第2話三十路童貞、魔法使いの儀式やるってよ
突如俺の前に現れた少女は自分を魔法使いと言い張り、その証明として俺のジュニアたちを天井もろとも昇天させやがった。
「なるほどお前が本物の魔法使いというのはわかった、正直まだ信じられない」
「まぁ普通そうだな、しかしお前はまだ冷静な方だぞ、1週間前に訪問した奴は私が魔法を使ったら、口から泡を吹いてションベンを噴水のように撒き散らしていたぞ、臭かったので、そいつごとションベンをファイアボールで蒸発させてやった」
かわいそうに、それにしても、こんな美少女の口からションベンというワードが飛び出すとは....
さては育ちが悪いな。
「ん?つまり、お前は俺以外の人間の家にも侵入したのか?」
なるほど、この頭が宇宙のどこかしらの星に飛んで行った魔法少女は、なにかしらの目的のためにこんな不法侵入じみたことをしているのか。
「なにが目的だ」
アイと名乗る少女は少しばかり考えた素ぶりを見せたが、後にゆっくりと口を開いた
「どこから話すか、まず...」
アイの言葉は突然鳴り響いた爆発音により遮られた、俺は首が折れるんじゃないかという勢いで音が鳴った方向へ振り向いた。とても風通しがいい、さっきまであった熱気が徐々に無くなっていく、俺は部屋に空いた大きな穴をそれ以上に開いているのではないかと思えるほどの口を閉められず、呆然としながら見つめていた。
そこには玄関というものが消えており、いつでも強盗ウェルカム状態になっていた。
次の瞬間〝バキッ〝という俺にはとても聞き慣れた音が大穴の外から聞こえてくる。俺の住む安アパートの二階へ続く階段が突き破られた音だ。
「ん?よく聞く音が外から聞こえてー」
俺の言葉はアイによりかき消された。
「早いな、もう場所を突き止めたのか、それとも探索魔法を使えるウィザードを仲間に引き入れたか」
アイは立ち上がり懐から取り出したおそらく杖であろう金属製の棒を取り出し、俺の部屋に空いた穴に向けた。
「おい!俺の部屋が使えなくなったぞ!こんなの野宿と変わらねぇじゃねぇか!」
おそらくこの場面でこのセリフはおかしいのかもしれない、しかし、薄給の俺からしたら死活問題である、俺は怒りの限りをとりあえずアイにぶつけた。
「うるさい、逃げるんだ、死活問題以前にお前ここで死ぬぞ」
少女は杖を穴とは真反対の窓に向け先ほど使用していた魔法「ファイアボール」を放ち大穴をもう一つ増やしやがった。
「ここから逃げるぞ」
「なるほど、もうここは人が住める空間じゃないってことね....」
俺は乾いた笑顔でそう言った、そんなのこと気にも留めず、少女は空けた穴に足をかけ、体を乗り出そうとした時だった。
「どうも御機嫌よう、おや?壁のウィザードに先を越されていましたか」
陰気で薄気味の悪い声が穴だらけになった俺の部屋に響き渡る、玄関に空いた大穴からひょっこりと現れたのはアイと同じくマントを羽織ったツリ目の男だった。足を怪我でもしているのか、モンハンでいう瀕死状態のモンスターの様に足を引きずりながらゆっくりこちらへ近づき、目が開いてるのか閉じているのかわからない男は狐のような笑みを顔に貼り付けている。
男はアイの顔を見るや否や、驚いたような表情になる。
「おや?おやおや?これは非常に稀有なこともあるもんですねぇ、貴方が直々にスカウトへ駆り出すとは」
「私が新しいウィザード候補を探すのはおかしなことか?」
アイは先ほどの顔からは想像がつかないほどの敵意をつり目の男に向けていた。
「ん〜いえいえ、別に文句を言うつもりはありませんよぉ〜、なんなら貴方が目の前にいることは私にとって、非常にラッキーなことでさえありますからねぇ、おや?このいかにも童貞臭い男は、君たちの次の候補生かい?」
聞き捨てならない言葉が聞こえた気がした。まだそこらへんを歩いてるチャラ男に言われたならまだ我慢できる、しかし、このいかにも陰気で俺以上に童貞臭い男に言われたセリフが俺の逆鱗に触れた。
「お前!それなブーメランっていうんだよ!」
俺はセリフを言い終わるかどうかというタイミングでツリ目に飛びかかっていた、喧嘩なんてしたことがない俺はドシロート丸出しの構えで拳を突き出した。
「よせ!」
アイの必死の呼び止めも聞かず俺はツリ目の顔に目掛け拳を振りかぶった。
振りかぶったはずだった。
拳は目標に当たることはなく俺はそこにうずくまってしまった。頭から血の気が引いていく、じわじわと痛みが俺を襲い始めた。
「腕が....」
さっきまで確かに俺の右肩の下についていた腕だったものはツリ目の足元に転がっていた。
30年間共に過ごした恋人はいともたやすく切断された。必死に抑えているはずの切断面からは血が滝のように噴き出している。
「おやおや、可愛そうに、とても痛いだろーに、ちょうど今絆創膏持ってるんだけど使うかい?」
このツリ目野郎、そんなんで止まるわけねぇだろ、だめだ、怒りも湧かないくらい痛みがひどくなってきた。
「フリーズバインド!!!」
周囲が瞬時に冷気に包まれる、目の前に巨大な氷塊が現れたのである。
「傷口を見せろ!」
焦りをあらわにしたアイが俺の元に駆け寄ってきた、こんな状態なのに焦りを隠せずにいる少女の顔に少しときめいてしまうのは、既に俺の脳が正常さを失っているからなのか、それともこれからするはずだった残り5回の自慰行為をお預けにされて欲求不満ゆえなのか、そんなくだらないことを考えている俺の腕に杖を向けアイは呪文らしきものを数秒ほど呟き再び口を開いた。
「フリーズバインドで奴の動きを止められるのはあとせいぜい5分だ、手負いのお前を連れて逃げるのはほぼ不可能だ」
「じゃあどうするんだ、最善手は、お前1人で逃げることしかないと思うが」
2人もろとも死ぬなら俺を見捨ててこいつ1人で逃げるしかない、こんな状態でも残りの力でツリ目の足にしがみついて、少しでも時間を稼ぐことくらい出来るだろうよ。
「いや、見捨てない、ここでお前の体内の魔術回路を無理やり開く」
「は?魔術回路」
わけのわからない単語を言った後アイはさらにわけのわからないことを言い始めた。
「ここでお前にはウィザードになってもらう」
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