9話 銀行と強盗
一方その頃、モールへと着いた永久は目を輝かせつつ買い物をしていた。
先に買ったゲームはファミコンやスーパーファミコン、PCエンジン。ゲームボーイやアドバンスと言った、古いゲームカセットばかりが入った紙袋を手にかけ、現在は服を選んでいる最中であった
動きやすくかつ可愛い服。ついでにスカートはひらひらしてしまうのでナシで安いもの。
選ぶ条件としてはこのような所だが、どうしても似通った服になってしまっていた。
「やっぱり多少は冒険を、いやいや此処は手堅く……ふぅーむ」
だがそれでも、その中で組み合わせを考え楽しみを見出していたのだった。
◇
一方の五郎はと言うと、強盗の言われるがまま他の人々と共に一箇所に集められ人質となってしまっていた。
犯人グループは顔を隠しライフルや拳銃で武装した3人に、目立った装備が見えない1人の計4人。
人には念の為に薬を持っていけ。と言っていたのに対し、当の本人はご使用の道具を何も持ってきておらず、なんとも情けない格好となっていた。
下手こいた。と、後悔しつつ周囲の状況を確認していく。
武装をして居ない1人は恐らく電脳力者。しかも、余裕ぶった態度を取っている所を見ると、脳力者としての優越感か自信家かは分からないが油断している様子が見られる。
他の3人はと言うと何処か落ち着きがなく、緊張もしくは焦っている節が見られた。
銃を国内に持ち込む割には手際も悪い。という印象を持つ。
何処かの援助を受けたか、買い取ったか。どちらかは不明だが何かしらの援助を受けて犯行に及んだ。という線が濃厚であった。
尤もこのような事が分かった所で、永久がこの場に居なければなんの解決も出来ない。
もう少し護身術とか覚えるか。などと考えていると、先程の刑事を思い出し周囲に目線を送る。
すると、等の彼も"少し遠い位置"で一緒に捕まっているのを発見する。
「まじか」
彼もまた戦闘能力が低いのか? と考えていた矢先、外が騒がしくなる。
どうやら、警察が銀行を取り囲み始めたようであり、犯人の1人が確認し更に焦り始める。
この様子ではちょっとしたきっかけで、引き金を引く奴が出て来る。そう思える状態であった。
下手に動けないだけか。そう考え、隙を作る時間が必要になると思い至る。
今一度周囲に目線を送り、使える物がないか探っていく。
火災報知器は運よくほぼ真上。後は受付のボールペンくらい。
「おい、どうするよ。もう囲まれてんぜ」
「想定より速い。……強行突破しかないか?」
「いいじゃん、強行突破。望む所」
武装をしている犯人のうち2人が逃走の打ち合わせを始め、注意が此方から少しばかりそれる。
そして、1人は今金庫を開けさせお金を詰めている最中。余裕ぶっている奴はあくびをしつつ外の様子を観察していた。動くなら、このタイミングだな。
タバコを数本取り出し、輪ゴムで束ねると彼の後ろになるよう少し移動しかつ、火災報知器の真下になるように立てて置きマッチを擦る。
「一か八か」
「ちょ、ちょっと?」
近くに居た銀行の受付嬢が困惑した顔で、小声で説明を求めるように話しかけてくる。
「しー」
人差し指を立て、静かにするようジェスチャーを送りタバコに火を付けマッチの火を消す。
そして、此方の様子を伺っている刑事にアイコンタクトを送り、深呼吸をした。
後は煙が火災報知器に到達して鳴らしてくれるのが一番いいが、恐らくは。
「すんすん……タバコ臭い」
「は? そういえば」
少しして余裕ぶっていた奴が気が付き、他の仲間も続いて気がついた。
人質に注意をが戻ると、薄っすらと立ち昇っている煙を見つけ銃口を煙の前に居る五郎へと向けた。
「何やってやがる。立て」
「っち、バレちまったか」
手を挙げてゆっくりと立ち上がり、更にわざとらしくこう続けた。
「あーあー、煙で火災報知器作動させて、動揺してる所で一気に制圧なんて考えてたんだけどなー」
「馬鹿かお前、最近のはそう簡単に鳴らねぇっての」
彼がわざと口にしたのは、注意を引くためであった。奴らは緊張しており、視野が狭くなっている。
そこに抵抗する人間。という囮を放り込むとどうなるか。結果は更に視野が狭くなる。
「知ってるよ。三下」
五郎はそう返し、身を翻す。
指が掛かっているトリガーが引かれる。その瞬間、距離を詰めていた刑事が犯人の腕を蹴り上げライフルが宙を舞う。
「んなっ!?」
驚き、反応する間もなく繰り出された回し蹴りにより1人目が蹴り倒され、もう1人の銃口が刑事の方を向くもほぼ同時に正拳が顔にめり込み殴り倒されてしまう。
そして、彼の顔には目に切り傷が入ったようなタトゥーが浮かび上がった。
「あいつ、対電脳力者の刑事か」
