第38話 ははっ、人を殺さなきゃ何してもいいのかよ

              ◇


 さて。


 名探偵という人種は一同を集めて「さて」と言うそうですが、僕はそこまで自己顕示欲の塊ではありませんので、犯人――「春夏秋冬殺人事件」を引き起こした元凶だけを呼びつけて、その二文字を呟きました。


 ここに呼ばれた理由分かりますよね、なんて言いながら。


 実際ギャラリー全員呼びつけるって非経済的だと思うんですよね、その時ばかりはギャラリー全員が不知川しらずがわモールの中に居たから関係ないとは言え、旅行先で起きた事件の謎解きは後日という運びになる時は遠くからわざわざ関係者呼び出したりしますからね。


 関係者だったとしても仕事のある人や止むに止まれない事情の人だって居るでしょうに、探偵という輩は信実は分かっても他人の都合というものは分からないんですかね。


 暇人なのはお前だけなんだぞ。


 まあ例え探偵が暇人だとしても僕だって人のことを言えるような立場だったわけじゃなかったんですけどね、所詮僕がこれに関わった理由なんて暇だったから暇潰し半分、八つ当たり半分というところでしたし。


 華麗に解決して気晴らしになるかなあ、程度の話だったんですがまさか更に気が滅入るとは思いもよりませんでしたよ。


 さて。


 正直に言えば「密室」の段までは犯人に聞くまでもなくほぼ確信に至ってたんですよね、「何故日取ひとり其月きつきは密室の中で首を切られて死んでいたのか」は。


 しかし、そこから先の推理は半信半疑でした。


 だから、軽い冗談くらいのつもりで犯人に言ってみたんです、ええ⁉︎ まさか僕が殺したと疑ってるんですか⁉︎ とかいう僕の鉄板ネタみたいなくらい軽いノリで。


 別にその推論が正しかろうが間違っていようが、日取ひとり其月きつきの首を刈り取った人間というのは別に変わりませんでしたからね。


 犯人至上主義の僕にしては行動原理から少し逸れる行いだったのかもしれませんが――まあ所詮僕の行動原理なんて気まぐれの冗談半分ですし。


 だからちょっとした冗談みたいな心持ちで、その推論を投げかけてみたんです。


 ミステリーで事件が解決した後、ちょっとしたミスリードじみた謎が笑いを交えながら明かされる――と、そんな心持ちで。


 しかしながら、その推理――否、妄想は真実でした。


 僕の作り上げたストーリーラインは実際に起きたことと多少の差異を出してはいましたが、しかし概ね正しかったんです。


 僕は真実に辿り着いてしまった――ってより行き当たってしまったという感じでしょうか。


 確固たる証拠として犯人達に送られてきたメッセージを見せてもらい、僕の妄言は真実だったと痛いほど思い知らされました。


 犯人達がなぜそんな事をしたのか――簡単な事柄を何故こうもしっちゃかめっちゃかにかき混ぜたのかと尋ねれば、彼らは口を揃えて言いました。


 声を揃えて、声高々に、絶叫するように、毅然として。


『人を殺したくなかった』と。


 一人はろくに喋れませんでしたけどね。


 人殺しには理由はいらなくても、首切り死体作るには理由が必要だという事です。


 ははっ、人を殺さなきゃ何してもいいのかよ。

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