第5話捨てられし俺の愛する息子

俺の身体から体温がゆっくりと失われていく、俺の心臓を貫いた刄の持ち主は、冷徹な表情を少し緩ませ、満足そうな顔を浮かべる。

身体がふわふわした感覚に陥り、瞼も次第に重くなってきた、どうやらお迎えの様だ、ジュニア達よ待たせたな、俺もすぐにそっちへ向かうぞ。


気づけば俺は白い部屋にいた、ここは天国だろうか、1つ言えるのはおそらく現実世界ではない、俺は辺りを見回し状況を確認する、部屋には椅子が1つ、窓もなく、椅子以外はドア1つがあるのみだった。

「うーん、ここが死後の世界ならとてもつまらないな、なによりここにはオカズらしきものが1つもない」

これはとても重要な問題だ、たしかに俺はオカズなしでもオナニーをするし、それもやぶさかではない、しかし、俺たち人間は毎日白飯だけの食事に耐えられるだろうか、いや、無理である、いくら白飯を毎日食べても飽きないと言っても、白飯オンリーは地獄である。

「いやだ!!!そんなの耐えられない!!!出せ!!!ここから出せ!!!」

俺はお菓子コーナーの前で駄々をこねる子供の様に転げ回った。こんな姿、お母さんには絶対に見せられない。

「うるさい、静かにしてよパパ」

不意にこの部屋に1つしかない扉が開き、少年が部屋に入ってきたのである。とても小柄で、シルクの様な白い肌をした美少年であった。

「まったく、今日はよく新しい顔を見る、というか今パパって言ったか?」

この部屋には俺と少年2人だけである、おそらくこの少年は俺に向かって「パパ」と言ったのだろう、しかし、この俺、尾奈太郎30歳、子供なんていない、いや、それ以前に生粋の童貞である。

「お前本当に誰なんだ?もし、俺が死んだんだとしたら、ここは天国で、目の前にいるお前は天使か何かなのか?」

少年は呆れた様な顔を見せ、すぐに口を開いた。

「何言ってるのパパ、僕は正真正銘パパの息子だよ。」

本当に頭が混乱してきた、俺は過去に酒にでも酔って見ず知らずの女でも孕ませたというのか。

だとすればこの子の顔から察するに、絶世の美女に種付けしてしまったのだろう、なら、その時の記憶が無いのが残念で仕方がない。

「あ〜えーと、じゃあ1つ聞きたいんだけどお母さんの名前を教えてもらえないかな?ついでに写真とかあったら見せて欲しいな」

せめて、この子のお母さんのご尊顔でも拝みたい。

「?いないよ、僕の親はパパ1人だもの」

何?もしかして俺は1人で、しかも生殖行為無しで、この美少年を生み出したというのか。

「なるほど、俺は両性類だったってわけか」

俺は一体何わけのわからないことを言ってるいるのか。

「何わけのわからないこと言ってるの?」

それ、さっき俺が自分に言った、繰り返さなくていい。

「僕はパパが自分の快楽のために昇天させていった、生命の1人だよ」

自分の快楽のため?だんだん、俺の中に納得いく答えが浮かびはじめてきた。いや、浮かばせたくない、今すぐこの答えを沈め直したい。

「もう、気づいたでしょ、僕はパパが快楽行為の後、無下に捨てていったザーメンだよ」

こんな、美少年の口から「ザーメン」という言葉が飛び出すとは、世も末、いや、天国も末だな。

「....認めたくねぇ、でもここが本当に死後の世界なら、目の前にいるのが、俺が捨てていった精子ということを認めなくてはならないというのか...」

「そういうこと!」

そう言い、我がザーメンは無邪気な笑顔を俺に向けた。

「で?何が目的なんだ?俺に無下に捨てられた仕返しでもしにきたってのか?」

もし、それが本当なら地球に生まれた全男は、ザーメンの報復を受けることになる。想像したら、くだらなすぎて吹き出してしまった。

「ううん、僕はそんな目的のためにパパの目の前に現れたわけじゃない、パパをもう一度現世に蘇生されるためにきたんだよ。」

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