第28章 二人の頑固者
改めてフェネリーは、クゥと合流した部屋を見まわしていた。
植物の生えている壁や天井。
硬質な響きのする固い床。
それらは、クゥの過去を知ったフェネリーから見たら奇妙な光景でしかなかった。
(もっとおどろおどろしい感じだって思ってたけど、全然違うんだ)
見ようによっては温室の様で、とても安らげる様な、そこはそんな場所だった。
そんな物珍しそうな視線をあちこちへ向けるフェネリーに、クゥが説明してくれる。
「植物は私が頑張って生やしたのよ。つまらないから。しょれと、この部屋の大部分はは鉱石で出来てるわ」
退屈しのぎに、とクゥは言うのだが……。
フェネリーは、それは枯れ果てていく世界を何とかするための研究の産物ではないだろうかと思った。
彼女がそんな事を考えてるとも知らず、クゥは鉱石について説明。
「世界で一番固い鉱石よ。壊そうとしてもちょっとやそっとじゃ壊しぇないの」
「そうなんだ」
つまりこの部屋は衝撃に強い構造になっているらしい。
考え事から戻り、遅れた理解したフェネリーは周囲を再び見回していく。
「ふぇー……」
彼女の口からは、そんな気の抜けたような声が出た。
その様な特別な石を、部屋の床の全てに敷き詰められる程使っているという点から、改めて今いる監獄のスケールを思い知っていたのだ。
何事もなく侵入していた事でフェネリーは気を抜いていたが、そこは本来とても重要な施設のはずだった。
そこで、フェネリーは室内の中で目立つ物。
一番気になる物へと視線を向ける。
部屋の中央を見ると、台座があり、その上に黒くて小さな球がガラス箱のような物があり。中で浮いているのが見えた。
王都で見慣れた、よくフェネリーに近寄ってくるふわふわとした光に似ていたが、それは決定的に違うものだった。
(形がどうのとかじゃなくて、何でか目の前の怖い感じがするんだよね)
悲しみや苦しみ、痛みや嘆きと言ったそんな負の感情の気配を、フェネリーは感じるのだった。
「何だか、嫌な感じがしますね」
フェネリーの視線を追ったスフィアも、意見は同じようだった。
そんな二人の言葉に、クゥは何でもない事の様に説明の言葉を放った。
「ああ、あれ? あれがこの世界がこんな風になっている元凶、枯れ果てる大地の原因よ」
もたらされたクゥの言葉に、フェネリーは一瞬思考が停止した。
(え、そんなものがここに? 本当に? でも、あれ? 魔女のせいだと思っていたのに、違うんだ)
色々な事が連続して起こり過ぎたため、驚きの感情が少しだけ麻痺してしまっているようだった。
クゥは、部屋の中央にあるそれを指し示す。
「近づいて行ってみなしゃい」
クゥに言われた通りにフェネリーがその黒い急に近づいていってみると、どこからともなく彼女の意識に不気味な歌声が響いてきた。
――命、錆びよ
「ひぃい!」
地の底から湧いてくるような、そんな声が聞こえて来て。フェネリーは思わず身震い。そしてダッシュでその場を離れクゥに抱き着いた。
「相変わらじゅね、放しなしゃいごみくじゅ。それはあいつの呪いの言葉よ」
「の、呪いの言葉?」
「この世界に生きてる者ほとんどが知っている、五大聖言とは逆の
フェネリーが聞きなれない言葉に戸惑うしかない。
それは今まで一度も聞いた事がない言葉だったからだ。
小さな魔所は口を開いて語り始める。
有名である五大聖言と似て非なる力。
呪われた力を秘めた言葉について。
「それは
「そうだったんだ」
先程は、全く違うものだとフェネリーは思ったのだが、言葉だけを聞けば普段よく耳にするお守りの言葉に似ているなと思った。
全く正反対の向きを向いている言葉なんだけど、何故かそう思ったのだった。
「クゥ様は、アレをなんとかしようとこの部屋で頑張ってたの?」
「ええ、でも何もできていない。滑稽でしょう。私じゃ無理だわ。どんな研究を行っても全く無駄だったんだから。あれは物理的な力の干渉を全て拒絶する。あれはしょこに存在し続けるだけで、世界を呪い続ける。どうやってって止まらないし、誰にも留める事が出来ない。しょういうものなの。究極の憎悪と……拒絶する意思の塊」
「クゥ様……」
「姉様……」
いつになく饒舌に語られるその言葉は、いかにその存在にクゥが困らされてきたかがよく分かるものだった。
「分かったなら、しゃっしゃとどっか行きなしゃい。何の為に私が大人しくここまで、戻って来たと思ってるのよ。スフィア、そのごみくじゅを王都まで送ってあげて」
「ちょ、ちょっと待ってクゥ様。ボクはクゥ様を助けに来たんだよ」
「それが何?」
矢継ぎ早に下される指示に待ったをかけるべく、フェネリーは声を上げるのだが、それに対するクゥの視線は冷ややかだった。
「馬鹿な事はよしなしゃい。ごみくじゅはもう色んなところから目をつけられてるのよ。こんな所で何かあったら監獄から出るどころか……、じゅっとここに閉じ込められるなんて事にもなりかねないわ」
扉の方を示して、さっさと立ち去れと言うクゥだが、フェネリーはどんなに言われても首を縦には振らなかった。
「この、わからじゅ屋!」
「分からず屋なのはクゥ様の方だよ。ボクはとっくの昔に覚悟してここまで来たんだから!」
「弱虫のくしゃに!」
「昔の事だもん!」
「泣きしょうになってるじゃない」
「これは違う、怒ってるからなんだもん!!」
「嘘!」
「嘘じゃないよ!!」
そのうちに口喧嘩に発展していって、最初の事を忘れてただお互いの事を罵るだけの展開になってしまっていた。
肩で息をしながら、荒い呼吸を繰り返す二人に向かって見かねた様子のスフィアが間に入る。
「とにかく、ここに居たって埒があきません。私としてはフェネリーさんの見方をしたいとこですし、こんなところに姉様を残していくなんてできませんけど……」
感情だけでなく冷静に物事を見て考える事が出来るスフィアは、取りあえずの提案を二人に提示した。
「監獄から出るか出ないかは置いといと、まず出口まで移動しましょう。その時にまた考えてみてはどうですか?」
それは問題を先送りにする行為に他ならない事ではあったが、それ以外の解決方法が見つからない為、フェネリー達はスフィアの意見に従わざるをえなかった。
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