46話 怪盗と探偵

「……おっどろいた、五郎居たの?」


 彼女は隻眼の探偵の気配には気がついていた。奴も此処に居る事を分かってると考え、わざと油断している風に見せかけていた。

 だが、五郎の気配には一切気がついていなかったのだ。


「最初からな。気配消すとか良く分からんから、隻眼の探偵に協力してもらった」


 というのも、彼がならば僕の気配で消せばいい。などと意味不明な事を言い出し、五郎は半信半疑で乗って見ていたのだが、なぜかこうして成功していた。

 なんでも本を隠すなら本の中、木を隠すなら森の中理論らしいが、まるで分からない。


「あぁ、なるほどね。これ見よがしに居ますよ~って、やってたのはそういう」


 しかし、レーベンの方は理解しているようで、五郎は呆れ顔になっていた。


「さて、怪盗レーベン。貴方には刑務所に━━━━」


「ちょっと待った」


 彼女は隻眼の探偵の言葉を遮り、五郎に目線を向ける。


「あたしを捕まえたのは貴方じゃなくて、彼。いい? 決定権は貴方にはないの」


「……では、澤田さん?」


 お縄につけ。そう言葉にしようとしたが、警察や彼女の関係に2重脳力者のある特有の能力を思い出し言葉に詰まる。

 そして、一服起きこう言い放った。


「あー、そうだな。お前の好きにしろ。豚箱に入るなり、此処から逃げるなり。ただ、今後こういう手段で俺を巻き込むな。無駄に疲れるから」


 送られてきた拳銃とマガジン全てを突き返すように手渡した。

 この返しを予測していたのか彼女は、ごめんごめんって~。とおちょくるように言うと、手渡されたそれらを全て消していく。


「なっ!? ……まぁこういうのは僕自身の手だけで捕まえるべきですよね」


 隻眼の探偵は驚いた表情を浮かべていたが、すぐに悟ったような顔になる。

 

「それはそうと」


 彼女が何かを言いかけた所で、建物が鈍い轟音と共に少し揺れ砂煙が部屋の入り口から侵入してくる。

 状況を確認するため、隻眼の探偵が廊下へと出た。

 すると、瓦礫の上に横たわっている菊池の姿があった。天井に目を向けると、3階まで続く歪な丸い穴が空いていたのだ。


「だ、大丈夫ですか?」


「なんとかな。久々に死ぬかとは思ったが」


 彼は起き上がり、瓦礫から降りると砂埃を払い始める。


「ま、此方は見ての通り惨敗だ。ソチラの助手は上で伸びてる」


「"連中"は?」


「さてな。ただ、殺す気もなければ目的は奴だ。イベントとやらは終了した事を踏まえると、撤収したんじゃないか? で、ソチラの首尾は?」


「上々ですよ。ね、澤田さん」


 彼はそう言いつつ振り向くが、五郎の姿はない。

 まだ部屋に居るのだろうか。と考え展示用のモデルガンが置かれている部屋を確認するがやはり姿は見えなかった。


「あ、れ……?」


「なるほどな。一杯食わされたな。隻眼の探偵」



「なんで、俺まで移動させられてんだ……」


 五郎は彼が部屋を出てその後を追おうとしていた。だが、目の前にレーベンが繋げた空間の裂け目が作られ、咄嗟に足を止めようとした。

 が、背中から押され倒れるようにして裂け目を通り抜けてしまい、現在は何処かのビルの屋上に突っ立っていた。


「うひー、予想以上にさっむいね~」


 薄着の怪盗衣装のせいかレーベンは手に白い息を吹きかけ、その場で足踏みをしていた。


「そりゃ真冬にこんな格好でこんな場所に来ればな。それで会いに来るんじゃなかったのか」


 そう言いつつ五郎は着ているコートを脱ぎ、彼女に軽く丸めて投げ渡す。


「お、気が利く~。会いに行くより、男から会いに越させたら方がそれっぽいかなって」


「それであの騒ぎね。巻き込まれた側は堪ったもんじゃないぞ」


 彼女はコートをキャッチすると急いで羽織ってこう呟く。


「なんか加齢臭がする気がする」


「返せ、俺の優しさを返せ!」


「コートじゃないの!?」


 一服の間を起き、2人は吹き出すように笑った。


「こんな場所に連れ出した理由は?」


「あー、そうそう。なんで私が彼処に来るって分かったのかな~って、答え合わせしたくて」


「パリつったらフランスの首都だろ? んでフランス関連の展示物つったら、世界大戦で使われていたMAS 36小銃ぐらいで、予備の地点を置くのなら後半には探索が終わり人が少ないであろう1階だから。ってだけで、ほとんど当てずっぽうみたいな推理。気分としては学生時代に山張った箇所がテストに出てラッキーみたいなもんだったよ」


