42話 いじめと調査
「あ゛~疲れた……」
夕方、事務所に帰ってきた永久の第一声がこれであった。
「お帰り。お疲れさん」
報告書を書いている吾郎が返事をし、生返事をしてかばんを投げ捨てるとボロボロのソファーにダイブする。
「どうだった?」
「あ゛ー……良い成果は得られませんでした」
あれから永久は愛と未央にそれぞれ状況を説明した後、秘密にしてもらう事を約束して情報共有を行っていた。
彼は彼女の言動からあまり成果はないだろうと考えて居たが、それなりにあったようで島田という生徒の他に沼田、時海という生徒も何か知っているかもしれない。という情報を手に入れていた。
このうち話を聞けたのは同級生である時海。そして、彼と被害者が所属していたバスケット部の部員達であり、なんでも佐藤は年末から何かに怯えた様子があった。少しやつれていた気がした。寝不足そうだとかイライラしていたようで、感じ方は様々であったが、一様に何かあったのだろう。という事は感じていたそうだ。
何があったのかまでは話してはもらえずに、大丈夫だから。心配するな。と返されてばかりとの事。
「という分けなんですが、ゴローはどう思います?」
「もう少し情報を集めてから判断した方がいいが、まぁ模倣の愉快犯だろうな。って思える」
『この場合だと、あの死んだ人を怯えさせて観察していた。って事です? です?』
「他の理由も考えられるが、そうっぽそうだな」
より模倣犯だと思える状態になっていた。が、デスゲームの方も進展しており、更に2人ほど生存者の関係者が死体で見つかっていた。
これで計5名ほど死亡している。手口は全く一緒であり、同一犯の可能性が濃厚だと言う事だ。
「独立した事件だったとしても、何かの拍子にデスゲーム側と繋がった。って事もあり得るかもな」
報告書を書き終え、吾郎は立ち上がると背伸びをする。
「さて、ちと早いが夕飯にするか。適当にカップ麺でいいか?」
「うー……面倒ですしそれでいいです」
「了解」
ソファーで項垂れている永久の頭を軽く撫でてやり吾郎はキッチンへと歩を向けた。
翌日。
永久は嫌そうな顔をしつつ登校し、下駄箱を開けると上履きの中に複数の画鋲が入れられている光景が眼光に広がり口元が笑う。
「あ、画鋲最近少なくなってたんですよね~」
呟くと、かばんからビニール袋を取り出し上履きの中にはいっていた画鋲を入れた。そして、満足そうにかばんの中に仕舞い込み、何事もなかったかのように教室へと向かっていく。
その様子を影から見ていた数人の生徒が舌打ちや歯ぎしりをしていたのだった。
「永久ちゃんおはよ~」
教室の前で待っていた未央が、永久の姿を見るや否や挨拶をしつつまるで子犬のように近寄ってくる。
しかもなぜかかばんを持った状態でだ。
「……教室の中で待って居たらどうなんですか」
「流石に昨日今日じゃ怖くて」
と苦笑いされ、永久は肩を落として歩を進ませる。
「まぁ、此方に標的が移った臭いからと言って、未央さんに加わる危害がなくなる。って、保証はないですか」
「うん。でも良かったの?」
「何がです?」
教室のドアを開き中へと入っていく。
「いや、その肩代わりというか。身代わりというか」
「あぁ、あの程度は嫌がらせのうちに入りませんよ」
そう返す永久の目は据わっており、何かを思い出している様子であった。
1時限目、2時限目……と授業が進んでいき、4時限目前の休憩時間の事だ。
永久がトイレに向かい個室に入るとバタバタと複数の足音が彼女の耳に入ってくる。すると、入っている個室の前で止まり、ガタンッとなにかを立てかけるような音が響いた。
そして、ガタッガタッと何者かが何かを登るような音が聞こえた次の瞬間、水の入ったバケツが投げ入れられた。
笑い声と共に複数の足音がトイレから出ていき一つのため息が個室から漏れ出していた。
「本当に子供というかなんというか」
周囲に張っていたバリアを伝って流れていく水を見ながら、頬に"6枚"の花びらが付いた花のタトゥーが浮かび上がっている永久は呆れた口調でそう言っていた。
目線を上げバケツを確認すると鼻で笑って目線を膝上にいる黒猫に落とす。
『姫が標的にされたのか』
「そのようですね。まぁ貴方からすれば好都合でしょうけど」
カラスから頼まれていた事は、良くしてくれる女の子を助けてほしい。というものであった。
その女の子というのが、クラス委員長で虐められている葉山奈央その人である。
最初のうちは知らなかったが昨晩頼み事と一緒に問いかけた時に判明し、彼女と仲良くする理由が1つ増えた形となっていた。
「それで、どうでしたか?」
『佐藤家か。つい先日息子が死んだのに、特に変わりないって様子だった。なんというか、特に悲しんでない。って言葉がよく合うぐらいの平常運転っぷり』
「ふむ……」
親は子供に無関心だった?
