ファイル2
4話 能力と老爺
電脳力者。
そう呼ばれる人々は日本だけで数十万人。全世界だと数億人は居るだろう。と噂されています。
彼らはどのようにして生まれきたのか。簡単な解説を交え迫っていこうと思います。
付けていたテレビから垂れ流されている特番を聞き流しつつ、五郎は報告書を書いていた。
「今更迫ろうってなぁ」
始めて電脳力者が現れたのが、約5年前。マッドサイエンティストと名高い
その内容とは、脳の一部を機械へと置き換え、電子機器やネットに直接繋がる。脳の機能の代替とする研究を行なっており失敗続きの末、やり方を変えた時に発現した。
ある機械へと置き換えるのではなく、[電脳]と呼んでいるチップを頭に組み込む事でそれは可能となる。
という、一見すると意味が分からない内容でした。
ですが直後に顔に入れ墨が入った少女が現れ、炎を操ってみせたり、水を操ってみせたりしたのです。そう、彼が発表したのは超能力の人工発生機だったのです。
最初こそ、馬鹿げている。ただのCG合成だ。スティモシーバーの再来、非人道的だ。といたる所で囁かれバッシングを受ける事となります。
ですが、徐々に危険なことを承知のうえで、彼の手術を受け能力を得た人々が現れ始めたのです。これにより次第に世間の間で能力を得た人々を、電脳力者。と呼ぶようになっていったのです。
そして博士は、手術技術を隠すような事はせず公開したのです。電脳もこれを見越したかのように量産が進んでおりました。論争が絶えず避難の中にも関わらず、結果として電脳力者は爆発的に増えました。
何故、増えていったのか。人によって理由は様々でしょうが、人知を超えた能力を扱える。創作物の能力者になれる。そう言った憧れを持つ人々が多く受けたのではないか。と専門家の間で言われています。
能力は"基本的"に1人に1つ。能力はランダムですが、能力を手に入れ救助や災害時の被害軽減等、社会貢献に生かされていった反面盗難や窃盗、盗撮や殺人と言った犯罪を犯す人が爆発的に増えたのです。
無論軍事転用にも。
それを重く見ていた国連は、電脳手術の規制を提案。後に反対意見を押し切り可決。各地で規制が開始しました。ですが既に遅く、世界中に電脳力者が溢れていたのです。
現在では、一般的には電脳手術は禁止。特例として、一定の訓練や実績を積み━━。
ブチッと言う音と共にテレビが消え、一瞬故障かと考えた所で引き抜いたコンセントを手に持つ永久の姿があった。
「とても、不愉快です」
「いやそれは俺の台詞なんだが。別にいいだろう、批判されてる分けでもないんだし」
永久は先程特番でやっていた電脳力者のうちの1人である。
そして、電脳力者になった記憶。いや、五郎と会う以前の記憶がほとんどない。
一般的に言う記憶喪失の1種であり、本人から言わせて貰えばほしいと思って手に入れた分けじゃない。とのことで、電脳力者に関する話を嫌っている節がある。
だが、有事には躊躇なく使うし、そもそもこの仕事ではその力がなければ話にならない場面が多い。なぜなら。
「嫌です。で、報告書を今時手書きって、何時の時代の人ですか貴方は。昔の人もタイプライターくらいは使っていたというのに」
「仕方ないだろ? プリンター逝っちまってるんだから」
最後の1文を描き終え、ボールペンを置くと彼は背伸びをする。
「やっと終わった。永久、茶くれ」
「その程度、自分で淹れて下さい」
彼女は何処か不機嫌そうだったため、はいはい。と反論せず渋々了承し立ち上がる。
「私の分もお願いします。うんと熱いので」
と、頼んだ彼女は笑顔であった。
「やられた」
キッチンに立ち、お湯が沸くのを待ちつつ五郎は呟いていた。
不機嫌を装いつつ、お茶を入れさせる算段だったのだろう。何時の日か立場が完全に入れ替わる日が近いかもしれん。と考えつつ急須にお湯とお茶っ葉を入れ、オボンに湯呑と一緒に乗せて運んでいく。
戻るとテーブルの上の報告書を纏められており、テレビを付け時代劇を見ていた。
「お、さんきゅ。お前、時々婆臭いよな」
「何処がですか?」
湯呑にお茶を入れ、永久の前に置く。