 存外上手く言った時は、良い気分ではあった。

 問題を解けたカルタシスでは決してないが。


「えー、そんなだったんだ……?」


「ヒントっつか問題書いた紙でもばらまいた方が良かったんじゃないか? そっちのがイベントっぽいし潰し合いは避けられないだろうが、推理要素もあって色々と過程も楽しめたかもしれん」


「それいいもらった! 次やる時はそうするね」


「何度も言うがもう呼ぶなよ?」


 と、引きつった顔で言うが、即答でヤダと返ってきていた。


「待て待て待て、俺の言う事を聞くんじゃなかったのか!?」


「聞いたよ? 好きにしろって」


「自分の都合の良い部分だけかよ……!」


 彼女は声を出して笑い、満足そうな表情でこういった。


「ウ、ソ。だって次は主催者側だもんね?」


「それこそお断りだっつうの。俺もいいか?」


「いいよ。スリーサイズはダメだけど」


「んなこと聞くかよ。……俺になんで固執する。興味あるとは言ってたけど」


「うん、単純に興味あるからだけだよ」


 この言葉は嘘ではなかった。嘘ではないが、理由の半分ほどもない。


「それに無能力者で私に触れた。捕まえた。ひっどい射撃技術なのにね」


 射撃の腕が酷い事は彼女も知っている。

 知っている上で、能力で作った拳銃を送りつけこれを有効活用してね。という手紙付きだ。


「アレは正直喧嘩でも売ってんのかと思ったぞ。それでなんだ? お次はもっと興味が湧いたとかか?」


「あれ? 分かっちゃった?」


 彼は頭をボリボリ描き、息を深く吐く。


「これでも一応探偵だぞ。怪盗さんよ」


 それっぽく振る舞っている。が本心でない事は気がついていた。だが口にせず居たほうがお互いのために良いと彼は考えたのだ。

 それから、事務所のビルの入り口に空間を繋げて貰い短い帰路へとついた。

 ざっくりとした報告を菊池に行った後、古いソファーに倒れ込むとそのまま意識を失うようにして眠っていた。


 翌朝。

 陽の光が差し込み、目を覚ますと昨晩の疲れからか立ち上がる気力がなく、だらだらと過ごして居る時であった。

 ピンポーンと呼び鈴が鳴り響き、返事をしてゆっくりと立ち上がる。


「依頼だったら不味いな」


 そうぼやきつつ、簡潔に身だしなみを整えると玄関へと向かいドアを開ける。


「ようこそ、澤田たん…‥て、い……レーベン、昨日の今日で何しに来た」


 訪れたのはレーベンであり、手に何か箱のようなものを持って立っていた。

 私服のようでとてもカジュアルな装いであり、一見するとモデルと見間違うほどである。


「シェリーだよ。シェリー。ほら、前教えたでしょ?」


「あぁ、そういや喫茶店の時に」


「そうそう。あ、そうじゃなくて、ご近所の挨拶って奴? やってみたくてほら」


 そう言いつつ持っている箱を差し出される。


「これはこれはご丁寧……にィ!? ご近所挨拶!?」


 彼は急いでその場で包装を破り捨て、箱の中身を確認する。

 すると高級そうな蕎麦が入っており大家の話、そして上の階に引っ越してくる者の存在を思い出しある答えを導きだした。


「お、お前かよ! 上に引っ越して来んの!」


「だって、好きにしろって言ったでしょ? だから来ちゃった♪」


「お前、それっぽく言ってるがな。イベント関係なく来る気だったろ……なぁ、来る気だったろ?」


「バレた?」


「微塵も隠す気なかったらそりゃぁな!」


「あはは、これからよろしくね。五郎♪」

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