日々への痛哭
皐月きりん
第1話
充実した日々を送る。
これが俺のささやかな、そして最大限の目標であった。
なに、別に大したことじゃない。俺は毎夜、ささやかな達成感を持って眠りに入りたいだけだ。
ただそれだけ。
有名になりたいだとか、自身の力を誇示したいとか、そんな劇場的な芝居じみた感情ではなく、なだらかな昼下がりの散歩道のような感情を抱いて生きていきたい。
もし神様がいたとして、次は何に生まれ変わりたいと聞かれたならば俺は少し迷ってクラゲと答えるだろう。悩むって言ってもナマケモノかクラゲかってところだけど。
ゆらりゆらりと、波に揺られてのんびりと漂う。うん、実にいい。ナマケモノになって苔が体に生えるまでのんびりするのも悪くはないけどな。
なんだか充実した日々とはかけ離れていると感じるかもしれないが、俺が納得していればそれでいいのである。
しかし現実はそう甘くはない。
充実した日々どころか、納得した日々すら送れない。俺が今流されているのは波ではなく周りの環境なのだ。
朝起きて飯食って学校行って、家帰って飯食って寝る。これのどこに達成感を得る要素がある? 皆無だ。
俺は日々を過ごすというより、日々を消化している。
テンプレートをなぞるような、誰でもなく自分で決めたルールに締め付けられるような圧迫感。それを感じながら生きている。
俺を縛る自意識という名の鎖をといて解放されたい。心安らかな日々を送りたい。
常に繰り返される学力競争。他人をステータスでしか見られない自分を消してしまいたい。
繰り返す自己嫌悪。
吐き出すため息。
肥大化する無力感。
俺はなんのために生きているのだろう。
生きている意味を考える。
他人と比較し、他人を見下し、自分の好きなことも分からず、すべてを気分のせいにして、何をしているのだろう。
比較でしか己を語れない自分に生きている価値はあるのだろうか。
俺はまた大きなため息をついた。
日々への痛哭 皐月きりん @maygiraffe
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