第5話 羽休めの休日 1 襲来のエッグエネミー
古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型のものから、消しゴムのような小さなものまで、その形や大きさはさまざまだ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。
しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。
しかしそんな者達、トレジャーハンターにも休息の日々があった。正しく休息かどうかはさておいて。
「ここしばらく、あっちの遺跡行ったりこっちの遺跡行ったりして忙しかったのよねぇ」
「セツナさんは、イルカ号の操縦してるだけじゃん。ウチ等が遺跡潜ってる間、居眠りしたり雑誌読んだりしてるの知ってるんだけど」
飛空艇イルカ号のブリッジにて、操縦席の前には暇をもてあましたニャモメ団三人がセツナさんのもとへ集まっていた。
「操縦って繊細なのよー。神経使ってるの。その分、頭を休めなきゃ」
ミリは操縦パネルを眺めながら本当か? と半信半疑の表情をつくる。
「それ、そんなに難しいもんなの?」
「もぐもぐ、難しいんじゃないかなー。たまに画面のぞいたりして思うけど、よくあんなミミズ文字読めるよねー。それも矢が飛ぶような速さで、文字が流れる中―」
それなりに機械にくわしいケイクが、お菓子を頬張りながら肯定の言葉を入れる。
「ポロン、よくわかんないけど。セツナさんが頑張ってるって事は分かるよっ」
セツナさんはポロンの頭に高速なでなでの技を繰り出した。
「よーしよしよし、いい子ねポロンちゃんは。それと、ミミズ文字じゃなくて
古代フロスト語よ。だいたいの時期でいうと……、今ある遺跡の建造が始まるさらに数千年前に作られた言語ってところかしら」
ミリとケイクは顔を見合わせる。
「遺跡が作られる前なんて、記録残ってないのに。セツナさんって……」
「何者なんだろーねー」
手ごろな遺跡探索の情報もなく、メタリックブルー塗装の飛空艇イルカ号は心地良さそうにぷかぷか浮いている。
甲板で日光の恩恵を受けつつ、ランチタイムを過ごした後は。
「午後はどうする? あ、ケイクのお菓子三昧はパスね。もうさっき食べたので十分。ポロンちゃんの、アリさんごっこも」
「ふぇ、アリさんごっこ面白いのに。みんなで一列になって歩くんだよ」
「あれって、ぶっちゃけただ歩いてるだけだよねー。あ、そういえば機関部のロメックさんに、頼まれてた部品渡すんだったー」
「あっ、ポロンも喫茶室のマッカさんにとってもおいしいオムライスの作り方教えてもらうんだった!」
「んあーっ! メッカに借りた本どこにやったか探す用事があったっけ。飛空船のどっかにはあると思うんだけど」
「じゃあ、皆でイルカちゃんの中をお散歩だねっ」
とかなんとか会話をしたのち用事のため一同は、飛空艇巡りに旅立つ方針を固めたのであった。
「こんにちわー。ロメックさんいますかー。んー、いないってさー。どーするー? あー、そうだよねー、僕が決めなきゃねー。あ、すいませーん、これロメックさんに渡しといてもらえませんかー。うんうん、例のー。ありがとー」
機関部で目的の人物に出会えなかったケイクは目に付いた人に、部品を渡す。
それは、ぬるぬるしていて透明で、おまけにちょっと潤っていた。
「って、クラゲール族のクラゲ!? 何それ、人体実験!? 生体部品!?」
「それを言うなら、クラゲ体実験、クラゲ体部品だよー」
「んな事は、どうでもいいわっ。何で、住処の海底温泉が綺麗になって喜んでるはずのクラゲがここにいんのさ」
丁寧な訂正を脇にどけて、ミリは追求を続ける。
「ふぇ、あれクラゲさんだったんだっ!?」
ポロンちゃんは、ただのぬるぬるして透明で、ちょっと潤っている物体だと思っていたようだ。
「あの、誰だか分からない悪徳トレジャーハンターのまいた泥んこー、除去するのに苦労したよねー。いくらスフィアをゲットするためだって言っても酷い事するよホントー。クラゲールの人達が僕達に助けを求めてきたときは何だろって思ったけどー。あれ、何の話だっけ。……あ、うん……クラゲクラゲ、あれは抜け殻だよー」
途中で本題を忘れかけていたようだったが、ケイクは帰還した。
「抜け殻ぁ!?」
「なんでも、体のツヤを適度に保つために、好みの回数で適当に脱皮するんだってー。電気を通さないし、伸縮良いしで部品に使ってるんだー」
「なんだ、脅かすなっての」
「クラゲールさんはすごいって事?」
「うん、すごいよー。すごいすごい」
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