第44話 少年、神の船に乗る
高久は旗が見えると、ぶんぶんと手を降った。
「あーもーっ、早くしろよーっ。待ち合わせに遅れんなよなーっ!」
走っているつもりのようだが、どすどすという感じで毘沙門天が歩ってくる。
「・・すまなんだ・・・・。なかなか捕まらなくて・・・」
よく見ると、赤い紐を付けられた猿が肩に乗っていた。
「なんだこの猿?」
「いやあのな、ほら、来年申年だろ。今年は儂が連れてくる約束でなあ」
「・・・つーかこんな野猿、無理だろ・・・」
相当暴れまくったらしく、毘沙門天の体中に引っかき傷だの咬み傷がある。
「とっ捕まえるのに時間かかるし、捕まえたと思ったらこの有様だし・・・いやはやまいった。ほれ、子猿、食え」
懐からでかい蜜柑を差し出すと、猿は素早くもぎ取りかぶりついた。
気づくと、港が目の前に広がっていた。
紺碧の青、黄金の波。
巨大な船が、音もなく現れた。
「お。来た来た」
七色の布が下された。
「七福神が乗る宝船じゃ。見事だろう。そなたのことをお願いするのにぴったりなキャスティングなんじゃ。ちょっと待っとれ」
猿を持ち上げて、高久に押し付ける。
「うわっぷ。・・・うわわわっ、暴れんなっ」
猿は五十六の髪を引っ張ったりやりたい放題だ。
なにせ船体がでかいからよく見えないが、上の方に人影が見えた。
遠目にだが、女性がこちらを覗き込んでいた。
この世のものとは思えぬ、ものすごい美人。確かにこの世のものではないのだろうが。
毘沙門天から今までの顛末を聞いているのだろう。
「誰かにバレたらヤバいってビクビクしてたくせに、いいのかよ。喋っちゃって」
ちょっと猿も慣れてきて、高久の頭の上に乗って居眠りをし始めた。
しばらくすると、毘沙門天が降りてきた。
「ひとまずOKじゃ。そなた乗せて行ってやる」
「えっ。いいの?!」
「大サービスじゃ。おっかない女神様がいての、最後まで面倒見ろの、男はこれだから無責任だ。男なんて野良犬よ、とか・・・えらい剣幕だったが。・・・ま。我々でなんとかしようということになった。どれ。早ようせよ。我々もおぬしも急がねば間に合わんわ」
高久は七色の布にしがみついた。
女神が、夢のように美しい顔をこちらに向けて、さっさとしろと腕を振り上げている。
「怖いおばちゃんとか言ったら、お前どつき回されるから、黙ってろよ」
「・・・うん」
高久は、風もないのにはためく七色の布の端をつかんだ。
波に反射した光が眩しい。あの光の向こうに、行くのだ。
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