第17章 聖霊使いの力で



 フェネリーは光の球と相談しながら先へと進んで行く。


 煙の濃くなる方を選んで向かって行けば、すぐに目的地へと辿り着いた。

 王宮の入り口から十数分の距離にある一つの部屋。


 いつもユーリィが働いているその部屋の前は、大きな物体によって塞がれていた。

 誰かが間抜けな事をしたらしく。大きな荷物が己の存在を主張する様に倒れて転がっており、扉が開けられなくなっていたのだ。


「王宮にもボクみたいなうっかりさんがいるんだ」


 エリートの勤める場所だと考えていたフェネリーは、状況に似合わず少しだけ心に余裕が戻るのを感じていた。


(人間なんだから、大変な事があったら誰だってミスするよね)


 魔技が使えない事でいつも卑屈になりがちだったフェネリー。

 周囲に劣っている分、優秀な部分が目に入るようになった彼女は、段々他の人間への評価をそれと知らずに上げてしまっていた事に気が付いたのだ。


(あんなクゥ様だって、ちっちゃいし素直じゃないし万能じゃないんだ。きっと普通の事なんだなぁ)


 一瞬だけ、フェネリーは状況を忘れて考え事に浸ってしまったのだが、煙が濃くなってきたのを見て、のんびりしている暇はなさそうだと判断。


 扉に近寄って良く聞こえるように声を発っした。


「お姉ちゃん! そこにいるの!? 助けに来たよ!」

「その声、もしかしてフェネリー? まさか本当に?」


 そうして声をかければ、室内からすぐに聞きなれた声がしてきてフェネリーはほっとした。


 声の調子を見るに、大きな怪我などは負っていない様だった。


(良かった無事だった!)


 家族の声を聞いて、フェネリーの体から力が抜けかける。

 しかし彼女は、心の底から安堵しながらも、緩みそうになる気を引き締めた。


「お姉ちゃん。中はどうなってる? 燃えたりしてないよね?」


 内部の情報を知らねば、と質問するが声の様子からは想像できない程危険な状態の様だった。


「ええ、こっちは大丈夫よ。だけど壁の側面が熱いの。時間の問題かもしれないわ。今は魔技で何とか燃え広がるのを防いでるけど……」


 言葉を聞くが否や、光の玉が室内に入って行く。そして中を見た後に、部屋の外に出てきた。


 くるくる軽快に舞ってみせた様子を見て、大丈夫そうだとフェネリーは判断。室内に火の気配はないのだ。

 扉の開閉に気を遣う必要は無さそうだた。

 ユーリィの言葉どおり室内は大丈夫らしかった。


「後は、どうにかしてこのドアを開けなきゃいけないんだけど……」


 子供の自分では持ちあがらなさそうな荷物を前にして、フェネリーはかなり困った。


「うぅーっ!」


 普通に手で押してみるのだがびくともしない。


 そういえば、とフェネリーは思い出す。

 重たいものを運ぶのなら、必要なのは滑車だ。


 リコットの手伝いをしている時に、使った事があった。


「ちゃんと使えますよに」


 こんな時の為の、聖霊使いだ。

 自分の夢を叶えたい一心で努力してきた事だったが、自分を助ける前に人を助ける事になるとは夢にも思わなかったと、フェネリーは一瞬不思議な心地になった。


(うまくやらなくちゃ)


 フェネリーの契約している聖霊の力は浮力にまつわるものだった。

 

 近くに転がっていたパイプを手にして、契約聖霊にお願いする。

 見えるようになった聖霊は、フェネリーの友達である光の球に似た形なのだが、質感の様な物を感じられる綿毛形状の生物だった。


「浮かせられる?」


 尋ねれば了承の意思が返って来て、数瞬後力いっぱい押しても全くびくともしなかった荷物がふわりとその場に浮いていた。

 聖霊によって魔法が行使されたのだ。


「よし! ありがとう聖霊さん」


 自分一人ではどうにもならなかった状況を何とかしてくれた友達に、心の底からお礼を言う。


(いつまでも聖霊さん呼びだと、他の聖霊さんと区別がつかないから、今度名前を考えてあげようっと)


 浮かした荷物の前にかがみこむ。

 下に鉄パイプを何本か挟み込んで、立ち上がる。


 そうしてフェネリーが荷物を手で押してやれば、滑車が転がって数分前の苦行が嘘の様に、驚くほど簡単に荷物は動いていった。


 後は皆で逃げるだけ。

 と、フェネリーがそう思いながら扉を開けると、室内にいた数人の人達が一斉に驚いた顔をした。


「おお、開いたのか! 助かるぞ!」

「よくやったな、チビっ子!!」

「いい、妹さんを持ったな」


 一斉に褒められて、フェリーは少し照れくさくなって戸惑っていた。

 日ごろ誉められていないので、そう言う時どういう顔をすればいいのか分からなかったのだ。


「私の妹ですもの。それよりほら、早く逃げませんと」


 ユーリィの言葉に、その場にいた人たちが思い出した様に慌てて部屋から出てくる。


 そのままフェネリーは彼等と共に、煙の充満している通路を移動していく。


 煙は刻一刻と濃くなっているようだったが、移動が出来ないほどではない。


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