2話 助手ちゃんと毒舌

「おうどんとさようならの食卓。大変、素晴らしいです」


 夕飯を終え、五郎は手帳にかかれている事を見つめていた。

 今日は依頼人である美樹さんの自宅、アパート周辺の聞き込みを行なっていた。

 概ね彼女が言っていた通り、爆竹の音が聞こえ外に出て確認してみると、彼女の家のドアが変形しており犯行が終わった後だったという。


 その後は警察に通報。変な事に一様に犯人の姿は見ていないそうだ。


「んー。複数犯っぽいな」


「複数犯で下着ドロとか救えませんね。死ねばいいのに」


「言ってやるな」


 何故、このようなリスクを負うような行動を取っているのか。

 そもそもやっている事に対しての、見返りが少なすぎる。


「割に合わない。とでも言いたげな表情ですね」


「そりゃそうだろ。能力使ってまで、奪うのが下着だけじゃぁな。生粋の変態でもなけりゃ、赤字もいいとこ……」


 彼は途中で言葉を発するのをやめ、顎に手を当て思考を巡らせ始める。


「永久、パソコン貸せ」


 そう言って、彼女の部屋へと向かい置かれている約20年近く昔の見た目をしているパソコンのスイッチを入れる。

 中身を少しばかりかえOSを変え、等々ごまかしつつなんとか動いていはいるものの、やはり動作がとても重くあまり使えたものではない。

 数十分をかけ在るサイトにアクセスし、売られているものの一覧を確認していく。


「うわっ、変態極まってますね」


 アクセスしたのは下着や夜の玩具を個人で売買しているサイトであった。ただし、表では扱われにくい交渉が行われており、所謂いわゆる闇サイトや裏サイトと呼ばれる場所であった。

 それを見た永久は当然顔をしかめ、彼から距離を取る。


「ちげーよ! 盗ったのを出してないかと思ってな」


「それならば、普通に金銭を奪った方が速いのでは?」


「所がどっこい。ビンゴってな。お前もコッチ来て見てみろよ」


 彼は得意げに言って、画面を指差すが嫌な顔をし彼女は顔を背ける。


「幼気な私に、そのようなサイトを見せて変態に調教しようという魂胆ですね。ゴローは最低です。糞野郎と成り下がってしまいました! 貴方なんて便所に流れてしまえばいいのです!」


「だから、それ自分で言うなぁ!? ついでに幼気ならそんな言葉使いもしないからな!」


 五郎は下着が映っている画像の部分を、その辺にある漫画で隠し永久を呼ぶ。

 警戒しつつ寄ってくると、五郎の膝の上に乗り文字を読み始める。


「えっと……下着一式の5点セットで、薬を3つ?」


 口に出すと五郎に視線を向ける。


「犯人である確証は?」


「普通、裏サイトとは言えこんな危ない取引内容にはしない。売人宛だとしてもネットじゃもっとオブラートに包んで、もっと誤魔化すもんだ」


「答えになってないと思いますが?」


「あー、そうだな。下の方よぉく見てみな」


 そう言われ、彼女は画面に目線を戻すとある記述を発見した。


「なるほど、犯人は底抜けの馬鹿のようですね」


 其処には被害者の名前が書かれており、盗撮らしき依頼人である美樹さんの写真が見切れていたのだ。


「ですが、このように馬鹿なのであれば国の糞共が先に捕まえていると思いますが」


「此処で口の悪い永久ちゃんに問題だ。なぜ爆竹で気を引いたのに、見つからなかったのか」


「そりゃ透明になる能力でも使ったのでしょう? でも、それだけならサーモグラフィー等を使えばいい話です」


「よく出来ました。次に爆竹とこんな馬鹿な手段を講じている理由についてだ」


 考えつつ彼の膝の上から降りるとこう口にする。


「目的が違う?」


「正解。可能性の1つとしては勘定に入れてはいたが、これをみて確信に変わった。奴ら、恐らく出張ってきた対電脳力者の連中が目的だろうな」


 わざと同じ様な犯行を行い警察の目に着きやすくした。そして、こうやって闇サイトながら、足の着きやすい手段を講じて取引の振りをして餌を撒いた。

 だが、阿呆らしい事件過ぎて表では笑い話程度となる。それに、詳しく報道しようものなら、手段が手段なだけに阿呆に付け込まれた警察は無能。などとバッシングもされやすい。

