第40話 女教師と少年、己を取り戻す
「今日、都内の海天堂病院で落雷があり、一時、施設内の電力がストップしましたが、間も無く復旧しました。混乱もなく、現在は収束しています」
テレビから、夕方のニュースが流れていた。
廊下を電気設備やシステムエンジニアの業者がばたばたと走っていくのが見えた。
環は、半分眠ったような状態で、ベッドに寝そべっていた。
「いった・・・っ」
つま先に激痛が走って、足を引っ込める。
「・・・あ、すみません・・・」
青柳が慌てて手を離した。
あ、いえ・・・こちらこそ・・・と、環は頭をちょっと下げた。
「・・・ああ。ひどいな。爪が割れちゃってる・・・。これって、一回全部剥がした方がいいかなあ・・・うう・・痛いだろうなあ・・・激痛ですよ、これ剥がすの・・・」
環はええっと小さく悲鳴を上げた。
看護師長が、患者怖がせてどうするんだ、という目で青柳を睨みつけた。
「環先生、いっくんね、さっき目が覚めたの。先生の事言ったら、会いたいって。車椅子で行ってみますか?」
小さい頃から高久の事も知っている彼女は、何かと親身になってくれていた。
「・・・はい」
環は頷いて、体を起こした。
姿見に映った自分の姿に、環はしばらく見入っていた。
自分の、元の体に戻っていた。
懐かしくて、同時にちょっと怖かった。心許ない感じがする。
・・・高久もきっとそうだろう。
青柳に車椅子を押されて、そっと高久の部屋を覗いた。
「よっ」
と声をかけられて、環は拍子抜けした。
まだ体は起こせないようだが、声には張りがあった。
青柳が車椅子を高久の顔が見える場所に移動した。
「無理しちゃだめだよ、いっくん」
早速、コーラが飲みたいだのプリンが食いたいだのわがまま三昧を言って、一三がパシリに出されているようだ。
結局は落雷の影響なのだろうか。
一瞬誤作動した心肺蘇生機が、機器能力を超えて出力最大限となり、高久と環の全身を貫いたのだ。
麻酔で寝たはずの環がベッドの上で目をさますと、足が血だらけになっていて、驚いて体を起こすと、それが本来の自分の肉体であることに気づいたのだ。
そして五十六も。目をさますと、体は動かず、ベッドの上にいた。
呼吸器に酸素が取り付けられ、息苦しい。
父と兄の自分を呼ぶ声と、駆け付けた青柳の顔を見て、どうやら体に元に戻ったのだと悟った。
環も五十六も、あの落雷は、毘沙門様の仕事なんだろうと確信した。
手術は成功、蘇生も成功。
環は両手で顔を覆った。
「・・・・高久、よかったね・・・」
環はそれだけ言う事が出来た。
「・・・今かよ。・・・受験、どうしよう・・・」
すっかり環にやらせるつもりでいたもんだから。
そう言うと、高久は笑った。
あんた、これからの人なんだから。大丈夫。
「大丈夫。なんだってできるよ・・・」
環はまた顔を覆った。
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