第25章 アイスブル―監獄
泣きそうな目に遭いながらもどうにか試練を突破し、遺跡の入り口まで辿り着いたフェネリー。
管理者であるスフィアの案内の元、遺跡の中へと足を踏み入れ、内部にある古代の装置を目にした彼女は驚いた。
それは紛れもなく、遥か古代に作られた物だと思わせる遺物であったのだが、フェネリーの前の前にあるそれは、身の丈をはるかに超える細やかな部品からなる精緻な装置だったからだ。
古代人たちの技術に感嘆しながらも、フェネリーはスフィアに説明を受けて装置を起動。
試練を突破した者のみに与えられる恩恵を得たのだった。
そういうわけで、遠くの地にある別の場所に一瞬で移動する事のできる遺跡の遺物……転送装置を使ったフェネリーは当初の予定をかなり前倒しして、監獄の目前まで辿り着いていた。
それだけでも、小さな少女にとっては衝撃の事だったが、さらにその後にまた彼女は驚く事になった。
なぜなら、この場にいるはずのない学校の教師。
リコット・リリアンミジェットと再会を果たしたからだ。
「どうして先生がここにいるんですか!」
「それはこっちのセリフ。何でお前がここにいんの」
まったく代わりのない辛辣な口調で言葉を発するその教師は、フェネリーが見る限りは最後に見た時の様子のままだった。
「何でってそんなの……」
フェネリーは一度は口ごもったその答えを、きっと前を見据えて言い放った。
「クゥ様を……大切な友達を助ける為に決まってます!」
その言葉を聞いたリコットは、無言のまま眉間にしわを寄せた。
「……ひぃっ!」
(わわわ、怒られる。絶対、怒られちゃうよぅ。帰れなんて言われたらどうしよう)
目の前にいる教師の様子に戦々恐々としながらガタガタと震えだすフェネリー。
そんな彼女を不思議そうに見つめるのはスフィアだ。
「ええと、こちらの方はどなたですか?」
「あう、えっとその。ボクが通ったてた学校の先生です」
口ごもりながら一言で説明するフェネリーに、スフィアはふむふむと頷く。
「へぇー、この方が。いつもフェネリーさんの言っていた、せんせいなんですねー。もっと鬼みたいな人かと思ってました」
「あわわわわ……」
そして、納得したかと思えばそんな一言を放った。
当然、リコットの様子が「はぁ?」と変化して、小心者のフェネリーは嫌な予感がして、寒気と鳥肌に襲われていた。
だが、スフィアの言葉に悪意はなかったらしく、彼女は平然とした様子で、手を差し出した。
「私、聖霊のスフィアと言います。フェネリーさんとは最近知り合ったお友達ですよ」
手を差し出されたリコットは、眉間にしわを寄せた表所をひっこめたかわりに、面食らった顔でフェネリーに説明を求めた。
「なあ、コイツなんなの?」
(そんなの、ボクに求められても困るよーーっ!)
アイスブルー監獄 城門
その建物は、冷たい氷を思わる様な青色だった。
それも、好き通った青ではなく、内部に濁りを閉じ込めたような暗褐色の青。
建造されてからの長い年月を思わせる様に、建物ん外壁には蔓やコケがこびりついている。
年数の経ち方で言えば、それなりに歴史があるはずのフェネリーの学校よりもはるかに上でかなり古めかしかった。
そんな建物……クゥがいると思われるアイスブルー監獄に辿り着いたフェネリーは、当然緊張しながら立っている。
目の前には氷の塊を思わせる様な青い外壁に、頑丈さを見せつけるかのような重厚な門。
中に入るのも一筋縄ではいかないような見た目だった。
(だけど、それでも中にクゥ様がいるなら……)
自らの意思を固くするように、フェネリーはそう決意するが簡単には行かない。
罪を犯した多くの者達が収容される施設に、彼女達の様な者が真正面から入れてもらえるわけはないからだ。
何か策を考えなければならなかった。
そこで上がったのが、スフィアの力とリコットの案だった。
聖霊の力をフェネリーとスフィア自身にかけ、リコットが前に立ち門へゆっくりと近づいていく。
ほどなくして、到着。
フェネリー達は真正面に立って、見張りの者と向き合っていた。
だが、見張りで立っている男性からの反応はない。
彼の視線はリコット一人にだけ向けられているのみ。
「入るけど」
そして、そんな見張りへ向けてリコットが一言。
(いやいや、そっけなさすぎでしょ!)
