タイマー

@iwshi98

タイマー

あと2分...


今日も23:30が来てしまった。

きっとあの人からの連絡は来ないだろう。

着信をオンにしていたスマートフォンをサイレントモードに戻す。

こうやって彼からの着信を待っていても意味の無いことは分かっている。

だが、1度染み付いてしまった習慣は簡単に消えることはない。

だから今でも彼が仕事を終え、一段落ちついたくらいの時間、そして明日の仕事に支障が出ないくらいの時間、23:30まで彼を待ってしまうのだ。

「もう寝よ」

彼からの連絡が無い夜に用はない。

最近早く寝るようになった私は、鉄枠がギシギシ言うベッドに横になった。

今は23:43...先程までなかったスマートフォンのマークに戸惑う。23:41着信あり。

彼からだった。

勝手に自分の中で作っていた23:30というタイムリミットなど、彼はロスタイムと言わんばかりに延長してきた。

私の中に染み付いたタイマーは、彼の中には存在していないのだ。

彼に振り回されるのはもうたくさんだ。

明日は9:00からプレゼンがあるし、今日の夕飯の食器洗いも朝のうちに済ませておきたい。通勤時間を逆算して考えると明日は6:00起きか。早く寝ないと。分かってる。分かってるけど。

私の指は彼の電話番号をタップする。

数回の呼び出し音の後「もしもし、何してんの?」という半音語尾が上がる癖のある彼の声。この声をずっと聞きたかった。

聞きたかったなら自分からかければいいのにとも思うが、めんどくさいと思われたくなくていつもやめてしまう。

なんども自分をバカだと思いながらも、彼に嫌われてしまうことを一番恐れているのだ。

馬鹿でもいい。この先も彼のこの声が聞けるなら。

そう自分に言い聞かせながら、自分勝手なタイマーを23:45にセットし直した。

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