45話 二重脳力者と怪盗
「く……ッ」
彩乃の周囲に発生した風が四方八方から襲い掛かる銃弾を、防ぎ防戦一方の状況が出来上がっていた。
「他の2人は? 流石に彩乃1人で私落とせるなんて思ってないでしょ?」
口は動かすが、攻撃の手を緩める事はなく空間を切り裂いて行う攻撃。これに加え、アチラコチラから浮遊するセントリーガンが生成され彼女に襲いかかっていた。
「ついてるんじゃない? 察しは!」
周囲の風を一度に開放し、周囲のセントリーガンを一掃する。
が、レーベンはこの行動を読み、先んじて展示物の裏に身を隠していた。風が開放され再度周囲に纏われるまでの時間を狙って空間を切り裂き、彼女の近くに空間を繋ぐとウージーの銃口を向ける。
「はい、残念賞」
「待ってた! それを!」
手のひらに生成されている1つの小さい風の球体を空間の裂け目に向け射出され、撃ち出されたゴム弾を全て弾きレーベンに迫る。
「っと」
しかし、直後に隔てるようにして1枚の鉄板が上空から降り風の攻撃を防ぎきっていた。
「彩乃、やるようになったね。けど」
"位置確認"を終え、空間を元に戻すと同時にナイフを上空で振るう。
直後、彩乃の足元が歪み体勢が崩れた。
「しまっ、うそっ!?」
意図に気がついた時には一手遅かった。風で身体を浮かせる間もなく繋がった先の空間に落とされてしまっていた。
体勢を立て直そうとした時には、背後から組み付かれナイフを喉元に当てられる。
「扱いが上手くなってるのは、お互い様って事。残念♪」
「……捕まえた事にならない? うちがシェリーを」
「捕まえたじゃなくて、捕まえられた。でしょ? ……━━━━ッ!」
突然1発の雷撃が飛来し、レーベンは彼女を放すと蹴り飛ばす。
雷撃は2人の間を通り抜け、展示物の1つを完全に破壊していた。
「戒斗!?」
「いや、違うわ。まーさかあんたまで来るとはね。東上」
仮面をつけ、ローブに身を包んだ1人の殺人鬼の姿がそこにはあった。
◇
雷で形成された剣と、オーラを纏った拳がぶつかり火花が飛び散る。
菊池は一瞬で体勢を低くし足を払うが、奴はタイミングを合わせて跳ぶ。その後、腕をクロスし左手にも剣を整形して振り抜いた。
が、彼はバク転し振るわれた剣を避けると、両者距離を取って仕切り直す。
「遠距離攻撃がないし、特殊性のある能力でもないから戦いやすくはあるが、思うように攻めれねぇ。やっぱつえぇわ」
左手の雷の剣を消し、残ったもう一方を握り息を整えるため深呼吸をする。
「やるな。隻眼の助手。体はどうだ?」
「もう大丈夫です。援護は?」
エースは初撃の電撃で体が痺れ、一時的に戦闘不能に陥っていた。
本来あの攻撃を受けた場合、電気ショックを受けている事と変わりない。故に大抵の人は意識を奪われるか彼女のように一時的に戦えなくなる。
「回復が早いな。そのまま探偵の護衛を頼む」
そして、彼女のボスである隻眼の探偵はあのまま撤退すると思って、引いてしまったそうだ。
天然なのかわざとなのか。判断に困る所ではあるが、泰山はちゃんと連れ出せたとの事でその点は一安心できていた。
「菊池、決めれそうか?」
「難しい。有効打は幾つかいれては居るが一向に意識が刈り取れん」
菊池で厳しいという事は、ちょっとやそっとじゃ倒せるような相手じゃないって所だろう。
「分かった。このままレーベンが居そうな所に誘導して三つ巴ないし四つ巴に持ち込もう」
そう言って彼は上を指差す。
先程から戦闘をしているようで銃声や、炸裂音が響き渡っていた。
「お父様大丈夫ですかそれ?」
