第3話三十路童貞はじめての...
腕が暖かい、痛みも引いていく、どうやらアイの魔法のお陰か傷が癒えているようだ、しかし、癒えているだけで無くなった右腕が再生しているわけではない。俺の腕だったものはツリ目もろとも氷漬けにされている。
「魔術回路ってのはどうやって開けるんだ?それに開いたらどうなるんだ?」
俺は俺の腕を癒している少女に尋ねた。
「さっきも言っただろオナ・タロー、お前を予定よりも早くウィザードにするんだ」
腕から痛みが完全に消えた、それを俺の表情から察したのか癒しの魔法を止め、杖を懐にしまった。
「....さて、は、始めるぞ」
遂に俺をウィザードとやらにする儀式が始まるらしい、だが、気のせいだろうかアイの顔がスパンキングを数十発食らった尻のように紅潮している。
「始めるって具体的に何をするんだ?」
「め、目を閉じろ」
アイの顔がスパンキングをさらに10発ほどくらったのかというほど赤くなっていく。
「その儀式とやらは、き、キスでもするのか?」
俺も察しは悪い方ではない、アイの頬の紅潮と「目を閉じろ」という言葉から自然とこの答えに至った。直後乾いた音とともに俺の顔がスパンキングされた。
「いうなバカ!こっちは恥ずかしくてたまらないんだ!」
なんで、俺叩かれなきゃいけないの?
「この儀式には純血ウィザードの体液を儀式対象の体内に流し込む過程が必要なんだ、正直お前みたいな三十路童貞に肌を触れさせることすら嫌なのに...」
俺の心の中心の大切な部分が折れた音がした、三十路童貞、これはおそらくどんな強力な呪文よりも俺にダメージを与える言葉であろう。今すぐ死にたい。
「そんなに嫌なら汗か血でも良いのでは?」
「だめだ、この過程にはお互いに一定の興奮状態が必要なのだ、手っ取り早さで言えば、き、き、キスが1番いい...らしい」
「なるほどね、それは相手が俺で本当に申し訳ない。」
うん、まじで申し訳ない。
「こんな状況だ仕方がない...」
パキッ...氷塊から嫌な音が鳴り俺たちの鼓膜を震わせる。タイムリミットが迫っていることを知らせるこの音は次第に大きくなり、場に再び緊張感をもたらした。
「手をこまねいている暇はないようだ、すぐに始めるぞ」
「そうみたいだな....いいか?」
俺が確認を取る言葉を言い終える前にアイは俺の首に手を回し、ぎこちなく唇を俺の口に押し付けてきた。
「んっ.....」
女の子特有の微かな良い匂いが俺の鼻腔をくすぐる、重ねられたアイの唇はとても柔らかく、童貞の俺には新鮮すぎる感触だった。だめだ頭がボーっとしてきた、俺には一生無縁だった行為がこんなわけのわからない状況下で行われることになろうとは....人生とは本当にわからんもんだ。
「ふぅ....」
別にイッたわけではない、キスを終えた2人はしばらく恥ずかしさのあまり顔を合わせなかったが、アイは我にかえったかのようにすぐさま杖を取り出した。
「これよりナオ・タローの魔術回路を開き、ウィザードの力を覚醒させる!」
俺もいつまでもうろたえている場合ではない。
何をしたらいいのかわからないが、とりあえず心の準備だけでもと表情を引き締めた。
アイは続いて訳の分からない言語で詠唱をし、杖を俺の心臓にあたる部分に押し付けた。
「我、純血なる賢者の名の下に、魔道の根源たるイデアよりこのものに力を与えたまえ。」
詠唱を唱え終わった途端、俺の体内が熱を持ち出し、頭の中に大量の魔術に関する情報と思われるものが流れ込んできた。
「冷たかったですよぉ」
氷が砕ける強烈な音が鳴り響き、その音を縫うように陰気な声がタイムアップを知らせる。
「はい、時間切れぇ、多分1人で逃げた方が生き残れる確率は高かったですよぉ」
アイの顔はこれ以上白くなるのかというほど蒼白に包まれていた。だが多分俺はそれ以上に血の気が顔から失われているのだろう。さっきまで熱を持っていた心臓は冷たい刄で貫かれていた。
「壁のウィザード陣営に引き入れられるくらいなら、ここで始末しておきますよぉ〜」
ツリ目は満足そうに微笑を浮かべる。
それにしても、心臓が刺されるとこんなに血が出るのか、床がめちゃくちゃ汚れちまったじゃねぇか、掃除するのが大変だな、いや、でも俺死ぬからしなくていいか。
「オナ・タロー!!!」
アイの悲鳴が遠く聞こえる、最悪の最期だけど、人生の最期にキスできてよかった...
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