MBC~異能力探偵事務所~

猫缶珈琲

1部

ファイル1

1話 探偵と助手ちゃん

 ある街の華やかな繁華街。

 だが一本間違って裏路地へと足を込めば、街の風景が変わり静かでありつつも何処か重い雰囲気を漂わせていた。

 まだ治安がいい。とよく耳にする。

 それは、表向きの話であり、昔の話であり今は別段良いとも言えない。

 電脳力者。そう呼ばれる所謂いわゆる異能力や超能力を使う者が出現した事により状況が一変したからであった。


 そんな裏路地に建つ寂れた事務所。そこで古いテレビを改造し、無理に使っているモノからニュースが垂れ流されていた。

 内容はよくあるしょうもない事件。それらに紛れ込む形で在る報道が成された。


 電脳力者による空き巣事件。

 狙われた家は、ドアが丸い球体へと変形し電子ロックが意味を成していない。そして、なぜか警報もならないそうで捕まえる事が困難だそうだ。


「指紋とかDNA鑑定とかで、さっさ捕まえろっての」


 1人の中年男性が、ボロボロのソファーに腰掛けそのニュースを見てぼやいていた。

 彼の名前は澤田さわだ 五郎ごろう。この寂れボロボロなビルの一角を借り受け探偵をしている。

 報道には続きがあり、金品は取られておらず一様に下着が取られていたそうだ。


「……ただの変態か」


「ゴロー。貴方のようですね」


 エプロンを身に着け、鍋を持った長髪の少女がそう彼に告げる。


「一体何処が、変態だって言うのかね」


 乱雑にテーブルの上に置かれた新聞や雑誌、小物を払い退け床に落としていく。


幼気いたいけな私を拾った。十分、逮捕理由になるかと思いますが」


 少女は鍋をテーブルに置くと、小走りでキッチンへと戻っていく。


「自分で言うか。それ」


 彼女の名前は時枝ときえだ 永久とわ。5年ほど前、拾って警察に連れて行こうとしたが、なんだかんだあって彼の元に居候している子だ。

 現在では助手として活動している。のだが、とにかく口が悪い。

 テレビに目線を戻すと、何やら評論家が電脳力者についての話を始めていた。


「不愉快なので、変えてもらっても宜しいでしょうか」


 永久が2つのおわんと2膳の箸、お玉を持って戻ってくる。


「やなこって、こういう情報収集も大切なんだよ」


「そのような、糞のためにもならない詭弁が大切だと? 冗談も休み休み言って下さい。変態ゴロー」


「言葉遣いが汚いうえに、人を芸名のように言うんじゃありません」


 ため息を付き、テーブルに置いていたはずのリモコンを探すが見当たらない。

 先程落としたモノに視線をむけると、新聞紙の裏に顔を出しているのを発見する。


「あったあった」


 呟きつつ、リモコンに手を伸ばし拾い上げる。


「んで、夕飯は?」


 適当にチャンネルを変えていると、うどん。と短く返答され彼の眉間にしわが寄る。


「おいおい、またかよ。昨日も一昨日も一昨昨日さきおとといもそのまた前も3食うどんだったんだぞ!?」


 鍋の蓋が開けられ、なんの具材もない素うどんが眼光に広がった。


「しかも具材ないし!?」


「仕方ないじゃありませんか。どこぞの変態が、仕事もせずぐーたらやっているせいで、この様な状況になっているのです。貴方には自業自得という言葉を送ってあげましょう」


 ため息を付きつつ、麺とお汁をお椀によそいすすり始める。


「時に、仕事は来ましたか?」


「お前もずっと事務所居たろ? だーれも来てないの知っててよく言えるな」


「電話があったでしょう」


「大家からの催促だけ」


「使えませんね」


 時折辛辣な事を吐くが、今日は一段と酷い気がした。

 食べ終え、風呂に入って、歯を磨き毛布を取ってくるとボロボロのソファーに横になる。

 この事務所は、仕事場であり生活空間でもある。単に自分の家を持つとお金が掛かるから、広めの所を狩りて住み込もうという魂胆なわけだが。


 あぁ、神様。明日こそは大口の仕事が来て一攫千金となりますように。

 などと五郎が考えていると、寝間着姿の永久が奥の部屋から現れる。


「ん? 一人で寝れないから、添い寝でもして欲しいか?」


「いえ、そのようなどうでもいい事ではなく」


 淡々と返し、一服置くとこう続ける。


「ただ、おやすみなさい。と、言いに来ただけです」


 妙に優しい口調で言われ、ため息混じりでこう返してやる。


「おう。おやすみ。また明日な」


「はい」


 翌朝。

 いびきをかいて寝ている五郎を、永久は顔面を殴って叩き起こし朝食のうどんが出される。

 寝ぼけ眼でそれを啜り朝刊を読んでいると、とある記事を見つける。


「ネット世界のアイドル、活動休止。だってよ」


「アイドルなんぞに興味があったのですね。意外です」 