「悪化する可能性もあるが、流石にこれ以上もたもたしてると制限時間がすぎるだろ。それに奴の動き次第じゃ"逆に安全になる"」
五郎達の目的は情報収集だが、隻眼の探偵達は飽く迄レーベンの捕縛。強引に手を組む流れになってしまったが、彼らは律儀に付き合ってくれていた。
今度は此方の番。そういう考えもあったのだ。
3人は後退し、階段がある方へと走っていく。
「あら? ……あー、そうか。シェリーのイベント中だったな」
奴は思惑を察し、天井に手を翳すと雷の槍を伸ばし、天井を貫くと爆散させ大穴を開ける。
「んじゃまっ、先回りして彩乃と合流でもしますかね」
彼が展示物を足場に飛び上がり穴を通って上の階層に着地する。と、同時に複数の流れ弾が腹部と頭部に直撃し鮮血が吹き出した。
「あっ!? ……良かった。音坂か。ごめんごめん」
目の前に現れたレーベンが軽いノリで謝罪すると、複数の銃器を周囲に出し何者かに一斉射を浴びせていく。
彼の眉がピクピクと動き、弾頭が潰れた銃弾が足元に複数音を立てて落ちた。
「おい、俺っちじゃなかったら死んでるぞ。ゴルァ!」
音坂と呼ばれた男が叫び、彼の傷口は完全に塞がっていた。
満足したような表情を浮かべ、目線を銃弾が殺到している先へと向ける。
「で、躍起になって攻撃してんのは何処のドイツよ」
「完全に
遅れて彩乃も現れ、レーベンが銃撃をやめた瞬間に3人を包むように風の防壁を発生させた。
直後、暗闇に複数の閃光が発し、防壁に雷撃による攻撃が飛来し轟音と共に雷撃が拡散されていった。
「っち、寄りにもよって一番気に食わねぇあいつかよ」
「邪魔だから、遠くに飛ばす気なんだけど一旦手伝ってくれるよね? 再開はそこからで」
「断る理由はねぇな。乗った」
彼は薬を取り出し噛み砕くと、瞳が両目共に赤く染まっていく。
「過剰投与は俺っちだけでいい。シェリーは万が一までそのままで、ゲート頼む」
「おっけーい。無理しすぎないようにね」
「もうおせぇっての。1分で片付けるぞ」
「援護する。任せて」
「おう、何時も通り頼りにしてるぜ」
防壁が消えたと同時に、彼は姿勢を低くく保ちつつ走って寄っていく。
途中雷で手裏剣のようなものを作り、部屋に投げ入れると今度は剣を作り出し東上と接敵する。
「今度は戒斗か……厄介な」
「てめぇにゃぁ!」
雷で出来た剣を振るうが、瞬時にかき消され消滅する。
「名前で呼ばれたくねぇなァ!!!」
すかさず握りこぶしを作るが瞬時に雷の盾が生成され、音坂が繰り出した拳が防がれる。
が、窓ガラスを割って雷で出来た手裏剣が背後から奴に迫っていた。
「過剰投与までして、必死だな。見苦しいぞ」
そう言いながら彼から距離を取りつつ雷の盾が消え、雷の手裏剣も身体に触れた瞬間に消滅する。
「必死なのはてめぇだろうがよ。またストーカーでもしてんのかよ!」
音坂の頭上から空間が布のように垂れ下がり、そこから彩乃が降ってきた。
直後、複数の衝撃波を発生させ奴に殺到させていく。
「人聞きの悪い。ただの依頼だ。奴を殺せってな」
モノマネプロトコルの使用をやめ、再び全身に雷を纏い衝撃波を防いでいく。
その中、衝撃波の勢いを利用し音坂がものすごい速さで接近し、通り過ぎ様に雷の剣で斬りつける。
だがしかし、この攻撃も雷の鎧と服の下に張り巡らせてある砂鉄の鎧によって完全に防がれていた。
「くそっ! これでもダメか!」
彼はボヤきながら後ろへと跳び、東上の指から放たれた雷撃が床を抉っていた。
「いやいや、能力だけが取り柄の東上君なだけはありますなぁ。能力だけが取り柄のね!」
スピーカーからレーベンの声が聞こえ、"能力だけが取り柄"という部分を強調して言っていた。