昨日の時海という人の話と食い違っているが故に頼んだ事だったが、何かありそうな雰囲気がする。
『で、軽く見て回ったんだが人が良く置く仏壇とやらも置かれてないし、あの時死んだ男の写真が飾ってあるようにも見えなかった』
「……見えない箇所にあったのでは?」
『その可能性もなくはないが、少し可笑しいように思えたのでな』
やはり、何処と無く可笑しい。吾郎に頼んで調査をしてもらうべきだろうか。
そう考えつつ、永久はバリアを少しばかり変形させ個室から出た。
『嫌な予感がする。十分注意してくれ。姫に何かあるとラオが悲しむ』
「分かってます」
吾郎の言っていた事が、本当になるやもしれない。
そう思ってしまうほどの不気味さを感じていた。
教室に何食わぬ顔で戻ると、いじめっ子達の驚愕した顔が目に写り直後に4時限目が始まった。
お昼を挟み5時限目、6時限目と過ぎて行き放課後になると、3人は屋上で合流し今後の動きを確認した。
島田先輩が今日も学校を休んでいる。という情報を入手したため、本日は陸上部に所属している沼田という生徒に話を聞きに行く事となった。
だが、校庭に到着すると。
「あぁ沼田のヤツ今日は部活休むって帰ってたよ」
お礼を述べ校庭を後にする。
「どうするんだー? ほかの仲の良い連中探して話聞くかー?」
「いえ、島田って人の家に行ってみましょう。先に潰せる場所をすべて潰してから、ですね」
それに学校を休んでいる事も気になっていた。ただの病欠ならそれでいいが、もし違った場合……。
「分かったぞ~。未央はどうする?」
「うん? 暇だしついていくよ?」
「……もしもという場合があるので今日は此処で別れましょう。流石に2人も守れません」
「あっ、そっか。うん。分かった。永久ちゃんと愛ちゃん気をつけてね」
「はい。また明日」
彼女と別れ、2人は件の生徒の家を向かい始める。
「それはそうと、私は守って貰わなくても平気だぞ?」
「方便ですよ。大丈夫そうなのは察してますが、だからといって彼女に来られると困りますので」
「そっかー。まぁ学校内は一緒に居た方が未央的にはいいからな~。永久は今回どう思う?」
「単独犯じゃないか、別事件と交差してるか。
「不気味さかー。電脳力関連の事件って大体そうじゃないか?」
「何時もよりその度合が大きいんです。ゴローも恐らく引っかかりがあって唸ると思います」
軽く話しつつ30分ほど歩いた先に島田の家が存在した。
呼び鈴を鳴らすものの、返事はなく人の気配もしない。
「留守……か?」
愛が首を傾げていると、永久が塀を飛び越え敷地内へと侵入する。
「お、こういうのあたし大好物だぞっ」
続いて愛も敷地内に侵入し室内の様子を伺い始めた。
カーテンが締め切られており、良くは見えないが照明器具が点いているようで少しばかり室内が明るい。
微かに何かが腐ったような変な匂いが漂っていた。
「永久、何か臭くないか?」
「ですね。中に入りますよ」
玄関が施錠されているのを確認すると、窓ガラスを割って家の中へと入っていった。
内部はエアコンが付いており暖かく、荒らされたのかリビングが非常に散らかっていた。そして、匂いの正体はキッチンに置かれていた料理の数々が腐っている物から発せられていた。
2階や他の部屋は得に荒らされた様子や、異変は見受けられない。
「……なんだこれ? なんていうか急いで逃げた。って、状態の割にはしっかり施錠されてるし、えー?」
