とある幼馴染ヒロインの嘆き
野本 美羽
とある幼馴染ヒロインの嘆き
今日、ずっとずっと、それこそ幼稚園生の時から好きだった幼馴染に、振られた。嬉しそうな幼馴染に「やった彼女ができた!」って、笑顔で。私はちゃんと笑えただろうか。せめて最後まで良き幼馴染だと思ってくれたんだろうか。
別に付き合ってたわけじゃない。もちろん告白してたわけでもない。でも、小学二年生の時かな? 「しょうらいはふたりでけっこんして、ずっといっしょにいようね」って、彼は言ってくれた。十年近くその言葉を大事に心に抱え込んで、年々カッコよくなっていく彼に毎日のように惚れ直して……
高校に入ってから、彼に女の影が増えた。当然私は嫉妬した。陰湿なことはしたくなかったから、出来るだけ彼のそばでアピールして、他の女に軽く威嚇して、最後の方は小さな頃の彼の言葉に縋って……それでも、報われなかった。
彼のために料理を頑張って練習した。彼のために裁縫ができるようにした。彼のためにスキンケアその他は欠かさなかった。彼のためにファッションを研究し続けた。
彼が好きらしいからずっとポニーテールにしてた。彼が好きらしいからテニスを始めた。
あれもこれも、全部、全部、彼に影響された結果で……
月並みな言い方だけど、彼には支えてくれる人がたくさん居たけど、私には彼しか居なかった。彼が私の行動指針だった。私には彼以外の男子など考えられなかった。いや、今でも考えられない。
普通、十年経てば心は変わる。私たちは思春期が間にあるから、大人の十年より変わりやすい。私の場合に至っては初恋をしてから十年以上経っている。
それでも、月日は私の無意味な恋心を育てただけだったし、振られるという残酷な結果を運んできただけだった。
この十年間はなんだったんだろう。今までの人生はなんだったんだろう。なんだか、自分を全否定された気分。自殺する気力すら起きない。
ねえ、教えてよ。私の何が悪かったの? 私はどうすれば彼と結ばれたの? 私は何のために頑張ってきたの? ねえ、教えてよ。
ねえ、ねえっ!
…………
いくら虚空に問いかけても、振られた事実は変わらない。「彼を見返してやる!」って思えるほどの気力もない。彼と彼女の幸せを願えるほど聖人でもないし、裏で仲を引き裂くなんてできるほど悪人でもない。
私の気持ちは宙ぶらりん、私の体は動かない。私の心はズタボロだ。
これから、どうしようか。何か新しい目標を見つけないといけないんだろうけど。当然何もないし。告白の勇気すら出ない私にグレるだけの勇気もなく。彼にくっついて生きてきた私に目標などあるわけでもなく。
枕に突っ伏していた顔を上げ窓の外を見ると、カーテン越しに空が少しだけ明るくなっているのがわかる。もうそんな時間か……
今日も当然学校だ。行かなきゃ。たとえ抜け殻でも、動かなきゃ。何もしたくないけど、何もしないわけにはいかないから。とりあえず、いつものように。でも、彼と彼女に近づかないように。
役目を終えた幼馴染は、静かに退場するしかないから。
とある幼馴染ヒロインの嘆き 野本 美羽 @daibinngu0904
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます