第10章 地道すぎる修行
クゥは寝息を立て始めたリコットを睨みながらも、話題を切り替える。
ずっと機会を伺っていたらしい小さな魔女は、目を輝かせながら最後の案について話し始めた。
「三つ目の案を言うわ。魔法は諦めなしゃい」
話されたそれは案ではなかった。フェネリーは地獄の底に突き落とされただけだった。
言い渡された内容に悲嘆の叫びが発生する。
「えええええええっ! それじゃあ退学になっちゃうよぉ。そんなのやだ。クゥ様お願い、みーすーてーなーいーでー」
「くっつかないで! 暑苦しいわ、離れなしゃいごみくじゅ」
「だってぇ」
しがみ付いて泣き喚いている所を、いつものようにクゥが引きはがす。
まったく関係ないが、結構騒がしい状況だというのにリコットはこの騒ぎでも起きなかった。
「話は最後まで聞きなしゃい」
なおもフェネリーがべそべそしていると、腰に手をあてた体勢のクゥがそう喋る。
それを見たフェネリーは、どくさいこっかの女王様みたいだと思ったが言わない。
話を途中で切ったのはクゥの方、と言えるような勇気は残念ながらフェネリーにはなかったからだ。
「ようするに、私が言ったのは……魔技使いになるのを諦める代わりに聖霊魔法を極めなしゃいって事よ」
「え、えええええええ!」
言葉足らずだった先程の言葉に捕捉が加わったが、なおもフネェリーは動揺を抑えられていなかった。
(だって、聖霊魔法と魔技って全然違うんだよ!? どれくらいって、十度とか九十度とかじゃなくって、百八十度くらい違うんだよ!!)
聖霊魔法。
それは魔技よりもかなり難しくて、行使するのが困難で危険な代物。
実際にその魔法を使っている者達……聖霊魔法使いは世界中で五本の指に入るくらいしかいない。魔技使いよりずっと少ないのだ。
だが魔技使いでもない人間が、なれるものといったらそれしかないのだろう。
それはフェネリーにも分かっている。
「そんなの、無理だよー」
聖霊使いになるのには、厳しい修行と、長い年月の訓練がいる。
フェネリーは自分に出来るわけがない、と思っていた。
やる前に否定的、弱腰、悲観的になる少女。
だが、目の前に提示された道の険しさを考えれば、それは不自然な事ではなかった。
魔技使いや聖霊使いの事を知る者なら、誰でもそうなるはずだ。
だがクゥはそんなフェネリーを冷たい目で見下ろすままだった。
「やる前から、無理って言うなら
「うぅ……、クゥ様はボクにできると思うの?」
「私は最初から出来る事しか言ってないじゃない」
それは確かな事であった。
一見、無茶苦茶な事しか言ってないように見えても、クゥが述べた事はフェネリーにも出来る事ばかりだったのだ。
(じゃあ、そんなすっごく大変な事でも、クゥ様はボクに出来るって思って言ってくれたのかな……?)
そんなわけでフェネリーはその日からクゥを信じて、三つ目の策へ取り掛かった。
聖霊魔法を使う為の特訓を。
だが問題がある。
大体その努力が実るのは、早くて五年。
遅くて十年と言ったところだからだ。
超長期的な特訓に、フェネリーはうっかり気を抜くとよく絶望しそうになっていた。
(ふぇぇ、先が遠すぎるよぉ)
道のりが果てしなさ過ぎて、フェネリーの心が早くも挫けそうな状態だ。
それで、肝心のその特訓はどんな内容なのかと言うと。
「見て見て、お母さん。あの子誰もいない所に話しかけてる」
「あっ、こら。見ちゃ駄目よ。あっち行きましょ」
王都の道の隅。通学中の出来事。親子に気味悪がられるフェネリー。
小さな少女は泣きそうになる。
クゥに言われた事は、たった一つ。
とにかく「何かいる」と思ったらすかさずそこに話しかける事、だった。
学校の下段、町中に立っている街灯の根本、マンホールの上。
とにかく、いるかもと言う所に片っ端から話しかけていくのがフェネリーのやるべき事だ。
「ねーお母さん」
「こらっ」
「ふぇぇぇえん! クゥ様、ボク挫けちゃいそうだよー」
だが、第三者からその様子を見ると不審者にしか見えないと言うのが難点だ。
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