ダンジョンに入りましょう


 クエストドアでは成長に応じて自由にアバターをカスタマイズできる。アバターの外見以外は、ゲーム開始時においてプレイヤー間の違いはない。成長や物語を進めることで変更できる項目は以下の3つ。


①魔法の習得と装備


 魔法は物語を進めることで習得が可能だ。全23種類、プレイヤーが設定した動作に応じて5つの魔法を装備できる。魔法ゲージを消費することで発動できて、アイテムや時間に応じてゲージは回復する。

 例えば、回復役のプレイヤーは身体回復系の魔法を中心に設定したり、攻撃役のプレイヤーは攻撃力強化などの魔法を中心に設定することで役割分担が可能になる。魔法の組み合わせ方は自由で、設定画面で変更できる。


 ※設定画面中でもモンスターは攻撃してくるので、安全なところで変更しよう!


②武器の取得と装備


 武器の種類は、剣、槍、弓、杖の4つ。

 剣は近距離型、1番攻撃力が高い。

 槍は中距離型、比較的安全圏からの攻撃が可能だが、攻撃力は剣より劣る。

 弓は長距離型、身を隠しながらの攻撃できるが威力は弱い。

 杖は魔法の威力を増大することが可能で、物理攻撃力はそこらへんの棒と変わらない。

 

 町に設置されている武器屋か、ダンジョンに置いてある宝箱などから武器は取得できる。


 ※武器は1つ以上持てますが、体力を消耗するのでお勧めしません!


③道具・衣服の装備

 

 薬草などの回復道具、煙幕などの補助道具はプレイ開始時から持っているバッグの中に入れることができる。道具はいずれも小型のものばかりなので、20アイテム程度は持ち運ぶことができる。衣服のポケットにも入れたりすることができる。


 バッグは衣服と合わせて町に設置されている衣料品店で購入することも可能。大きいバッグであるほど多くの荷物が入るが、その分持ち運ぶ際の疲労も激しい。

 衣服は自由なものを装備することができて丈夫なものほど重く、もろいものほど軽い。見た目にこだわっても良いし、防御力にこだわっても良い。


 ※R規制によって、裸や下着姿になることは禁じられています!



◇◇◇



『……と説明書に記載する内容はこんなものですかね! プレイ開始時に支給されるお金で最初の装備はまかなえるとおもいます!』


 ムアクの町に行くまでの途中で、花村さんがゲームのシステムについて簡単に説明してくれた。その説明を受けて、町で装備品や衣服を購入。パーティーの構成としてはこんな感じになった。


 俺……杖装備、回復担当

 ノーラン……弓装備、攻撃と魔法担当

 サクラさん……剣装備、攻撃担当

 ハルちゃん……槍装備、攻撃担当


「まぁ、順当に行けばこんなもんじゃろ。弓は操作が難しいが大丈夫かノーラン?」

「慣れれば大丈夫だと思います。いざとなったら魔法でドカンです」


 そんなことを言いながら、ノーランは器用に遠くの的に矢を当ててみせる。得意顔で弓操作を見せびらかすノーランを他所に、サクラさんは巨大な剣が気に入ってバッサバッサと草を刈っている。やりたい放題だ。


 俺は杖を持っているが、まだ魔法は覚えていない。

 荷物でパンパンになっているカバンを見つめる。その中には薬草がたんまり入っていた。清廉のダンジョンのボスを倒すと回復魔法を覚えるので、それまでは薬草をみんなに食べさせるのが仕事だ。

 勝手に先行してスライムを殺戮さつりくしているサクラさんを確保して、ノーランが先導に立って歩き始める。


「では行きましょうか!」


 一行は清廉のダンジョンを目指す。町の住人からここから東にまっすぐ行ったところにあるという情報を聞いたので、平原を越えてゴツゴツとした岩山を歩いていく。


 天気は晴れ。

 今までは木陰などもあって比較的涼しかったのだが、フィールドが変わって岩に照りつける太陽が随分と熱く感じる。これはなかなかきついかもしれない。

 

「……よろいが暑く感じますね」


 重装備のサクラさんが一番つらそうだった。清廉のダンジョンまでは徒歩10分ほどらしいが、随分と遠くに感じる。


「脳を使うことで実際に体力が消耗されているからのう。休憩はこまめに取ることを推奨しておる」

「それが良さそうですね……あっスライムが出てきた」


 岩陰からぴょこぴょことスライムが現れる。サクラさんに突撃したスライムだったが、あっけなくガッシリとキャッチされてしまった。1人で先行してモンスターを虐殺していた彼女は、だいぶレベルが上がっているようだ。


「……ひんやり」


 サクラさんはそのままスライムをほっぺたに押し当てた。クッションのようにぎゅっとスライムを抱えてすずんでいる。目を閉じて幸せそうな表情を浮かべるサクラさん。スライムは枕じゃないんだぞ。

 抵抗するスライムにサクラさんはガシガシとHPが削られていっている。


「攻撃されていますよ」

「……もうちょっとだけ」


 そう言ってサクラさんはスライムを離そうとしなかった。

 このままだとダンジョンにたどり着く前に攻撃役が瀕死になりかねないので、牙を向いているスライムを杖で殴って倒す。


「……残念」

「もう少しでダンジョンですから、頑張って歩きましょう」


 肩を落とすサクラさんに薬草を無理やり食べさせて再出発。できるだけ大きな岩陰の下を歩きながら、清廉のダンジョンの入り口へと到着した。大理石の柱によって支えられている巨大な門は、荘厳な雰囲気をかもし出していた。

