第一幕 救出
天井が崩れ、大きな瓦礫が頭部に当たる。
強い衝撃に脳が大きく揺れ、視界が反転する。
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その後、意識が回復するまで一時間ちょっと。
視界がおぼつかないが、一命をとりとめたらしく、瓦礫から体を出す。
周囲をゆっくりと見まわしてみると、その惨状には言葉を失った。
家屋は原形残さずして木材が至る所に破材として散らばり、その木には所々赤い染みのようなものも見える上に、もともと道だった場所には大きな足のクレーター。
そして、クレーターの中心には平らになった人型の姿があった。
「なんだ・・・これ」
思わずそんな言葉が出てきてしまう。
地下にいくら長い時を過ごしたとて、この景色が以上であることは理解できた。
「おい!大丈夫か!!」
少し離れた場所。後ろの方から中年の男性の声が伝わる。
瓦礫に足をとられつつ、その声のした方へ進む。
「!?人外・・・いや。この際どうでもいいな」
男性はどうやら兵士などではなく農民のような服装。どこかの救助隊ではない姿をしていた。
そして、近づくとなにやら一瞬困った顔をするがすぐに表情を険しいものに戻し、手招きをしてきた。
「俺はシルワ。ここから少し行ったところにある村に住んでいる。いろいろ事情はあるんだが・・・あとで説明する。歩けるか?」
「あ、ああ。歩けることに問題はないが」
「ならいい。俺はこの子を担がないといけないからな」
そう言ってシルワと名乗った男性は少しとでも均したのであろう瓦礫の上に寝かせていた少女に目を向ける。
「いいか。俺の側から離れるな。まだウェーブⅡが過ぎたばかりだ」
少女を担ぎ、村の方向へと体の向きを変えたシルワが顔を合わせずに、指示を出す。
ウェーブが何なのか分からなかったが、この惨状を作り出した原因なのだと推測し、無言でうなずくとシルワは「よし」と短く意気込み、瓦礫に足をとられることなく進みだす。
それから村までは長いと感じず、すぐにたどり着いた。
「ここまできたら一安心だ。ここは襲撃を免れた村の一つで、首帝都から仮救出隊本部にされている。この後お前らを一度、ここの病院に向かって治療を仰いでもらう。とりあえず行こう。この子がまだ意識を取り戻していないしな」
村の簡素な門をくぐり、砂利を少し敷いたテキトー道路を歩みながらシルワは最低限必要な情報を話してくれた。
どうやら、その病院というのも仮のもののようで、連れて行かれたのはただの古民家であった。
「二名。救護頼みます。片方人外のハーフ」
そう、シルワが戸を開けた先で声を出すと、遠くの方から年老いた老人がやってきてシルワに一礼したのちにシルワの背中にいる少女。そして視線が合わさる。
「かしこまりました。しかし、人外のハーフ・・・はどういたしましょう」
「どうやら彼は特に深刻なダメージはないかと。所々の切り傷だけ、消毒などをお願いします」
「・・・少女の方は?」
「まだ意識が。どうやら飛んできた瓦礫が頭に当たったようで、外傷を治療してあとは安静でお願いします」
的確。とは言えないが、シルワの持つそれなりの医学知識をもってして老人へ伝えると、老人は片手で軽々しくシルワの背中にいた少女を抱きかかえ、空いた手で手を指し伸ばしてきた。
少し、老人の怪力に驚愕し身がすくむと、老人は柔らかな表情を浮かべ再度、体を落として手を差し出してきた。
恐る恐る、手を取ると家の奥へと引き連れられていくのだった。
ふと後ろを振り返ると、シルワが一仕事を終えた疲れを多少なりとも減らそうと肩を回していた。
目が合うと、顔を一瞬拍子抜けたような表情を見せたすぐあとに微笑みを残し、扉を開き外へと出ていった。
ほんの少し見えた空は夕焼けの赤色が鮮やかに写っていた。
その色に頭の中に強く残っている、先ほどまでいた場所の至る所に付いていた赤黒い色との対比が過ぎってしまい、少し気分が悪くなる。
未だここがどこなのか、自分が何なのかは不明なうえ、地下にいた理由も分からないが、とりあえずは安全を確保できる安堵に浸ることにした。
そして、病室に移されたとき隣のベッドにあの少女がいたのは何かのフラグなのかもしれないなと思いつつ、この日は眠ることにした。
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