「万年10位の癖して良く言う」
「えーだってさ。あんた6位で上位陣で勝ち越せるの一体何人よ? 身体能力が低い癖してよく言えるよね!」
彼女の言葉に苛ついた彼は、スピーカーに目線を向けてしまっていた。
その一瞬の隙を前衛の2人は見逃さなかった。
襲っていた衝撃波が止み、今度は通路を隔てるようにして風の壁が作りだされる。
そして、彼もまた剣を槍に作り直し前へと踏み出していた。
間合いに入り槍を突くが、瞬時に切り替えられたモノマネプロトコルによって消滅させられる。
だが、お構いなしに彼は突進し腹部に手を当てこう叫ぶ。
「彩乃ォ!!!」
「ッ! しまっ━━━━」
東上は数的不利を奇襲で打開しようと考え、防衛を主眼に置いていた。置きすぎていた。これが仇となったのだ。
雷の能力を発動を継続させ、敢えて無効化させ続けていた。その結果、音坂の"掌から発生した"風の衝撃波を消す事が出来なかったのだ。
奴の身体が浮き、更に風の防壁によって視界が悪くなった事により、レーベンが彩乃の近くにまで寄ってきていた事に気がつくのが遅れてしまっていた。
加えて生成されるであろう空間を繋ぐ扉を無効化しようにも。
「ほい、残念賞」
以前として吹き荒れる風を無力化してしまっていた。能力を切り替えたとしても、奴にこの状況を打開する手立てはなかった。
ナイフが振るわれ空間が布のように垂れ下がり、別の空間と繋がる。
「畜生がッ!」
裂け目を通り抜け、即座に空間の裂け目が閉じ3人は安堵のため息を付く。
「はー、きっついつの。シェリーさっきの勝ち越せる云々って一体何人なんよ?」
「ん? 2人だけだよ~」
彼女は背後に目線を向け、そう告げる。
手に持ったナイフを地面に突き刺し、自身の足元の空間を歪め別の空間へと繋いだ。
「って、言うと最後の順位だと……ダイモンのおっさんとゴーの野郎か? お前と長塚が本気でやって━━━━」
「んじゃ、頑張ってね。お2人さん♪」
「……は?」
落下していく身体を横薙ぎに剣が空を斬り、大きな舌打ちが響き渡る。
「忘れてたッ! 彩乃!」
彼女は咄嗟に自分の周囲に風を発生させる。が、突進してきた1人の男性に風を突き破られ壁の中への侵入を許してしまう。
苦し紛れに風の弾を複数浴びせるが、効いている様子は全くなかった。
「う、そ!?」
「漁夫の利で悪いな」
風が飛散し、彩乃はその場に倒れ込んでいた。
「こなくそっ!」
彼は瞬時に手裏剣を生成し周囲に投げる。
それぞれが壁に突き刺さったタイミングで整形していた雷を開放し、形状が保てなくなったそれは閃光と共に周囲に微弱な雷撃を撒き散らす。
「ッ! 館のアレ思い出す……!」
「ソコだな」
彼は光でひっそりと暗闇に紛れていたエースの位置を確認し、剣を生成し走り出した。
「此方に来るか」
先に奇襲する動きを見せる彼女を潰しに動く、と踏んでいた菊池は内心驚く。も、頭は冷静で目線は彼を捉え動きの一つ一つを追っていく。
振るわれた剣を難なく払い除け、カウンターを入れるように腕を振りかぶる。が、奴は剣を即座に捨て菊池の足元を滑り込み通り抜けた。
そして、彩乃を抱きかかえると立ち上がって距離を取るように移動していく。
「仲間思いだが━━━━」
追おうとするも急に一陣の風が吹き荒れ、動きを止められる。
「ゲホッ、あのままだと朝までおねんね。助かった」
実は先程の東上との戦闘を2人は遠目で、だが一部始終を見ていたのだ。
能力の種類、そして連携。それらを踏まえ、戦術を崩すため真っ先に彼女を狙い気絶させた。此処までは良かったのだが、想定より回復が早い。"早すぎる"。
