第7章 ぼっち力を鍛えよう
図書室
一つ目の作戦が成功した翌日。
フェネリーがいつもの日課で教師達の手伝いを終えた後に図書館に訪れれば、クゥは仁王立ちして待っていた。
いつもふわふわ魔法を使って浮いている事が多いクゥにとっては、それはとても珍しい事だった。
「今日は二つ目の策を教えてあげるわ」
来るやいなや早々に、出迎えたクゥはフェネリーに向かって弾んだ声でそう喋った。
どうやら助言をするのが楽しみで楽しみで仕方がなかったらしい。
フェネリーが持ってきた事柄に対して、この間までは面倒くさそうにしてるか迷惑そうにしているばかりのクゥだったのだが、心境の変化を起こして乗り気になった様だった。
おそらく自分の言った通りに事が運んだ事が嬉しいのだろう、と様子を見たフェネリーは考えた。
(得意そうに胸張っているクゥ様も可愛い)
クゥの新たな可愛い所を一つ発見したフェネリーは、少し心がほっこり。
そして部屋の中に入った彼女が見回すと、何故かリコットがいてお茶会しているのが目に入った。
テーブルがありそこにお茶が載っていて、人が椅子に座っていて更にそのお茶を飲んでいたら、それはお茶会と解釈しても良いものだろう。
だがそれはフェネリーにとってイコールで結ばれがたい景色だった。
「えっと、先生は何をしてるんですか?」
「休憩。外歩いてると、お前みたいな煩い女子がくっついてくるから、めんどいわけ」
「あ、そうなんですか」
学校に来てからしばらく経ったリコットは、最初こそ口の悪い代わりの教師という評価だったが、王宮軍で鍛えられたらしい実力と身に着けた知識、そしてフェネリーの様なタイプには分からないが、そこら辺には歩いてなさそうな美形という長所があってか、女子生徒達に人気になっていたのだった。
しょっちゅう話しかけられる事を煩わしく思ったリコットは、誰にも見つからないような静かな場所をずっと探していた。
そういう条件で見たなら、図書室はうってつけの場所だったらしい。
「それに、茶を飲んでるときは人と喋らなくてもいいし」
そう言ってお茶をすするリコット。
フェネリーにとって美形というものはまだ分からない。
だが、その様子はちょっと様になっているように彼女には見えた。
(喋らなくていいから、という理由でお茶会に参加する人なんて初めて見たよ)
フェネリーの新しい発見二つ目だった。
「お前も飲めば?」
よほど人の波から解放された事が良かったらしい。
平常時より少しだけ気分の良さそうなリコットは、フェネリーへお茶を進めていた。
しかし、それをよしとしない者が一人。
「リコットなんかの事はどうでもいいわ。私の話よ」
と、蚊帳の外に放っておかれたクゥがぷくっと頬を膨らませて、抗議した。
フワフワの髪を波立たせて、宙に浮かび上がった自称魔女は、自分の関係しない場所で勝手に進んで行くお茶会の空気が気に入らないと言った様子だ。
「一週間後の課外活動の為に、フェネリーのぼっち力を鍛えるわよ」
見た目的には拗ねたただの子供。
けれど、口にした二つ目の策はそれに似合わず相変わらずのシビアな内容だった。
(そんなあ、助けてくれるんじゃなかったんですかぁー!)
当然、フェネリーは奈落に突き落とされたような気分になった。
ここで見捨てられてはたまらないと考えて、フェネリーはクゥへひしっとしがみつく。
「えええっ!? クゥ様、止めてください。ぼっち鍛えたたら、またイジメられちゃうよっ!?」
「離れなしゃい黙りなしゃい、口答え無用よ!!」
「ひいぃぃぃ、はいぃぃぃっ!」
質問しないと、意味が分からないままだと言う事にはクゥは気が付いていない。
それについてフェネリーが何かを言う為にまた口を開いたらなら、雷が飛んできそうな様子だったから聞けないのだ。
取りあえずはそんな感じで、説明足らずなままその日から一週間の期間。
フェネリーはイジメ対策として真逆そうに見える事を……ぼっち力という物を鍛えさせられる事になった。
室外
室内と室外を隔てる分厚い扉。
図書室内部に繋がるその扉は、ほんの少しだけ開いていた。
そこには、室内でのクゥとのやりとりを見つめる一人の少女の影がある。
「……」
その人物は無言で室内の様子を見た後、扉を閉めてそっとその場から離れる。
「なんであんなに元気なのよ」
少女が漏らす言葉は憎々し気に彩られ、その内部には隠しきれない憎悪がこめられていた。
彼女の名前は、フレディ・トゥーナ。
フェネリーをイジメていた集団の、リーダー格の様な存在だった。
「落ちこぼれのクセに。生意気だわ」
クゥとは正反対の、思わず守りたくなるような愛らしさとは真逆な……周囲に刺々しさすら感じさせる相貌を持つ少女は面白くなさそうに廊下を歩いていく。
フレディには努力らしい努力をせずとも、強力な魔技を操る才能があった。
だが、それゆえに周囲から誉められて生きて来た彼女は、才能のない物を常に見下すようになっていたのだ。
「世界をこんな風にした魔女と名乗る人間と話なんて、気味が悪いわ。さすが変わり者ね」
そんな言葉を吐き捨てながら、フレディは仲間の顔を脳裏に浮かべながら図書室から離れていった。
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