第14章 学園祭



 賑やかなメロディ、たくさんの人の声。

 空は快晴で、見る者達を気持ちよくさせる。

 気温はちょうどよく、まさにその日は催し物を行うのにちょうどいいうってつけの日だった。


 最近は主に聖霊使いになる修行を進めていたフェネリーだが、それとは別にやっている事もある。


 それは学園祭の準備だ。


 と、言ってもフェネリーの学校で行うのは、普通の学校が催すような、屋台を出したり劇を作ったりする様な物ではなかった。


 学校が外から業者を呼び、専門の人に出店を開いてもらったり大道芸人や歌劇団を呼んだものを、生徒はただ楽しむだけ。


 魔技使いの卵として、日々忙しく研鑽を積まなければならない生徒には、余計な事には労力を使ってほしくない、というのが学校側の考えだったからだ。


 だが、そんな大人の事情はおいといて、やはり祭りは誰にとっても楽しいもの。

 余力のある者が自主的に出し物をする事は禁止されておらず、落ちこぼれの名前を有名にしつつも教師経由でお手伝いやとしても有名になってしまったフェネリーは、それらの準備にひっぱりだこになっていたのだ。


 そんなこんなで、迎えた当日。

 生徒達は学校の庭で、楽しくお喋りをしながら店を回ったり、逆に店を動かしたり、劇を見たり、見世物を演じたりするのだった。


 そんな中で、フェネリーは。


「嫌よ。絶対に嫌ったら嫌」


 図書室で渋るクゥを中庭に引っ張って行こうとして、難儀している最中だった。


「でも、クゥ様。すっごく楽しんだよ。一緒に遊ぼうよ」


 一応クゥの姿はいつもの魔女バージョンではなく、普通の少女が着る様な一般的な服を身につけている。


 だが、フェネリーの勢いに負けて一度は着替えまでしたクゥは、なぜか会場に行くのを拒否。

 目の前で渋っていた。


「小さな帽子に何でも入れちゃう手品の人とかいるし、宝石みたいなお菓子を売ってるお店もあるんだよ」

「……ぅぅ」


 フェネリーの言葉に興味を引かれつつも、しかしクゥは中々動こうとしない。

 ちょっと前までフェネリーの口癖だった言葉が、クゥの口から洩れていた。


「外に出ると面倒だから嫌よ。それに……」


 クゥが何かを言いかけるのだが、そこにクラスメイト達が寄ってきた。


「あ、こんなとこにいたんだフェンちゃん。一緒に遊ぼようよ」

「えー、フェンネちゃんだ」


 それらはフェネリーがここ最近仲良くなった子達だ。


 何故か名前を間違えられているが、やってきたのはその中でもそこそこの回数と時間を共にした事がある者達だった。


「その子、だぁれ? ひょっとして友達?」

「あ、この子はクゥ様って言って」

「えー、様付けなの、何で?」

「でもかわいい子だね。そんな子学校にいたっけ?」


 クラスメイト達は一斉にクゥに詰め寄って、集中攻撃ならぬ口撃し始める。

 興味のある物に質問が止まらないと言う技だった。


 女子はそう言う攻撃が得意なのだ。


 フェネリーはその少女たちの遠慮を知らない物言いにハラハラし始める。


「あ……ぅ」


 だが、そこで罵声が轟く事はなかった。

 なぜかクゥの様子が変だった。

 いつもなら、いけ高々に上から目線で物を言う所を、言葉に詰まったままでいる自称魔女。


 フェネリーが心配になって声をかけようとするがその前に……、


「ぅぅぅ、うるしゃい。あっち行きなしゃい!」


 フェネリーが人ごみにいきなり囲まれて驚いた小型犬の様に吠えて、その場から逃げ出してしまうのだった。

 あっち行けと言いつつ、離脱したのはその本人。


「行っちゃった、引っ込み思案なのかな?」

「あー、もう一気に質問するから怒っちゃったじゃん」

「えー、そんな事ないよ」


 それからクゥの姿が見つかる事は無かった。

 フェネリーは少し前ならば信じられないような友達に囲まれ、楽しく文化祭を回ることができたのだが、どこか物足りなく居心地の悪い気持ちにさいなまれていたま。





 

 一方フェネリー達の前から逃げ出したクゥはいつもの図書室にこもっていた。


「べ、別に逃げてきたんじゃないわ。うっとおしかったからはなれただけよ」

「ふーん、そう」


 それに相手をするのは、人ごみから避難してきたリコットだ。


「それに私みたいな事つるんでたって、向こうも気分が悪くなるだけでしょ」

「さあ、そんな事俺に聞かれても」


 相手をする教師は至極どうでも良いと言った様子で、生返事。

 しかしそれに対してクゥは怒る様な反応を見せる事は無い。


「最初はよくっても、正体が分かったらそう思うはずよ。私の考えは間違ってないわ。何たって私は監獄に入れられちゃう様な人間なんだから。大罪人の子供なんだから」


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