第73話「このクソあま!!」

 ──────ッッゴキィィイ!


「アブッぁぁあ!!」


 っっっっっっくぅぅううう……気持っちいーーーー!!


 くはッ!

 やべぇ! なんだこの爽快感は?!

 

 アリシアの顔面にナセルの拳が炸裂ッ!

 中指に、折れた前歯が貼りついていた。


「ぐぶぶ……な、なにすんのよー……」

「────もういっぺん言ってみろ」

「あ、え?」


 言えよ……。


「ぼ、亡霊────」


 ゴスッ──────!

「えぶしッ!!」


 その面を、思いっきり床に叩きつけてやる。


 虫のように這いつくばるアリシア。

 

「くは……あぐ……」

 鼻血が垂れ、床に粘質に張り付くその顔といったら……。


 うくくくく……!


「───誰が亡霊だ。誰に消えろって?」

「う、うぐぐ……」


 さすがにアリシアも答えられない。


 今までは、ナセルがアリシアに直接手を挙げなかったため、どこか彼に対する侮りがあったのだろう。


 だが、許せない。

 許せるものか。


 許してなるものか!


「───俺はここにいるし、一度だって消えたことはない!」

「な、なによぉ……」


 アリシア……。

 アリシア、アリシア、アリシア────。


「お前……ひょっとして、俺が怒っている・・・・・ことに気付いていないのか?」

「おこ────?」


 ゴンッ!

「はぎゃ──! 歯、歯ぁあぁ」


 床に叩きつけられ、またどこかの歯が折れたらしい。


「……お前────俺が意趣返しに来たことを知らんのか?」

「な、なんでよ? わ、私は何もしていない────!」


「は?」


 …………………………はは。


 はははは。


 はははははは。



「ちょ、ちょっと、変な言いがかり付けないでよ!!」


 はははははははははははははははは。


「だ、だってそうでしょ! ねぇ、そうよね!?」

 何故かナセルに同意を求めるアリシア。


「き、聞いてよ! だ、だって──……」


 ギルドで嵌めたのはギルドマスター!

 異端者の焼き印を付けたのは神官長!

 ナセルの家族を処刑にしたのは国王!

 大隊長を焼き殺したのは勇者コージ!

 リズって子を攫い連れ去ったのは国!

 ナセルを冷遇し汚物投げたのは王都!


「ね? ね? ねぇぇぇえ?」


 ほらぁ!

 見てよ、聞いてよ、考えてよ!


「────わ、私、何も悪くない! 私は何もしていない!」


 ほらほらほら!!

 私はなんにも悪くなぁぁぁぁああい!!!


「──────────お前が、」


 え?


「お前がぁぁぁああ……」






 ──お前がすべての発端だろうがぁぁぁぁぁぁぁああああ!!






「お前が悪い!」

「お前がおかしい!」

「お前がクズだ!」

「お前がクソだ!」

「お前のせいだ!」

「お前の仕業だ!」

「お前のために!」

「お前のお陰で!」

「お前はイカれてる!」

「お前は売女だ!」

「お前は浮気者だ!」

「お前は裏切り者だ!」

「お前を殴る!」

「お前を罵る!」

「お前を赦さない!」

「お前を殺す!」


 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!


 お前だけは、

 お前だけが、

 お前だけを、

 お前だけの、

 お前だけに、


 お前が、お前が、お前が、お前が、お前お前お前お前お前お前お前お前お前、お前、前、前、前、お前がぁぁぁぁぁぁああ!!!




 すぅぅぅ……。


「───お前だけは絶っっっっっっっっっっっっっっ対に許さん!!!!!!」

「ひぃ!」





 チョロチョロと水音。

 アンモニアの匂い漂うも────。


「おら! 立てぇぇええ!! てめぇに思い知らせてやるぁぁぁぁぁああ!!」


 髪を引っ掴んで無理やり立たせる。


「────痛い痛い! いたタタタタ!」

 ブチブチと髪の毛が抜けるも


「立て! さっさと立て!!」

「痛い! ま、待って! お願いまって! 聞いて、ナセル! お願いだから聞いて────」


 やかましい!

 今さら何をさえずるってんだ!


「私ほんとうに何もしてないってばぁぁあ!」


 ふざけろ!!


 この、

「クソアマがぁぁぁぁああああ!!」


 抱きすくめるようにして腕を交差させるナセル。

 その手には二挺のMP40短機関銃がある!!


 しかし、傍から見ればアリシアがナセルに抱きしめられる格好のようにも見える。


 見えるが──────!

 その無慈悲な銃口はアリシアに向いて離れない!!


 ごるぅぁああああああ!!



「───表、出ろやぁああああ!!」


 くそアマが!!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る