「不自然ですね。目的の人もいなければその家族もいない。かと言って学校に休みの連絡が"ある"」
キッチンがこの状態で普通に生活している。とは到底思えない。
とりあえず連絡は入れるべきであろう、と通信機を取り出し吾郎に連絡を取った。
◇
夕方のニュースを横目に見つつ、永久の報告を吾郎は聞いていた。
「なるほどなー。息子の死を悲しんでなさげな被害者宅に消えてると思われるその友人宅、か」
『掻い摘むとそういう事になりますね。駄犬に連絡をしてもらっても?』
分かった。と返しスマホに目線を落とすと、画面に、もう送っておきましたのです。なのです。と書かれたプラカードを持ったミラーの姿が表示されていた。
「ミラーが送ってた。血痕とかはないんだな?」
『肉眼で確認できる範囲で、ですけど見当たりませんね』
「ふーむ、不思議な感じだな。明らかに異変があるのにも関わらず踏み込んでやらないと正常で平常運転に見える。そのうえ目的もいまいち見えてこない」
すると、スマホが震え菊池からの連絡が送られてくる。
その内容に目を通すと、彼は驚き目を見開いていた。
「……おっと、ちょうどその島田ってヤツの情報だ」
書かれていた内容は、
死因は縊死であり、これまでの犯行と類似したもの。という内容であった。
『事件に巻き込まれたんですかね』
「現状だとそう考えるのが妥当だろうな」
妥当だが、本当にそうなのだろうか? という疑問が脳裏をよぎる。
また後で連絡すると伝え、通信機を外す。するとタイミング良くつけていたテレビから速報です。と、慌てた様子でキャスターがスタッフから何かの手紙を手渡され読み始めた。
『明後日の22時。廿日科学博物館にて、イベントを開催致します。ルールは簡単、あたしを捕まえる事。参加条件は探偵であることのみ。勝利者にはあたしを好きにする権利を与えます。お金がほしい、アレを盗んで欲しい。あんな事やこんな事をして欲しい等々自由に出来ます。ただし、人数が集まらなかった場合は、廿日科学博物館のお宝をもらいます。怪盗レーベンより』
繰り返しキャスターが読み上げる中、あいつまた変な事やろうとしてるな。と吾郎は考える。
『ボス、どうするのです? です?』
「ん? 参加するか否か、か? 勿論スルーするに決まってる。永久もいねーし、参加するメリットもねぇし何より捕まえられんだろアレは」
2重能力者である彼女の能力は武器や防具といった物の生成。そして、空間を切り裂いてのワープ。
普通のヤツにとっ捕まえられるような能力ではないうえに、本人も相当強い事は明白。ただの遊びだろうな。と結論付けた所で、キャスターの口から最後の1文が読まれた。
『PS、とある冴えない探偵さんへ。強制参加ね。参加しないと、個人情報と共に有りもしない噂流しちゃうぞ。だそうです』
それから解説に呼んでいた人物に意見を聞き始めていた。
冴えない探偵。それは、館の時に吾郎の事を指す言葉であった。今回も恐らくコレが使われている。
彼は思わず口を開けて固まってしまう。
『もう一度聞くのです。ボス、どうするのです? なのです?』
「参加、するしか……ない、だろうな」
あいつが言う有りもしない噂。どういった内容かは不明だが、碌でもない事に決まっている。
吾郎は引きつった顔で歯切れの悪い返答をしていたのだった。
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