第11章 フェネリーの価値観
今までの特訓とは違って周囲からの目が厳しい。
もともとイジメられていて周りの目に敏感になっていたフェネリーにはそれは辛い事だった。
しかしそれでも、フェネリーはクゥに言われた通りにやり続けた。
(クゥ様が信じてくれてるんだ。ボクだって頑張らなくちゃ駄目だよね)
身の回りのあちこちに気を配り、何か感じれば即話しかけるようにする。
その行動を繰り返した。
確かに辛い事だったが、フェネリーはそれらの特訓を投げ出そうとは思わなかった。
(クゥ様にできたよって言う為にも早く成果を出したいもん)
そうしてあちこち話しかける特訓をして、数日。
それは驚く様な出来事であったが、ほんの少しだけ成果が出始めていたのだ。
ぼんやりとだが、フェネリーはそこら辺に何かいるという感覚が分かり始めて来ていた。
そしてたまにだが、何かフワフワしたものがうっすらと見えるようになってきていたのだ。
フェネリーは図書館に行ってクゥにその旨をさっそく報告する。
「クゥ様、綿毛みたいなものが見えるんですけど。あれは何ですか?」
宙に浮いていたクゥは女王様の様に胸をそらして発言。
その様子は初めて出会った時から変わらずで、下級市民を見下ろすが如しだ。
クゥはふわふわ漂いながら、高圧的な言葉を市民その一ことフェネリーに降り注がせる。
「下級
「下級聖霊……って、あの? 本当にですか?」
聞いた言葉にフェネリーは、そのまま同じ事を繰り返していた。
存在自体は彼女でも知っているのだが、信じられなかったからだ。
「私が嘘なんか言うわけないじゃない」
フェネリーは心の中で思う。
(確かにそうだけど、それでも信じられないんだよぅ)
ちなみに嘘と言うのならば、悪戯と称した親切心の事とか、と結構怪しい部分もあるとフェネリーは思ったのだが、彼女は口をつぐんだままで、それは言わないでいた。
そんな事にはまったく全く気が付かないクゥは、その先も説明を続けていく。
「知っていると思うけど。
そして十分に知識をひけらかされた後は、上から(物理的にも精神的にも)見下げられる。
(応援してくれるんじゃないんですか、クゥ様ぁー)
うぅ、と肩を落としてフェネリーが己の無知に意気消沈するが、だがその事実は前進している事も示していた。
「でもじゃあボク、聖霊が見えるようになったんだ……」
「予想より早かったけど、まあ当然よね。私が言った事なんだもの」
それなら今は下級聖霊と仲良くなっている最中なのだ、とフェネリーは考える。
フェネリーは高望みはしない人間だったので、格とか偉いとかはあまり気にしない部類だった。
超落ちこぼれでも聖霊と仲良くなれるのなら、下級だろうと何だろうと、何でもオーケーだったのだ。
「ボクは凄い聖霊とか凄くない聖霊とかっていうより、仲良くなりたい聖霊と仲良くしたいなぁ」
「まったくゴミくじゅは、呆れるほど能天気な考え方をしているわね」
「えぇ、そんなに言われるほど!?」
別におかしな事を言った覚えはないのに、とフェネリーは辛辣な言葉に狼狽する。
クゥはどこか呆れる様な視線をフェネリーに向けながら、言葉を続ける。
「上級
と、そんな説明の後にフェネリーの小さな鼻をつまんだりしながら。
何の為の行動なんだろう、と思いながらもフェネリーは先程の発言について考える。
聖霊使いに対する世間の扱いは、確かにクゥの説明の通りだった。
聖霊使いは希少な存在の為、力の強い上級を従えられれば一生安泰だと言われているのだ。
それらの知識は、フェネリーでもちゃんと知っている知識だった。
「はぁー、そうみたいですけど……」
だが、フェネリーは、そんな事を言われても想像がつかなかった。
何でも願いをかなえてもらえるのは凄いと思うが、叶わない事が多い生活が普通であったフェネリーには、まるで考えられない異世界のような光景だった。
もし、そんな生活が手に入ったらフェネリーは一体どう思うのだろうか。
(喜ぶのかな。それとも今までの生活と違い過ぎて戸惑うのかな)
やはり彼女は想像できないのだった。
「まあ、価値観は人しょれじょれだものね。フェネリーのそういうとこ、あの子と気が合いそうだわ」
「あの子?」
「私の妹よ」
「はぁ、クゥ様の妹……、ってぇぇぇぇぇ!」
さらっと流された情報にフェネリーは、クゥと話す様になって何度目になるか分からない絶叫を上げる。
至近距離から大音量のそれを浴びせられた小さな魔女の方は、一瞬超音波を喰らった鳥の様に墜落しかけて猛烈に抗議だ。
「ちょっと、驚いたじゃない!」
「ご、ごめんなさい」
急いで謝りつつも、フェネリーはクゥについて何も知らない事に気が付いていた。
(どこに住んでたとか、家族の事とか、気が付けば全然何も知らないなぁ。クゥ様ってここに来る前はどんな生活してたんだろう)
不思議な事に以前の生活を窺わせる様な話は、一度もクゥ自身の口から話された事がなかったのだ。
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