第22話 余裕の武士遺跡 モノノフ
古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型のものから、消しゴムのような小さなものまで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。
しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。
これはそんな者、トレジャーハンターの物語であった。
――武士遺跡 モノノフ
ザシュッ。
ソロでトレジャーハンター活動している希少な存在、刀使いのサクヤは愛刀で一閃。目の前にいる樽型の機械切りつけた。
「どうやらこの勝負、私の勝ちのようだな」
『ヤブレタリー……』
バタッ。
場所は武士遺跡モノノフの中の、試合の間。サクヤは最奥に眠るスフィアを賭けて、ガーディアンであるロボット達に戦いを挑み、勝利した所だった。
「次は、九百五十六体目……。だったな」
板づくりの扉が開いて、同じ様な外見のロボットが出てくる。
『テアワセ、ネガウ。イザ、ショウブ』
扉の向こうには同じ様な見た目の四十四体の機械が、わんさか蠢いて自分の出番を待っていた。
サクヤの目標、ガーディアン千体撃破。
「うむ、ゆくぞ!!」
キンッ キンッ カンッ
『ヤブレタリー』
バタッ。
倒れた樽型のロボットは、すごすごと観戦者になっている九百五十五体の集団に加わっていく。
「うむ、いい勝負だったな。次は九百五十七体目か」
と、サクヤは額に滲んたちょびっとの汗をぬぐう。
「さすがに、少し疲れたな」
少しどころではない物量攻撃の最中にいる、人間のセリフではなかった。
「あ-はっはっは。間抜けなことだ! 隠し通路さえ見つけてしまえば、そんな無様な手合わせなどせずとも、こうやって簡単にスフィアが手に入るというのに!!」
試合の間の奥に飾ってある掛け軸がめくれて一人の男、暗黒団の悪人が姿を現した。
その手には、この遺跡のスフィアらしき刀が握られている。
「む、あやつは白雪遺跡にて近隣に迷惑をかけ続けたという悪党ではないか。まずは、同志ニャモメ団から、いつもいつも悪事働いちゃってさあ、てめー覚えとけよぶっ殺す……というたぐいの伝言を預かっておる事を知らせておこう」
サクヤは律儀にも一字一句そのままに、脳内預かりもの欄に収納していた伝言を伝える。
あえて誰が言ったかは、伝えない。たぶん分かるから。
「しかし関心せぬな。労せず宝を手に入れるとは、貴様それでもトレジャーハンターか。血反吐もはかずに宝にありつこうと、軟弱な精神の持ち主だな。同志の恨みもある事だ。少し、灸を据えてやろう」
血反吐を吐くような苦労をして遺跡を回っているらしかった。
サクヤには、トレジャーハンター活動が=(イコール)で苦労につながっていなければならないものらしい。
「ふ、私は今気分がいい。忌々しい二ャモメ団に赤風団のガキ共等に、射撃されたり燃やされたりせずに宝を手に入れられたのだからな。特別に相手をしてやろう。この刀のサビにしてくれる、小娘」
スフィア片手に戦闘を回避してこそこそ動き回っていただけの事を、格好をつけて話す悪人。
「ふ、大した自身だ。さぞ、名のある強者なのだろう。こちらこそ手合わせ願おう。いざっ」
その格好つけを真に受けるサクヤ。
「とうっ」
「ぷぎゃ、こ……、これはやられているのではない。……やられてやっているのだ……! ぐほっ!!」
「貴様、あえてやられたフリとは、よほどの余裕の持ち主のようだ。ならば本気にさせるまで! せいっ!!」
「あぶべっ! ぐべしっ!」「ぐほげっ! ぶげらっ!」「ひげぶっ! ごげしっ!」
サクヤの勘違いは、隙を見て悪人が逃げ出すまでおよそ半日ほど続いた。
『ノコッタ、オタカラ、アゲマス……。カンベン……』
その様子を見て、機械のはずのガーディアンが震えていたのは、サクヤも悪人も知らない事だった。
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