と、フェネリーは心の中で突っ込んだ。
(そんな顔見知りにばったりあって、それだけで通じるでしょ、みたいな事言って……。もうちょっと愛想よくしたりとかした方がいいんじゃ)
だが、フェネリーの抱いた危惧をよそに状況は何事もなく、スムーズに進んでいっていた。
「許可証を……」
見張りの兵士らしき人間がリコットに対しそんな事を言う。
言葉を受けて、リコットが紙切れの様な物を見せると、そこにいた兵士が一つ頷く。
そして、背後に会った門へ合図を送る。
かなり重厚で大きなな音が鳴り響いた。
金属の軋む音がして、フェネリーは思わず表情をしかめ耳を抑えた。
リコットは慣れたものだと言わんばかりの涼しい顔で、スフィアは何も気にしていない様子。
仮初めの肉体を持ち合わせている聖霊の本質は、エネルギーの塊であるため生物にとって不快なダメージは負わないように最適化できているのだった。
フェネリー達の前で、重々しい音を立てながらゆっくりと門が開いていく。
その間に、リコットは簡単な持ち物検査を受けていた。
フェネリー達の分は無しで。
リコットの確認が終わり、数分かけて門が開き切ればフェネリー達はようやく中へと通される。
(ふあー……、ここがあの監獄かぁ。緊張するよぉ)
歩いていくリコットの背中をフェネリーとスフィアはついていくのみ。許可証も見せる必要はなく、検査を受ける必要もない。
なぜなら二人は、スフィアの魔技によって人からら視認できない様に、透明化の魔法をかけてもらっているからだ。
だから、誰の視線にさらされる事は無い。
スフィアは隠密系の魔法を得意としているらしいので、クゥを助けたいフェネリーにとっては渡りに船だった。
(スフィアさんって本当にすごい。神級にもうすぐ到達っていうのも全然おかしくないよ)
同じく透明化している隣のスフィアに視線を向ける。
その様子は至って普通であり、特に緊張しているとか言う様子はない。
(でも、そんな凄いスフィアさんにもお姉さんがいるんだよね。一体どんな人なんだろう。気になるなぁ)
いつか口にされた事を思い出して、フェネリーは気にする。
そんな風に疑問を気がそれたフェネリーの様子を察知したのか、リコットが小さな少女に厳しい視線を向けていた。
(ひぇぇ、どうしてボクの位置が分かるの!)
その視線は単なる気のせいではなく、しっかりとフェネリーのいる場所を捕えている。
再開した時に分かった事だが、リコットは王宮軍に所属していた時にこの監獄で働いていた事があったらしい。
この監獄へは、その時の縁で知り合いに会いに来たらしいが、誰もが知っている監獄に努めているのだから、実力もよっぽどの物なのなのかもしれない、とそうフェネリーは思い至った。
「気配を察してるみたいですね。リコットさんは……」
スフィアの言葉に、フェネリーは驚きの声が出そうになって慌てて口を押えた。
(えぇぇ、そんなの分かるの……?)
スフィアが小声で教ええたた情報に、彼女は改めてリコットを見つめて戦慄。
言葉がきつい少し強そうな元王宮軍の教師だとばかりフェネリーは思っていたのだが、実はかなり凄い人なのかもしれないと思いなおした。
元から、ここに来る用事があったというが、そんなリコットが迷惑以外の何物でもないフネェリーの同行を許したのは何故か。フェネリーには理解できなかった。
フェネリー達の無断浸入が監獄の者達にバレようものなら、とんでもない事になるだろうに、と。
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