「ねぇよ。ただ、コイツ結構有名でな」


 そもそも、電子で構築されたアイドルが活動休止。なんてありえるのか。と言う疑問もある。

 クラッカーにでも狙われたのか、はたまたデータが飛んだと言う理由も思い浮かぶ。が、他の連中が対処をしているという特集が以前あり、この線は薄そうだった。


「事件の香りがするな。って、俺の勘がささやいてんだよ」


 彼はキメ顔でそう言っていた。


「馬鹿な事を言っていないで、目の前のお食事事情をどうにかしないとならない事から目を背けないで下さい。お仕事用として分けてるのに手を出すわけには行きませんし、私だってもう嫌なのですから」


「はい……分かってます」


 年齢は二回りぐらい違うが、何故か尻に敷かれている感覚に陥っていた。

 それから何時もの暇な午前中を過ごし、正午に差し掛かろうとしていた時の事だった。

 呼び鈴が部屋に鳴り響く。


 突然であり、久々な事もあってか2人共無反応であった。

 そして、2回目の呼び鈴が鳴り響いた時にやっと気が付き反応を示す。


「……!!! ゴロー、依頼、依頼人です。掃除、掃除を致しませんと!」


「あ、まじだ。って、今更掃除してもおっせぇよ!! 永久はお茶とお茶菓子用意しろ、俺が出るから」


「いえ、此処は私が。ゴローがお茶の用意を」


「仕方ないな。って、なんでだよ! ほら早く準備しろ」


 五郎は簡単に身だしなみを整え、玄関へと向かい深呼吸をすると古びたドアを開けた。


「ようこそ。澤田探偵事務所へ」


 依頼人は若い女性であり、若干引きつった顔をしていた。


「ほ、本当にやってたんですね」


 じゃぁなんで来たんだよ。と、五郎が内心思っていると彼女は一歩踏み出しこういった。


「そうでした。犯人を見つけてほしいんです!!」


 妙に凄みがあり、一歩後ずさりし彼女を事務所の中に招き入れた。

 彼女の名前は金田かねだ 美樹みき。なんでも、連続空き巣下着ドロ事件の被害者の一人のようであった。

 なんでも事件にあったのは一ヶ月前で、2人目の被害者に当たる。

 報道にあった通り、盗まれたのは下着のみで金銭は一切取られていなかったと言う。


「ドアが変形していた。と報道にありましたが、よく別の奴が入り込んで盗んで行きませんでしたね」


「それは私も不思議に思っていたのですが、なんでも爆竹のようなモノがなってた。と近所の人が言っていたのでそのせいかと」


 報道にはなかったな。見落としただけか?


「では、依頼内容は下着ドロの犯人を、国の犬共より先に捕まえる。これでよろしいでしょうか」


 永久、言い方! 言い方ァ!

 と心で叫び、彼女を小突くが、鼻で笑われてしまう。


「い、犬? はい。警察より先にお願いしたいです」


うけたまわりましょう。料金のお話は事件かいけ━━」


「前金として、これだけお願いしても宜しいでしょうか」


 五郎の話を遮り、永久はピースサインを作る。


「に、二万円? まさか二十万!?」


「いえ━━」


 話を終え、連絡先を交換すると彼女は事務所を後にした。

 2人は着替えると街へと繰り出し、食材の買い出しへと向かっていた。


「は~良いですね。お金。最高です」


 彼女は千円札を2枚広げ、うっとりと見つめていた。

 要求したのは二千円であり、本当に目の先の食事事情しか考えていなかった事を再確認する。

 なお、依頼人である美樹さんには逆に安すぎると驚かれてしまっていた。


「時にゴロー。どう探し出すつもりです?」


 警察とは最低限のパイプは持っているが、永久が深く関わる事を拒んでいるため情報提供等の利害の一致による協力関係にはなっていない。

 何時も頼っている情報屋も、今は街を留守にしているうえに連絡がつかない。


「まずは聞き込み」


「古典的ですね。別ので」


「贅沢言うな。それより、お前はどう思う?」


「何をですか?」


 永久はお金をポケットに仕舞い、目線を五郎へと向ける。


「警察より先に、って所だよ。何が何でも掴まえたいから、別途で頼む。ってのは分かるが、先にってのがちと引っかかってな」


「糞をこしらえる犬共が嫌いなだけじゃないですか?」


「その言い回し変えろ。……それだけなら良いんだがな」


 スーパーへと着き、中に入りカートとかごを取る。


「そのように気になるのでしたら、直接聞けば良かったのでは?」


「ばーか、そんな事してみろ。最悪ご破産だ」


「それは困りますね。ま、どうとでもなるでしょう。今はそれよりお昼です~」


 上機嫌にカートを押し、彼女は小走りで食品コーナーへと向かう。


「あ、コラ! 走るな!」

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