第16話 気合の火口遺跡 マグノリア



 古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型のものから、消しゴムのような小さなものまで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。

 しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。

 これはそんな者達、三人のトレジャーハンターの物語であった。





――火口遺跡 マグノリア


 火山地帯の火口の中に存在する火口遺跡マグノリアにトレジャーハンター三人組、キャモメ団はいた。


「あっつー、何この暑さ……生物が生きていける暑さじゃない。無理、耐えらんない。窓から煮えたぎるマグマを眺めながら探索しろって無理でしょ。何か一発で涼しくなるスフィアとか無いの?」


 人目もはばからずミリは、耐えられないとばかりに服の襟元にばたばた風を送り込む。


「気合いだよ。ポロン気合いで頑張れば何とかなると思うよっ!」


 精神論で乗り越えようと、ポロンちゃんは熱い環境の中で進んで熱くなろうとする。


「そう言ってるポロンちゃんもすごい汗だよー。熱中症一歩手前って感じー。残念だけど涼をもたらすスフィアは無いんだよねー、もぐもぐ」


 ケイクは、まったく残念そうではない口調で、最後に咀嚼音を付ける。


「もう行くのはゴメンだけど、この前の遺跡は涼しかったのに……」

「閉じ込められた魂さん達、自由にしてあげられてよかったねっ!」

「スフィアをあんなことに使うなんてねー。びっくりだよー。体があったら、何とか成なったかもしれないのにー、どこにいっちゃったんだろうねぇー」


 精神的に涼しかかった前の遺跡の話で、涼をとろうとの会話だった。


「ちょっとこら、何食べてる。仕事中の飲食禁止って言ったでしょ。セツナさんの監督で誓約書を書かせたの忘れたんかい、またそんなに持ち込んで……」

「あははー、だってせっかく暑いところに来たんだから、激辛系のお菓子食べたくてー」


 ケイクが腕に抱えてる大量のお菓子。パッケージは全部赤系の色調だ。


「フツー逆でしょ。あんた暑さ感じてないの?」

「そんな信じられないものを見るような目で見つめなくてもー。あ、欲しいならミリも食べるー? 」

「いらんわっ!」


 ぱりぱりもぐもぐむしゃむしゃ。


「美味しそうだねっ! ポロンも食べるっ。あむあむ、はむはむ。おいしいねっ。でもなんでだろう汗がたくさん出てきたよ?」

「だから食べるなって言ってんでしょーが、人の話を聞けっ! ポロンちゃんも餌付けされてないで! 赤いパッケージを見せびらかすなっての」


 体感温度上昇の元をひったくり、火口へミリは放り投げる。ポイ捨てのマナー違反だった。


「ふむ、まだまだ修行が足りないようだな。心頭滅却すれば火もまた涼し、お主らは気合いが足りん」


 応じる声は、ケイクの抗議ではない。少し年上の女性の声だった。


「誰?」「あれー、いつのまにー」「はじめまして、ポロンはポロンっていうんだよ」

「申し遅れてすまない。拙者はサクヤと申す。見ての通り、刀の使い手だ」


 丁寧なお辞儀と名乗りと共に、腰の刀を見せる。名の知れた銘刀だった。


「へー、月凛げつりんの刀かー。やたらと難易度の高い遺跡に挑んだねー。月夜つきよ遺跡ルナティックの戦利品でしょー、すごーい」

「いいや、拙者などまだまだ修行の身であるゆえ。襲いくる粉末を切るのには苦労したが」

「粉末が襲ってくんの? てか、切れるもんなの? って、そうじゃなくてあんたトレジャーハンターでしょ、何でこんな所にいんの」

「宝物探しの者が遺跡にいておかしいか?」


 刀使いサクヤは天然記念物と称される人種のようだった。


「そーじゃなくって、なんで同業者の前に出てきてんのって事!」

「ああ、そんな事か。大したことではないではないか」

「大したことでしょ!」


 そうなのか、と首を傾げられる。


「普通しないしねー。でも、僕たちを潰しに来たとかー。スフィア横取りしよーとかー、そういうのじゃなさそーだよねー」

「もちろんだ。そんな卑怯なマネはせぬ。勝負をするならするで正々堂々とする。後で」

「後でぇ?」


 サクヤは、刀を指示棒代わりにして、窓の外の方を指し示す。


「ふぇ? 真っ赤だよ。サクヤさんマグマの中で勝負? 水泳かなぁ。どれくらい熱いのかなぁ、ポロン頑張って我慢しなくちゃ」

「実はお主らに協力を要請したいのだが……」


 天然なポロンちゃんの発言に、別種の天然記念生物サクヤは取り合わなかった。


「あ、すごいねーっ。とってもおっきい、火の玉さんがマグマから飛び出てきたよ。元気一杯だね」

「いざ尋常に勝負をと思って近づいたら、怒らせてしまってな。しかも、切っても切っても、減るどころか仲間が増える一方で手間取っていたのだ。ライバルといえども同業者、同じ正義の志を持つ者同士協力するしかないと結論に至ったわけだ」

「正義だってー」

「いや、あんた。この職業、何か勘違いしてるんじゃ……」

「という訳で、拙者の背中はお主らに預ける」

「ちょ、人の話聞けえっ!」


 サクヤは、カッコイイセリフと共に窓の外に飛び出した。

 その姿が、消えていく。


「しまった。足場が……。おのれファイヤーゴロンゴめっ! 姑息な手をぉぉぉ……」


 叫び声が小さくなっていく。残されたのは無数の敵達。


「ぴゃぁあ! サクヤさんマグマの方に落ちて行っちゃった」

「仲間だと思われたのかなー。火の玉軍団が向かってくるよー。これってまさかのー、あれだよね」

「無自覚に押し付けられたっ!! てか、自滅した!!?」


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