第4話 怒涛の海底遺跡 アクアリウム
古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型の物から、消しゴムのような小さな物まで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。
しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。
これはそんな者達……、三人のトレジャーハンターの物語であった。
――海底遺跡 アクアリウム
深い青色の海水が天井のガラスの向こうに見える。海底遺跡アクアリウムの内部をニャモメ団の三人は歩いていた。
「こうして見てるとー、ここが水槽で僕たちお魚になっちゃったかもー、っていう気分になるよねー」
「ふぇっ、ポロンお魚さんになっちゃったの? あれ、でも普通の体に見えるよ」
三人は温泉遺跡ホットレストから、透明なガラス管通路を通ってやって来ている。
「プランクトンか何かが豊富なのか知らないけど、やけに色んな種類の魚がいるじゃん」
「ねー、あっちの魚とかすごくおいしそー。あ、こっちのは肉厚そうですごく噛みごたえありそー」
「芸術を芸術だと思わなきゃ、芸術鑑賞は出来ないって分かったわ」
ガラスの向こうに涼しげに泳ぐ魚達を料理フィルタにかけているケイクにミリは突っ込んだ。
「クラゲイルさんの依頼、がんばろうねっ。ポロンもがんばるっ。ここにいるお魚さんたちを同じ目に合わせちゃだめだよ!」
「だねー。浄水効果のあるスフィアを見つけるために、あえて水を汚してみせるなんて酷い事するよねー」
「ったく、そういう奴がいるからウチ等は、宝物泥棒とか宝以外はどうなってもいい欲深連中だとか、陰口叩かれんのに」
三人は脳裏に、不安げに(表情はないが)必死にこちらに現状を訴えるクラゲを思い浮かべ、怒りと憤りとやる気のボタンをプッシュしていた。
「クラゲイルさん達のために……。打倒、暗黒団!! なんだよ」
原因を作った一派であるスフィアハンターの組織名をポロンちゃんが叫んだ瞬間、来るはずのない返事が来た。
『あーはっはっは! なら、やってみるがいい小娘、小僧!! 出来たら……だがな』
言葉が終わるとともに、背後から順にガラス製の隔壁が一枚ずつ下り始めた。
「挨拶もそこそこにいきなりコレかい!」
「わー、すごいスピードー。逃げなきゃ閉じ込められちゃうよー」
「悪人さんは間違ってるよ! ポロン達必ず、めっしにいくんだからっ!」
珍しくポロンが声を荒げて、暗黒団の宣戦布告に答えた。
「ふっ、まさかここまでたどりつくとはな……」
「ぜえはあ……、渋顔作ってそんなセリフ言ってる場合!?」
たどりついた部屋で、暗黒団の男はご丁寧に片手を腰に当ててポーズをつけていた。
「ようやく見つけたと思ったらー。まさか、部屋の中がこんなになってるなんてねー」
暗黒団に掌握された遺跡の数々のトラップや防衛装置を、時に避け、時に砕き、時に
「暴走した機会魚に食われかかってる悪人って何なのっ!?」
部屋の中を浮遊する防衛装置の一種であろう機会の魚は一人の男をその口に入れていた。
「馬鹿を言うな。食べられているのではない、あえて食べられてやっているのだ。これだから低俗な者どもは」
「てーぞくって何だろ。ミリちゃん、ケイクくん。何かの一族?」
「さー、何だろねー。ポロンちゃんは分からない方がいいと思うよー」
「あーっもう、こいつムカつく。何この無駄に偉そうな態度。無視するよ無視!」
という流れで、背後から時折むしゃむしゃという咀嚼音やくぐもったうめき声なんかが発生しても、聞こえてない事にした。聞こえないったら聞こえない。
「ふえ、お魚さんの口から手が出てるよ。ヘルプーって、中から聞こえるよ」
「いいのいいの、あれは反省してる声だから。つらそうに聞こえても助けちゃ駄目だって」
「うーんと、いいのかなあ」
怒っていたことも忘れて心配そうにしているポロンをミリが言いくるめていると、制御台の制御装置をいじっていたケイクが振り返った。
「クラゲールさん達のとこの温泉浄化したよー。こっちの遺跡とつながってて良かったー。それと浄化のスフィアだけど場所はー、一応この部屋のどこかにあるみたいだけどー」
と、三人は部屋を見回す。
あるのは制御室にふさわしい色々なスイッチと色々なボタンだけだ。
「ないじゃん」「ないねー」「どこだろ」
ミリ、ケイク、ポロンはそろって首をかしげた。
「ふん、貴様らはずっとそこで悩んでいるがいい。私はこれで失礼する。目的の物も手に入ったのでな」
部屋の入り口を後ろにして、頭を機会魚に食われたままの男が言い放った。
手には小さな長細い筒のようなものが握られていた。
「わー、あれってー」
「まさかスフィア!! 魚の中にあったワケ!? って、あっ……待てこら逃げんな!」
「ううぅ、このドアさん開かないよ、どうしてだろ」
ドアへ駆け寄るが、押して引いて引っ張っても再び開く気配は無い。
外から操作したのだろう。
つまりそういう事だった。
「閉じ込められたっ!」
「みたいだねー」
「わわっ、ミリちゃんケイクくん。小さなお魚さんたちが、お口をカチカチしながらたくさん近づいて来るよっ挨拶しなきゃ。こんにちわっ、ポロンはね……」
「どこから湧いて出て来たんだろー」
「のんきに挨拶したり、観察してる場合。とっとと逃げるわよっ。くっそぅ、あのヤローやってくれたわ……。いたたたた、痛いっつーの、散れ散れ」
小さな魚に体のあちこちをかじられつつも、出られそうな所が無いか三人は急いで探す。
その探索が数秒も進まないうちに、異変は起きた。
「あれっ、どうしたのかな? 急にウーウーって音が鳴り出したよ。それに、お部屋の明かりが真っ赤になっちゃった」
「カウントダウンも聞こえるねー。3分前だってー」
「自爆!? 自爆すんのこの遺跡? 一体何で急に……ああっ、あのヤローか。余計な事を!」
「丁寧なカウントだねー、2分50秒前……2分45秒前……5秒刻みで知らせてくれるみたいだよー」
「いらんわそんな悪意ある配慮!!」
「あ、お魚さんちょっと増えたよ。はじめまして、あのねポロンね……あうぅ、握手しようとしたらお手て噛まれちゃった、あれっ、お魚さんてお手てないよ……」
「うん、魚に手が生えてたら怖いと思うよー。また一匹増えたね-。今度のは体にリボン巻いてるよー。死にゆく人に手向けの花ならぬ魚のプレゼント、って感じかなー」
「何て悪意ある贈り物! ちょ、ホントに時間ないじゃ……いたたたた。魚の波が、うあああっ」
未利の絶叫を残して、押し寄せた機械魚に三人の姿はすっぽりと埋もれた。
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