第39話 命の雷
陸橋を駆け上がった。
昼休みに、ちょっと心配になって一三に連絡してみたのだ。
ラインで簡単に、やり取りをしていたのだが。
無事に手術が終わった、と返事が来て、ほっと胸をなでおろした。
その三時間ぐらいした頃に、心音が止まったと連絡が来たのだ。
・・・・何やってんだよ、ヤギ!何やってんだよ、先生!
小雨が降っていて、身体中湿っていた。
空が暗くて、暗くて・・・怖い。
構わずに、高久は病院敷地の生垣を飛び越した。
ここが一番近道だ。子供の時から変わらない。
このまま裏口から売店の脇を通って、ゴミ箱二つ越えて、階段抜けて自動販売機を曲がって・・・。
病室まではすぐだ。
病室から、人の声が聞こえてきた。
ああ、これ・・・・ヤバいやつだ・・・。
足もガクガク、呼吸するのもやっとだったが、五十六はもつれる足を必死に動かした。
廊下の長椅子に、一三の姿が見えた。
手を貸そうとする一三を振り払って、五十六は病室に向かった。
走り過ぎたからか、それとも緊張感でか、吐き気がした。
「出力上げて」
青柳の声がした。
焦っているのがわかるが、静かではっきりした声だ。
感情を抑える時、いつもこんな声してた。
子供の親に、死亡を宣告する時とか・・・。
ベッドの上の自分の体が、びくりと動いた。
衝撃は確かに走っているのだ。
普通なら飛び起きるだろうに、しかし、反応はない。
本当に、心臓が止まったんだ・・・。
高久は手の指先が冷たくなるのを感じた。
指先が震えた。
「開胸して、心臓に直接・・・」
言われて、麻酔科が頷いた。用意する為に振り返って、侵入者の存在に気づいたようだ。
今。今手術して閉じた傷、もう一回開いて心臓引きずり出すのかよ!
こいつ、ババアのくせに・・・他人の為にこんなことして・・・。
五十六はベッドに駆け寄った。
「ご家族ですか?外で・・・」
麻酔科医が、肩を掴んだ。
騒ぎに顔を上げた青柳と目があった。
「・・・・環先生・・・!?」
五十六はそのまま青柳に突進していた。
同時に、照明がついたり消えたりして、爆音が轟いた。
鼓膜が破れるかのような。爆発でもしたのかと思うほどの音だった。
閃光が何度も空を切り裂いた。
まるで飛行機が落ちたかのような・・・。
あちこちから悲鳴が聞こえた。
「ぎゃあああああっ」
という、廊下の一三の一番大きな悲鳴に驚いて、五十六はベッドから覗いている足に触れた。
「たっ、環さん、触っちゃダメ・・・」
え、と高久が顔を上げた時、体に冷たい光が走った。
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