 ノーランが感嘆の声を上げる。


「わぁー、すごい!」

「そうじゃろそうじゃろ、わしが設計したからな」


 ハルちゃんが誇らしげな顔をする。

 門の周囲には細やかな装飾が施されている。天使や悪魔の絵が彫られた綺麗な外壁はファンタジー感があってワクワクする。


「行きましょう、行きましょう!」


 無類のゲーマー魂を抑えきれなかったノーランが、いち早くダンジョンへと駆け込む。楽しそうに辺りを見回しながら門の入り口をくぐった瞬間だった。

 

 彼の足元でカチッと音が聞こえた時にはもう遅かった。四方八方から弓が飛び出して、ノーランの身体を口刺しにする。


「ぎゃああああああ!」


 ノーランの悲鳴が辺りに響く。

 頭、腕、脚、四肢を貫かれたノーランはバタリとそのまま倒れ込んだ。「プレイヤー2 ゲームオーバー」というテキストが倒れた身体の上で飛び跳ねている。むごい。


「あっちゃー」

「このようにダンジョンには様々な罠が設置されおるぞ」

「よく分かりました……」


 しばらくしてノーランの身体が煙のように消えていった。テストプレイ最初の犠牲者だ。


「ゲームオーバーになるとどうなるんですか?」

「近くのセーブ地点で復活するが、まだセーブしておらんかったからのう」


 ハルさんはそう言って、ダンジョンの手前にある箱のようなものを指差す。その箱はキラキラと虹色に光り輝いていた。


「メモリーボックスと言って、あれに触れれば自動的にセーブされる。セーブしてない場合は初期地点で復活する」

「……つまり」

「ノーランは始まりの平原からまた歩いてくるしかないのう」


 なんということだ。

 あの岩石地帯をまた進んでこなければならないとは、彼もなかなかついていない。


「メモリーボックスをもう少し目立つ位置にした方が良いのう。ヒカリ、よろしく頼む」

『はいはーい!』


 ゲームの仕様変更も俺たちデバッガーの仕事の1つだ。

 俺たちはしっかりメモリーボックスに触ってセーブしておいて、休憩しながらノーランを待つことにした。約15分後、ノーランは疲弊しきった顔で現れた。


「お疲れー」

「疲れました……」


 歩き疲れてぐったりしているノーランだったが、休んでいる暇はない。スケジュールは詰まっているので、今度は耐久力のあるサクラさんを先頭にしてダンジョンに入っていく。


「足元気を付けてくださいね」


 ビクビクしながら歩くノーラン。完全にトラウマになっているようだ。かわいそうに。

 最初にノーランが踏んだ罠以外はこれといった仕掛けはなかった。狭い廊下を抜けると天井の高いホールのようなところに出た。前方には仰々しい白い石碑が建っていて、何やら日本語で文字が描かれている。


「なになに……『ここから先、試練の扉を選ぶべし。1つは平穏の道、1つは怪異の道、1つは謀略ぼうりゃくの道。辿り着く先は諸共もろとも同じ』」

「……どの試練を選んでもゴールに着けるけど難易度が違うってことですかね」


 石碑に書かれている通り、ホールの奥には3つの全く同じ形の扉があった。ピッタリと閉じられている扉の奥に何があるかは分からない。1つが正解でそれ以外はきっとハズレっていうことだろう。


 ちらっ、と後ろにいるハルちゃんを見る。ニコニコと俺たちを見ているだけで何も言おうとしない。どの道が正解か教える気は無いようだ。


「平穏が一番良さそうですけどね。怪異はモンスターのことでしょうね。謀略は……」

「罠ですかねぇ」


 ノーランが露骨に嫌そうな顔をする。よっぽどさっきのトラップが精神的にキているのだろう。ガタガタと身体を震わせると、なにも言わなくなってしまった。

 判断力担当のノーランが使い物にならないので、代わりに強運のサクラさんに選んでもらうことにした。3つの扉の前に立って順番に指をさしていくサクラさん。


「どちらにしようかな、天の神様の言うとおり、なのなのな……」

「古典的ですね」

「確実ですから。鉄砲撃ってバンバンバン、もうひとつおまけにバンバンバン、卵が割れたかな……」


 良くあるゲン担ぎだが、サクラさんのそれはなかなか終わらなかった。5分経ったがまだブツブツとおまじないを唱えている。


「すっぽこぽんのすっぽんぽん、もうひとつおまけにすっぽこっぽんのすっぽんぽん……」

「あのーいつまでやるんですか?」

「後、1時間はかかりますが」


 サクラさんは再び「すっぽこぽん」と言っておまじないを始めた。

 1時間……ってどんだけ慎重なんだ。このままだと終業時間になってしまうと判断した俺たちは、サクラさんを説得して途中で切り上げてもらった。


「途中で止めてしまうと効果がないんですよね」


 サクラさんは残念そうに呟いた。気の進まないサクラさんを先頭にして、適当に左の扉を選んで進んで行く。


 その時は所詮ゲン担ぎだろうとタカをくくっていたが、当然のように俺たちは後でしっぺ返しを喰らうことになった。


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