第3部

第15章 爆発事件

 


 クゥの特訓はちゃんと身を結んだ。

 フェネリーはその事が他の何よりも嬉しい事だった。


 聖霊との契約が成功して、仲良くなった下級聖霊の力を行使できるようになった時の事は、フェネリーにとって一生忘れられない出来事となった。


 そして、それからはフェネリーが学校で落ちこぼれ扱いされる事は徐々になくなっていった。


 クゥが来てからはやわらいでいた物の、フェネリーは今までは何をするのも楽しくないと感じていた。

 他人に指を刺されて馬鹿にされているような気がして嫌な感じがしていたのだ。


 けれどそれが聖霊との契約を果たしてからは大幅に変化した。


 フェネリーの生活は、最近はちょっとだけ楽しくなっていたのだった。


 クゥが来てからも、当然楽しくはあったが最近ほどではなかった。


(自分で努力して掴み取った成果、だからなのかな)


 フェネリーはうぬぼれているのかもしれないとそう思ったのが、自分がそこまで来るのに誰の力添えが会ったのかを忘れなかった。


(ううん、きっとクゥ様がいてくれたおかげだよね)


 フェネリー一人ではどうしようもなかった事に、小さな魔女の来訪者が新しい可能性みちを、方法を示してくれたのだ。


(これならきっと頑張って努力すればボクの夢も叶うかも! その時は世界中を旅するんだ。クゥ様と一緒だったら楽しいんだけどな。でも学校の外に出て来てくれるかな)


 そんな遠い将来の事を、数日前までは絶望的なまでに遠すぎたはずだった未来の事を思い描きながら、フェネリーは今日も朝日を浴びながら学校に登校する為に通学路を歩いている。


 となりにはふわふわと浮かぶ光の玉。

 たまにやって来る友達にその事を報告しながらも、彼女が軽い足取りで通学路を駆け抜けていく。


 しかし、そんな楽しい考え事は長く続かない。


(取りあえず、クゥ様におはようの挨拶をして、それから聖霊魔法の練習して、後は予習……)


 今日やる事リストを頭の中で整理してきながら、わくわくしていたフェネリーだが、その思考を途切れさせる出来事が起きた。


 それは、大通りを歩いている時の事だった。

 

 遠くから、耳をつんざくような大きな爆発音の様な音がして、彼女は思わず足を止めていた。


「何だ?」

「一体何があったんだ?」

「何の音かしら」


 付近を歩いていた人たちが何事かを騒ぎ始める。

 音の正体を確かめようとあちこち視線を向ければ、それにすぐ気が付いた。


 遠くに見える立派な建物、王宮が遠くからでもはっきりと分かりほど黒煙を上げていたのだ。


「おい、あれって王宮の方じゃないか?」

「大丈夫なのか、あれ。すごい音だったよな」

「事故でも起きたのかしらね」


 王宮は、フェネリーの姉が勤めている場所だ。

 そんな場所で爆発の音。そして黒煙。


 それらは、深く考えずとも誰でも分かる事を示していた。

 おそらく何か常ならぬ出来事が……事件が事故が起きたのだろう。


「おい、見に行ってみようぜ」


 目撃した人々は大体、離れようとするもの、近づこうとするものに分かれる。

 爆発音を聞いたものが起きた何かを知りたいと考えるのは、自然な事だろう。


 それはフェネリーも例外ではない。


「うぅ……、リコット先生ごめんなさい」


 放っておくなどできなかった。

 数日前に自分の事だけ考えろと言われた事も忘れて、フェネリーはその場から走り出していた。






 王宮の前までたどり着くと、多くの怪我人がいるのが分かった。


 建物からはもくもくと煙が吐き出され空へと立ち上っている。

 遠くでは何かが燃えている火の姿が合って、それは遠めからでも段々と勢いを増して行っている様にも見えた。


「あの、ちょっといいですか」


 フェネリーは勇気を出して、辺りにいた無事な人達へ事情を尋ねて歩く。

 周囲にいる人々の話を聞くに、どうにも土地枯れを何とかする新しい魔法を研究していて事故が起きてしまったらしいかった。


 切羽詰まって研究していた者達が、何かの手順を間違えのではないかとかそんな話だ。


「お姉ちゃん……」


 王宮内からは、続々と人が運ばれてくる。

 無事なものは多いが、何かしら怪我を負っている者も少なくはない。


 痛みに呻く者達の顔ぶれの中。見知った物がないかとフェネリーは一人一人探し回るのだが、その中に目当ての人物は見つからなかった。


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