 どの程度かは不明だが、情報が報道局に開示されていない。もしくは多少なり情報規制が入っている可能性がある。


「なるほど。その線が当たっていれば、大胆な割りに秘密裏に動いていると考えられますが。やはり、馬鹿にしか見えませんね。どの程度当たっていると?」


「大体7割か8割方当たってると思うぞ。つーわけだ。もう分かってると思うが、行く時は"薬"忘れんなよ」


 そう言って、下着をカートに入れ取引時期を明後日に設定し送信する。


「分かっています。……それはそうと、しれっと私のパソコンちゃんで下着を買わないで下さい変態」


「実際には買わねぇよ!? ただ、こうした方が近道なだけだ」


 電気代が勿体無い事から、一旦サイトを閉じパソコンの電源を落とす。


「どーでしょうね。で、時になぜ明日ではないのでしょうか?」 


「先に聞き込みだ。行く先は2つ」


 翌日。

 2人は午前中をかけ、これまでに被害に合った家の周辺住民から話を聞いて回っていた。

 聞いた内容は爆竹の音と、外に出た時不審な人影を見なかったか。更にその後の現場付近の状態だ。


 結果としては、他の箇所では爆竹ではなく、サイレンのような音だったり、叫び声だったり様々だったが全ての事件で犯行後に何らかの音が出ていた。

 次に不穏な人影を見たと言う人は存在してはいなかった。だが、誰も居ないのに足音を聞いた。という人が居り、姿を消す能力者が居る事を確信することが出来た。


 最後に、周辺は何処も直ぐに警察に連絡し人混みが出来ていたとのことだ。

 隠れ、人が少なくなった頃合いを見計らって。とも思っていたがこの線は先程の情報をあわせ、可能性は限りなくゼロに近いだろう。


「疲れました~」


 俺達はファミレスに入ると、永久が聞き込み中に複数人のおばちゃんからちゃっかり貰っていたお金を使い、昼食を取る事になった。

 ウェイトレスを呼び、永久はスパゲッティとカレーを注文し、五郎にオーダーが聞かれる。


「俺はコーヒーだけで」


 注文を反復した後、ウェイトレスはメニュー表を下げ奥に下がっていく。


「それだけでいいのですか?」


「流石にお前が貰った金で、俺まで食う分けには如何だろ。だから自分で払える分を頼んだだけだ」


 そう言って、永久にコーヒー代を渡す。


「妙な所で律儀ですね。ゴローは」


「これも俺の美徳だ。覚えとけ?」


「わかりました。ゴローは守銭奴の汚い奴。良く覚えておきます」


「どうしてそうなった!?」


 程なくして料理とコーヒーが来て、彼はちびちびと飲み始める。

 美味しそうに食べる永久を頬杖をついて見ていると、彼女は視線が気になるのか飲み込むと口を開く。


「ゴロー。お腹が空いたのでしたら、頼んでもいいのですよ」


「ちげーよ。ただ、親になったらこんな気分になるのかね。って思ってただけだ」


 格好を付けるようにカップを持ち上げコーヒーを飲もうとする。


「ゴローの娘になった覚えはありませんけどね」


 が、永久にそう言われ彼は肩をすくめて笑っていた。

 すると彼女はスプーンにカレーを掬うと五郎に向ける。


「でも、流石に可愛そうですので、少しばかり分けてあげます。はい、あーん」


 面くらい少しばかり固まってしまう。


「何、固まってるんですか。早く」


「え、あ、すまん。好意は嬉しいんだが、おっさんとの関節キスとか嫌だろ? それに恥ずかしい」


「……なるほど、死ぬほど嫌ですね。ちょっと待っていて下さい」


 彼女はスプーンを置き、席を立って何処かへ向かう。


「んあぁぁ。ちょくちょく心にグサッと来る一言あんだよな。地味に辛い」


 小声でぼやいていると、彼女が戻ってきた。その手には子供用の器とフォークとスプーン。


「まさか」


 彼の予測通りカレーとスパゲッティを器に少しばかり移し、差し出される。


「どうぞ」


「だろうと思ったよ」


 これで食事をするのはとても恥ずかしい。いい大人が子供用のスプーンやフォークを使うのはとても恥ずかしい。だが、此処までしてもらった永久の好意を無下には出来ず、彼は周囲の目を気にしながらそれを食べる事にした。

 勘定を済ませファミレスから出ると、頭を撫でててこういった。


「ありがとな。恥ずかしかったけど」


「いえいえ。恥ずかしがって食べているゴローの様子は、とても面白かったので満足です」


 ……こいつ。好意働く振りして、俺を使って遊びやがった!? などと五郎が思っていると、永久の足取りが普段より少々軽く上機嫌で歩いている後ろ姿を見て、湧いて出た怒りが何処かへと消え去る。


「ほんと、DVとか受けてる主婦は似た気持ちになるのかね。おい、待てよ」


 続いての聞き込み先は、依頼主である美樹さんの周辺人物。

 聞く内容は仕事や人柄といった事から、人付き合い等色々と聞くが、1人の人物から根掘り葉掘り聞くのではなく複数人に質問内容をばらし手短に済ませていた。


「バレるような手ですね。貴方も阿呆病患者に?」


「んだよ、阿呆病って。わざとに決まってんだろ。向こうに嗅ぎつけさせるためだ。もし、何かしらアクションがあったら、大なり小なり分かるし先んじて言い訳も考えてある」


 入手した情報は普通の会社員や割りと人当たりがいい。というモノばかりで、裏があるように思えるような情報は何も出てこなかった。


「完全に空振りですね」


 結果帰り道、そう言われてしまっていた。


「俺の思い込みだったのかねー。うーん、今回の読みも自信無くなってきた」


「大丈夫です。外れていた場合は、名のない探偵から名のない無能探偵にクラスチェンジするだけですから」


「そうはなりたくないな。はぁ~、早く帰ってサイトの確認すっか」


「前言撤退します。下着フェチ変態糞探偵でしたね」


「だから、違うって言ったろ!?」

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