第16章 諦めない心



 フェネリーの姉であるユーリィの姿は未だ見つからない。

 時間をかけて探していくのだが、やがてその場のどこにもいない事が分かってしまう。


 建物の入り口を見つめるが、そこからはまだ内部からの避難者たちが何人も出てくるところだ。


「まだ中にいるのかな……」


 手当を行う魔技使いが集まって来て、怪我を負った者達を見ていく。彼らの様子を横目で見ながら、フェネリーの胸の内に焦燥が満ちていた。


 その内に、王宮の中から負傷者を抱えて出て来た人間が、その場にいた魔技使い達に焦った様子で声をかけ始める。


「誰か、手を貸せるものはいないか!? 中にまだ人が閉じ込められているらしい!!」


 何でもその閉じ込められた人達は延焼している区域の近くにいるらしく、命を危険に晒すのも時間の問題だという話だった。


 爆発の後に、起きているのは継続的な火災らしい。


 建物の上部から空に立ち昇っていく黒煙は、数分前より勢いを増している様に見えた。


(お姉ちゃん、出てきてないって事はきっとその近くにいるんだ。助けに行かなくちゃ)


 その話を聞き終わるなり、フェネリーはその場から走り出した。


 誰かが呼び止めるような声をかけてきたが、必死なフェネリーの耳には入らなかった。


 王宮の中に入って、急いで走っていく。

 たまにそこで働い手いる者達とすれ違うのだがフェネリーだが、何故か止めようとするものはいなかった。


(何でだろう。どうひいき目に見てもここで働いている人には見えないはずなのに)


 フェネリーはその事を気にしつつも、助けるのが先だと思い王宮の奥へ。


 幸いな事に前に何度か姉に忘れ物を届けに行った時に歩いたので、内部の構造については大体は覚えていた。


 やがて、煙が濃く渦巻く区画へと辿り着いた。


(お姉ちゃんはきっとこの先だ、早く助けなくっちゃ)


 はやる気持ちにせかされるように前へと進んで行くフェネリーだが、煙のせいで数歩も歩かない内にすぐに息苦しくなってしまう。


(う、どうしよう。頭がふらふらする。このままじゃ倒れちゃうかもしれない)


 火元が近くなってきているのか、通路の先から肌を炙る様な熱気が押し寄せてきてもいる。


(やっぱり良い気になっていたのかな。ボクなんかじゃ、何もできないのかな)


 足を止めれば、フェネリーのいつもの弱虫が顔を出しそうになる。


(結局、ボクのしてることって要救助者を一人増やすだけの事だったのかな)


 フェネリーはそう思って、押し寄せる無力感に引き返しそうになったのが……。


「励ましてくれるの?」


 いつのまにかやってきていた光の玉が、彼女の眼の前でふよふよと元気づける様に舞ったのだった。


「そうだよね。諦めちゃ駄目だよね。ボクは前のボクとは違うんだから、クゥ様のおかげで成長できたんだから」


 何か自分でもやれる事があるはずだ、とフェネリーは思いなおす。


 戻る為に振り返った道を見て、今まで目指していた方へと向きを変える。


(そうだ、この前の課外授業の時、炊飯している時に煙の怖さを先生から教えてもらったんだ)


 煙は高い所に上る習性がある、確かそう習っていた。


「姿勢は低く……」


 吸わないようにするには、できるだけ新鮮な空気のある下の方へしゃがまなければならない。


 他には、とフェネリーは記憶の底をさらう。


 火事が起きた時に、どうすればいいか。

 それは確か普通の授業で習った事だ。


 魔技使いになると言う事は、多くの事が出来るようになると言う事で、将来の選択しには様々な職業が上がる。

 多彩な将来の可能性を秘めた魔技使いを下手な授業で潰さないようにと、救命士、兵士、見世物屋などなど、メジャーな職業の基礎については一通り教えられているのだ。


「酸素があると燃える……んだよね。たしか、密閉した場所に急に酸素が入ると爆発が起きちゃうとか」


 だとすれば、閉じ込められている者達を発見してもへたに動いたら危険に晒しかねなかった。


「ボクが契約した聖霊は、えっとまだ一匹だけなんだよね」


 王宮内の構造は知っている。

 姉の働いている場所の近くは確か昇降機があった。


 昇降機を伝って炎が燃え広がったら、閉じ込められている者達が危ないかもしれない。


 けれど、強引に助けようと密閉空間を開けた場合、風の流れに誘われて炎が入り込んだり、爆発を起こしてしまうかもしれない。


 せめて、中の状況が分かれば、とフェネリーは悩む。


 と、その時、光の玉がフェネリーの肩で飛び跳ねた。


「……?」


 励ますのとは違う動きだった事と、ここ最近の物言わぬ相手から考えを読み取るという修行の成果が出て来たのか、何を言おうとしているか何となく分かる気がした。


「ひょっとして助けてくれるの?」


 状況を打開する為の案が何かある様だった。


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