第9章 お土産を渡そう
自宅の裏の庭。
課外授業後、その日もフェネリーは日課の魔技の練習を欠かさず行った。
が、やはり今日も結果が振るわないどころではなく、まったく成果なしで終わってしまう。
いくらフェネリーが鍛えられれ、少しばかりイジメられなくなったとしても、ぼっちから脱却しつつあると言っても、根本的には変わっていない。
根本的な問題は解決されていないのだ。
フェネリーは魔技が使えないまま。
ずっと落ちこぼれのままだった。
だが、それはともかくとして。
良くはないがフェネリーはその悩みを横へとおいといた。
ポケットから取り出したのは小さな石だ。
課外授業の時に拾ったもの。
「クゥ様喜んでくれるかなー」
友達へ贈り物をした事がないフェネリーは少しだけ、浮ついていた。
その石は、与えられるばかりではなく、少しは恩を返したいと思って見つけた物だった。
クゥの髪色と同じ紫色の石で、午後には回復してきた日差しにかざすと無数のきらめきが内部に生まれる鉱石。
「明日が楽しみだなぁ」
学校のある日を楽しみと思う事が無くなっていたフェネリーは最近、そんな風に思うようになっていた。
その事に、フェネリーは一人で笑みを深くする。
だが、フェネリーには懸念があった。
それは今の状況が永遠に保たれる保証がないと言う事だ。
(クゥ様、ずっと図書室にいてくれればいいのに)
友達になったばかりの魔女との、いつになるか分からない別れを思いながらフェネリーは練習を終わらせて家へと入って行った。
そして翌日。
フネェリーのする事は決まっていた。
朝一番にフェネリーが行く場所といったら決まっている。例の図書室だ。
ある物をクゥに渡しに行かなければならない。
(喜んでくれるといいなぁ)
弾む胸中の様子を隠しきれずに表情にだしながらも、フェネリーはワクワクした面持ちで図書室の扉を開けていく。
すると、古い蔵書特有の臭いと共に、ふんわりとした香りが漂ってきた。
それは紅茶の匂いだ。美味しいお菓子の匂いもある。
内部にクゥはいる。リコットも当然の様な顔をして、椅子に座っていた。
今日も図書室に逃げて来た教師はお茶会をしているようだった。
ただ黙々とお茶を飲んでいる。
その対面にクゥが着いているのは、お菓子とお茶につられてと言った様子だ。
「おはようございます、クゥ様! はい、お土産拾ってきました!」
「この偉大なる魔女の私にそこら拾って来たゴミくじゅを渡そうっていうの!」
「ひぃぃ、ごめんなさい!」
道端で拾ったものを渡そうとしたのだが、フェネリーは怒声を被ってしまった。
渡す前に不満を言われてしまった。
言う順番がまずかったと彼女は反省して頭を下げる。
そんな様子を見たクゥは一つ咳払い。
そしてつーん、とした態度をとりながら手を差し出した。
「で……でも、お土産自体に罪はないから仕方なくもらってあげるわ。本当に仕方ないけど、わざわざ捨てるのも疲れるもの、ありがたく思いなしゃい」
「わぁ、クゥ様」
とりあえず受け取り拒否にはならずに済んだ様だった。
フェネリーは、課外活動でみつけた綺麗な石をクゥにプレゼント。
クゥはおっかなびっくりと言った手つきで、そっと品物を受け取って眺める。
日の光の差し込まない室内では色味が深くなる。
クゥの手の中にあるのは、魔女を自称するクゥ自身を表す様に選んだ、高貴そうなイメージに合わせた紫色の石。
そっけない反応とは別にプレゼントを渡されたクゥは、目を見開いて様々な角度から石を覗き込んでいる。その様子がまた小動物のようで可愛らしいなと、フェネリーは思った。
(喜んでる、喜んでる。良かったぁ。ぼっち力を鍛えてたおかげで、地面に落ちてる良い物も気が付きやすくなったんだよね)
基本それは一人でいる時にしている事をやっているだけなので、修行をしている間のフェネリーは暇で暇で仕方がなかったのだ。
そのおかげで変わった石とか、よく見つけられるようになったのは不幸中の幸いだろう。
フェネリーは会話に全く参加することなく、一人でお茶を消化し続けているリコットに視線を移す。
誰にも絡まれる事なく、実に気楽そうな様子だった。
ちなみに、リコットは魔技の専門の教師であったので、昨日の課外授業にはついてこなかった。
「リコット先生は、今日も疲れてるんですか?」
「職員会議で頭使った、これから寝る」
激務を終えたばかりのようだったらしい。フェネリーがよく見れば目元にうっすらとクマみたいなのが窺えた。
(先生のお仕事もそれなりに大変なんだなあ)
余計な事を言って、棘のある言葉を余分に頂戴してはたまらないと考え、フェネリーはそっとしておくことに決めた。
しかし、クゥの意見は違うようだ。
小さな手でテーブルを叩いて精一杯の抗議。
「ちょっと、リコット、私の椅子が汚れるわ。どきなしゃい、汚らわしい虫のくしぇに」
「……」
「寝ないで、聞きなしゃーい」
「うっせぇ、黙れチビ。話しかけんな」
「ななななななな」
言い返した後で、本格的に眠り始めたリコットに、顔を真っ赤にして殴りかかろうとするクゥを、フェネリーが止めるのはかなり骨のいる作業だった。
小さな体を押さえつけながら彼女は考える。
(どうしてリコット先生って、こう皆に平等に口が悪いんだろう)
図書室の不法占拠の事を黙っていると言う事は、それなりにクゥとリコットは打ち解けたものだとフェネリーは思っていのだが、彼女にとってはやはりよく分からない事だった。
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