「今こうしてるのが正に、婆臭い」
「何を言いますか。祖父祖母に懐いてしまった設定の幼気な少女。なだけですよ、何処が婆臭いというのですか」
ただの言い訳じゃないか。と考えつつせんべいもテーブルに置くと彼もソファーに腰掛ける。
「設定って自分で言っちゃうのな」
「だって居ませんし。それはそうと、最近ソファーが臭いのですが、誰の加齢臭でしょうね」
「ぐっ、仕返しのつもりか……!?」
「どうでしょうね? 異臭おじさん」
「異臭は語弊が酷いからやめなさい!」
言い負かせん。と呟きせんべいに手を伸ばす。
すると、呼び鈴が鳴り響き2人は目線をあわせる。
「ゴロー、私はお茶を淹れてきます」
「急に殊勝だな!? まぁいい、俺は対応に行ってくる」
簡単に身嗜みを整え、玄関に赴くと1人の老爺が立っていた。
「ようこそ、澤田探偵事務所へ。どうぞ中へお入り下さい」
彼を中へ招き入れ、永久の淹れたお茶を出し話を聞いていく。と、話が進むにつれて五郎の顔が次第に険しくなっていく。
「お、おじいさん? あのぉ、看板の文字は見ましたかね?」
「澤田探偵事務所じゃろ? このお茶美味しいねぇ」
お茶を音を立てて
「それじゃなくて、"電脳力者"専門。って文字の所をですね」
そう、彼の探偵事務所は電脳力者が関与している案件を専門に扱っているのであった。
各地で起きている電脳力者の事件は多く、警察の手では余る。と考え永久と話し合って開業したはいいが、客足が乏しく現状の金銭事情に至っているわけである。
更に無意味に張っている意地も拍車を掛けている。と言う事を彼だけは気がついていなかった。
「良いじゃないですか、別に。もしかしたら、能力者絡みかもしれませんし。今日のゴローは、頭が硬すぎて便秘のようです」
「何? 普段俺の頭の中糞が詰まってる。とかそう言いたいわけ?」
「良く分かりましたね。流石は糞から生まれた探偵です」
慣れてきただけだったが、依頼人の前でこれ以上発展させる分けにも行かず言い留まる。
「とりあえずですね。此処は普通の調査は行なってない分けですよ」
「なんじゃ? 此処まで来たのに
しょんぼりするおじいさんと見て、永久が五郎を睨みつける。
「うぐ……わ、分かった。おじいさん。一応、お聞きします。能力者絡みの可能性はありますか?」
「分からんのぅ。ゼロとは言えんと思うんじゃが」
「ならそれで良しとします。受けましょう。もしも、能力者が出ると他じゃ危険かもしれない」
彼は電卓を叩き、彼に見せる。
「1万5千……前金、という奴ですか」
「あ、いえいえ。調査完了後に払ってもらう予定の金額になります。此処から、関連する能力者と遭遇時に上乗せの形となりますが、強さによって上乗せがまちまちなんですが、ご了承してもらえますでしょうか?」
「余り高すぎると払えんのぅ。50万とか行ったりしますかの?」
「そ、そのレベルはほぼないかと。あっても数万程度だと考えて下さい。払ってもらえるのでしたら多少遅れても問題ありませんので、ご安心を」
「なら、よろしくおねがいします」
彼は頭を下げた。それから行動範囲や話に出てくる店等を念のため幾つか聞き手帳にメモをしていく。
最後に連絡先を交換すると、お饅頭を置いて彼は帰宅していった。
「受けるなら、最初から素直に受ければ良かったのに」
永久は箱を開け饅頭を1つ頬張っていた。
「うっせぇ。お前が居なかったらこんな仕事受けてねぇよ。それよか、調査開始は明日からだ。今日は早めに寝るぞ」
「はーい。これとても美味しいですよ」
気がつくと、半分ほど平らげた後であり急いで取り上げる。
「食いすぎだ! 残りはまた今度」
「んぐ、いえ残りはゴローの分です。ちまちま食べていると私の分がなくなると思いまして」
「そうかい。俺はそんな食い意地が張ってるように見えんのかよっと」
彼は1つつまみ上げ、口に運ぶ。
「お、うまい」
その後、彼も残り半分をものの数分で平らげたのであった。
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