藤で固まる私の視界に、ふと影が差します。そちらを見やると、
彼はちょい、と眉を上げて、そのまま早歩きでどこかへ行ってしまいます。え、と思うのも束の間、カバンから出したらしいポーチを片手に戻ってきました。
女子力におけるまさかの敗北に再び固まる私の目の前には、茶色く、楕円形で、薄っぺらい物体。商品名の方が有名なアレです。
「ほいどーぞ」
「どーも」
さすがに従弟ともなれば気安いもんです。彼とは年に1回とは言わず、何回も会いますし。
皿洗いの現場に割って入り、蛇口をちょっと譲ってもらいます。
溜まってきていた血を一旦リセットして、傷口まわりの水気をティッシュで取る。絆創膏の裏紙を半分剥がし、ガーゼの部分で傷口を覆えるようにまっすぐ貼ることを意識して──
……失敗しました。絆創膏が折れ曲がってよれよれに。これでも役割は果たしているのですが、見た目がね。ちょっと。
それにしても、私って絆創膏使うのこんなに下手でしたっけ。そう思って最近の自分を振り返ると、絆創膏を『貼る』経験を近頃全くしていなかったことに気付きました。
膝とか、二の腕とか、そういうところにケガをしなくなったみたいなんです、わたし。
絆創膏を貼った左手を軽く見上げながら、考えます。絆創膏を貼るなんて、いつからやらなくなったかなー。最近は専ら指先に巻き付けてばかりでしたから。
そんな感じで感慨に耽りつつ机まで戻ると、もうそこに潰され待ちの空き缶は居ませんでした。すれ違うように机を離れていくのは、両手に輪っかの跡をつけた
踵を返して再び流し台に向かいます。その足取りは、自分で言うのもなんですが、随分と楽しそうなものでした。
でも足だって軽くなります。なにせ今日は、ちょっぴり『非日常』でしたから。
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