「彩乃、鬼神の野郎止めれるか?」
口を動かしつつ再び手裏剣を投擲し炸裂させ周囲の確認を行い、プラネタリウムホールへと入っていく。
「あんなの無理すぎる。うちじゃ止める方法がない」
「分かった。じゃぁいつもと逆で隠れてるちみっ子倒すぞ」
閃光が止み、菊池もまたホールへと足を踏み入れる。
「奇襲の動きはいいが、こうなってしまうと逆に"不利"だな」
複数の手裏剣が天井に突き刺さり、爆ぜるとホール全体を明るく照らす。
同時にエースの位置も再び割れ、周囲に風が発生し彼女を閉じ込めようとしていた。
「……不味いな」
菊池は助けに入ろうとするが、雷で出来た剣が振るわれ腕にオーラを集中させそれを防ぐ。
「行かせねぇよ?」
振り払う腕を避けるように彼は後ろに跳ぶと、手裏剣を再生成する。
「此処からは地力勝負か……!」
投擲されたソレを避け、腕を振りかぶりつつ奴の懐へと飛び込む。
「"避けた"、な?」
含みがある台詞を吐き、雷で出来た盾を作り出し繰り出された正拳突きを受け止めていた。
薄い箇所を見抜き取り囲む風を切り払い、射出される風の弾を全て切り落としてエースはもう一方の女性へと真正面から接近していた。
雷を扱う青年と相対した時、相性が悪すぎる関係上、正面きっての戦闘は彼女には不可能。しかし、この風使い相手では話が違う。
「チェック」
間合いに入り、攻撃のモーションへと入る。
「勘違いしてない? 有名人の助手ちゃん」
タイミングを合わされるように後ろに跳ばれ、振り抜かれた斬撃は空を切る。
攻撃後の間隙を縫うようにして衝撃波がエースを襲うが、それら全てを先程同様切り払っていく。
「悪あがきを!」
腕を振り上げた瞬間の出来事だった。
彼女の背中に何かが浅く刺さり、微かに身体が"痺れて"動きが鈍る。
「二対二だよ。これは、
咄嗟に剣を振り下ろそうとするが、背中に刺さっている雷で出来た手裏剣が弾けた。
直後、電撃が彼女の身体を駆け抜けていく。
「がっ……ぐ!」
数瞬遅れて無理矢理振り下ろすも、風で出来た厚い防壁が展開され苦し紛れの攻撃は届かない。
「チェックメイト。逆に此方が」
防衛に使われた風は攻撃に転用され、エースの身体を浮かせ吹き飛ばすと壁へと叩きつけていた。
「一人、残りは」
「お前だけだ。もう、厚さと強度は分かってる。俺達で削り取ってやんよ」
彼はそう言い切ると、両手から雷が迸り始める。
「なぁ、鬼神さんよ」
◇
「よっこらせっと」
一方その頃、撤収したレーベンは1階にある世界大戦の展示場スペースへと移動していた。
「さて、上の戦闘が終わったとしても残りは数十秒ぐらい。此方に気がついてもまぁタイムアップよね」
「それはどうかな?」
彼女は知っている声がする方へと視線を向け、能力で周囲にゴム弾を装填している銃を生成する。
「あらあら、有名人が何用で?」
眼帯をつけた1人の青年が月夜に照らし出され、その姿を表した。
「そりゃ、捕まえに。貴方は怪盗で僕は探偵だ。それにこんなイベントを開催した身でそれはないんじゃないですか?」
「言えてるわね。ごめんなさい。さっきのはナシで、でもおいそれとあんたに捕まってやるつもりはないわよ?」
「いいえ、チェックメイトですよ」
レーベンの肩に何者かの手が置かれ、驚いた表情と共に目線が背後へと向けられた。
「俺が此処に居るって気がついてなかった時点でな」
同時に終了の合図として、館内にブザーが鳴り響いた。
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