五郎はカウンターを飛び越え、2本のボールペンを取るとキャップを取り投げ捨てた。
「っは、役立たず。おい、そっちにも行ったぞ!」
最後に残った男は薬を取り出すと、噛み砕き顔にタトゥーが浮かび上がった。
「さて、遊ぼうぜ。実践って奴? 早くやってみたかったんだよ」
不敵に笑い、リズムよくフットワークを刻み始める。
「……言い訳は聞かん」
「は?」
「
刑事の身体が傾くと、一瞬で距離を詰め懐へと飛び込んでいた。
繰り出された正拳突きは、腕をクロスさせ的確に防がれる。
「うおっ!? はや━━」
瞬時に回し蹴りが犯人の顔へと襲い掛り、彼を蹴り飛ばしていた。
五郎はその様子を、身を隠しペン回しをしながら眺めていた。
「おー、すげぇなあいつ。っと、此方も」
奥から出てきたもう1人の足にボールペンを突き刺し、叫び声と共に銃声が鳴り響き男の体勢が崩れる。
発射された銃弾は誰も居ない床に着弾。次に壁へと伝って天井の順に貫き、驚いた人質の悲鳴が幾つか響き渡る。
そして、五郎はライフルを手抑え掴みかかるように犯人を押し倒した。
「く、はなっ━━ぐああああああ!!」
続いてライフルを持っている手にボールペンを突き刺す。すると、痛みによりライフルを握る力が弱まった瞬間を狙って、ソレを遠くへと弾き飛ばした。
「上手く行ったなっ!」
そのまま馬乗りとなり、マウントポジションを取ると数度殴って犯人を気絶させた。
「いてて、昔よかマシにはなってるか?」
立ち上がり、ロビーの方へと視線を送る。先ほど蹴り飛ばされていた男が立ち上がっており、回りに膨らませたガムのような半透明の丸い球体が浮かび上がっていた。
「強い、強いね。あんた、接近戦はじゃまず叶わないや。けどコレに触ったら溶けちゃうよ。ドロドロに溶ける」
鼻血を拭い、余裕の笑みを浮かべる。
「言ったはずだ。言い訳は聞かんと」
と、言うと刑事はゆっくりと歩を進ませ始めた。
「何処が言い訳なんだ、ゴラァ!!」
膨らませたガム球体が刑事に迫る。も、彼は焦る様子を一切見せず、虫でもはたき落とすかのように片手で球体を割っていき周囲に半透明の液体が飛び散る。
「えっ、なんで……だ!?」
確かに男の言う通りその液体は溶けるようで、周囲に飛び散りタイルや椅子などを溶かしていっていた。
だが、刑事に付着したモノだけはそのまま蒸発していくだけで、溶ける様子は一切見受けられない。
「来るな、来るなァ! 来るなあああ!!!」
犯人は次々と生み出していき襲わせるが、その全てを弾き顔を捕まれる。
「ひっ!?」
「
ゆかへと叩きつけ一瞬で意識を奪い、懐から警察手帳を取り出し振り返るとこういう。
「警察です。動くのが遅くなり申し訳ありません。が、もう大丈夫です」
手短にそう告げた途端、人質は外へと駆け出し始める。
中にはお礼を述べる人も降り、五郎に頭を下げていく人も居た。
「探偵。貴様、戦えない。と小耳に挟んでいたが、ちゃんと動けるじゃないか」
刑事は彼の元に歩いていきつつ話掛ける。
「多少はな。けど、複数人相手とか訓練してる連中とか大抵の電脳力者相手には無力だし、これじゃ全然駄目だ」
今回は上手くいったが、一歩間違えれば銃弾が人質の方へと向かっていた。胸を張ることは、到底出来ない。
タバコへと目を向けると、どうやら逃げる人々に踏み潰され火は消えている様子であった。
「それより、俺の意図察してくれて助かった」
「あれだけ動いていればな。嫌でも気がつく」
「あ、それと俺達って有名だったりする?」
「有名という程ではない。が、一部には警戒はされる程度には知られては居る。……探偵なのにそんな事も知らんのか」
呆れ声でそう言われてしまった。
「自分の噂ってほとんど耳にしないし、敢えて調べようとも思ってなかったからな。なんというか勝手に無名だと」
「なるほど、そういう事か。お前の助手の方は知ってるかもしれんが、今度から調べ自分の立ち位置くらいは知っておけ」
◇
同日、22時。
とある残業で疲れ切った女性が弁当とお茶が入ったコンビニ袋を片手に、ゆったりとした足取りでアパートに辿り着いていた。
「あーもー、サビ残多すぎだってのよ。ほんと、めんどくさっ」
などと独り言をぼやき、郵便受けを確認する。
「ん? 封筒? なんで此方?」
宛名を確認するも、書かれておらず不審に思うも疲れからかバックに入れため息を付く。
「はぁ、下着ドロ入ってからなんか、探偵が探ってるとか言われたり最悪。んもー、なんだってのよ。"探偵に依頼した覚えなんて無い"のに、誰よもう、頼みやがったやつぁー!」
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