暁月ノ宙

超獣大陸

/Epilogue (For you)


 ――人は死ねば蝶になる。

 そんなことばを思い出した。

 

 流れ出る赤。

 とおくなっていく私。

 

 ――本当に、蝶になるのかもしれない。

 

 そう幻想してしまうほどに、当たり前の現実じぶんとの別れは唐突だった。

 

 妹が呼んでいる。

 まるで悪夢を見るような青白い顔で。

 小さな身体をふるわせて。

 

 大丈夫だよ。

 そんなに呼びかけなくても、聞こえているよ。

 

 うまく動かせない自分の身体がもどかしい。

 恐かったね、って今すぐにでも妹を抱きしめてあげたいのだけど、なんだか妙に肩が軽くて、感覚だけが空振りしてしまう。

 

 少し試してから、ぼんやりと気付いた。

 私にはもう誰かに触れる権利すら残っていないということに。

 

 落ちてきた鉄骨の何本かは人間のやわらかな皮膚を、筋を、骨を、たやすく貫いてしまっていた。

 

 無事なのはこの相貌かおと瞳くらいのもの。

 それ以外はもうダメだった。

 これから私だったものは消えてしまう。

 どんな奇跡が起こったとしても、どんなものに成り果てたとしても、この命は終わってしまう。

 

 ――あぁ、けれど。

 

 貴女が無事で、よかった。

 貴女が生きていてくれて、となりにいてくれて、よかった。

 

 どうか泣かないで。

 これからも笑っていて。

 

 そんな言葉も、きっと音にすらなっていない。

 熱も音も、感じられるものすべてが薄れていく。

 

 何もうつさなくなった光の中。

 守りたかった大切なひとを探しながら、私はわたしの為に祈る。

 

 ――あの子の瞳にうつる私が、どうか最後まで素敵なお姉ちゃんわたしでありますように。

 

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