第57話「その面をぉぉぉッッ!(後編)」


 ──ブワッッキィィィィイイイン!!!



 思いっきり、股間目掛けて鉄パイプパンツァーファウストを振り下ろす────も、直前で軌道修正……──床をブッ叩く。


「ぶひゃぁあ……」

 ブクブクと泡を吹いて失神寸前の国王。

 まだだ! まだ殺してやるものか!



「なんでもやるっ──つったよな?」

「あう、ああああ、もももちろんじゃ!」



 ガックンガックンと首を振る国王。


 じゃあよぉ──。


「親父とお袋を生き返らせろ」

「あうう──」

 ブルブルと首を振る国王。


「大隊長を生き返らせろ」

「うぐぐ──」

 ひぃぃ、と悲鳴をあげる国王。


「俺の尊厳とドラゴンを返せ」

「おごご──」

 ガクガクと体を震わせる国王。


「全てが狂ったあの日まで時間を戻せ、何もかも幸せだったあの日々を返せ、俺の失った全てを元通りにしろッッッ」

「…………」


 白目を剥いて今にも失神しそうな国王。


「なにも……」


 ……そうとも──────。


「何もできないのか、テメェはよぉぉお!」

「ぶぶ、ぶひゃゃぁぁあ!!」


 ブリブリとケツが盛り上がる。


 この野郎……!

 お前何回脱糞する気だ?


「……金もいらねぇ。宝石も領地も地位も国もいらんッ! ……だけどなぁ!──リズだけは返してもらう!!」


 だから言え……。


「リズはどこだッッッ!!」

「────うぐぐぐ……し、」


 し?


「知らんのだ…………」


 あ……?

 なんつった?


「おう、……ごら?」

「ほ、ほほほほ、本当だ! 本当に知らんのだ! わ、わわ、ワシは前線に送られたのを見届けただけだ!」


 なんだと……!


「──ふざけるなよ……! 喋るまで、じっくり体に聞いてみてもいいんだぞ」

「ほ、ほほほ本当じゃ! 嘘じゃない!! や、野戦師団本部に聞かんと分からんのだ!!」


 何ぃ……?

 野戦師団本部というと、魔王軍との戦いの最前線か……。


 かつて、ナセルと大隊長のいた北部の僻地────。


 …………地獄の最前線だ。


「そ、そこで異端者の親族は働かされると聞いている。詳しくはワシも知らん!──本当じゃ!!」


 なるほど……。

 嘘じゃなさそうだな。一々こいつ等みたいな偉いさんが、異端者のなれの果てまで気に掛けるはずもないか……。


 だったら、

「…………ならテメェに用はないな。クズの役立たずに、何の価値もない」


 そう言い放ったナセルに、危険なものを感じ取ったのだろう。

「ま、待て!! わ、ワシが話す! 前線に使いを送ろう! そ、そそ、そのリ、リズとかいう女を助け出せばいいんだろ?」


 な?

 なぁ!?


 ニコリと笑う国王、

「手厚く保護する! 約束する! お前の名誉も回復し、国一番の重鎮として取り立てようぞ!」


 そうとも、そうとも!


 にこやかに起き上がり、

「お前の召喚獣があれば無敵じゃ! 勇者コージなんぞ目じゃないぞぉ! 魔王にも勝てる! 勝てる、勝てる! ついでに帝国も攻めて奪い取り、この世界を牛耳ろうぞ!」


 出来る。できるぞ!


 ナセルの手を取り、

「──お前と世界を半分にわけるのじゃ!」


 はっはっは!!!

 そうとも! 世界を獲るのじゃ、


 ナセル・バーーーーーーーージニアぁあ!

 

 ははは、

「ははははははははははははは」

 ナセルは笑う。


 わはは、

「わっはっはっはっはっはっ!」

 国王も笑う。


 笑う、笑う。

 皆、笑う!


 ハハハ、

『『『ハハハハハハハハハハハハ!』』』

 ドイツ軍も笑う。


 笑う、笑う。

 皆が笑う!!


 はぁーっはっはっはっはっはっ!!


「はっはっは───────工兵分隊長、」

ハッヤー!』


 笑顔のまま、ナセルは言う。

「────城を爆破するぞ」


了解ヤボォル! 準備はできていますシァリヒィカィト


 すでに……。ナセルは王城を攻略しつつ、追従している工兵分隊に指示を出し、効果的に城を爆破する手はずを整えさせていた。


 彼らは山のように積み上げた荷物の中からTNT爆破薬や3Kg大型爆薬などを城内に設置していき、たった今も螺旋階段に爆薬の設置を終えたらしい。


 ここ、王の居室のみ残し、地上部分は全て・・・・・・・爆破できるという。


「な!? 何をするつもりじゃ?!」

「はっはっはっは。王様よぉ……」


 ナセルの手を取る国王のそれを払い除けると、逆に────ポンポンと二の腕を叩いてやる。


 それはそれは、まるで王が家臣をいたわるかのように……。

 実に優しげななナセル────。


「な、なんじゃ!?」

「俺はさ、」


 うん。





「────テメェぇエに、意趣返ししたいんだよぉぉお!!!」





 はッ、何が世界を半分にするだ。ボケェ!


「聞いて驚けッッッ」

「ひぃ?!」




 すぅぅぅう、

「──王国終了のお知らせです!!! これから5分以内に、王城は更地になります──よって、国王陛下は、最後の瞬間をその御目に焼き付けるといいでしょう!!」




 さぁ、

「そこのベッドに拘束して差し上げろ」


 よーーーく見えるだろうさ。 


了解ヤー』 


 短く返答したドイツ軍によって国王は拘束。

 豪華なベッドに押さえつけられると、何重にもグルグル巻きにされて動きを封じられる。


「ぶ、ぶぶぶひ? な、何をする、やめろぉぉ!!」


「大丈夫。大丈夫。先っちょ最上階は残してやるよ」


 はっはっは。

 盛大に行こうじゃないか!


準備完了ですニィダァカィン

「わかった。全員退避。王城前で鑑賞タイムと行こうか」


『『『了解ヤボォル!』』』


 ザッザッザッザッザ!

 整然と歩いていく擲弾兵たちを尻目に、ナセルは国王に向かって優雅に一礼。


 鉄パイプパンツァーファウストを剣の様に構える臣下の礼だ。

 騎士や国軍の兵がやる様に正眼に据えて────。


「では、国王陛下────さようなら。……あとは、死ね」

 一人で死ね。


 運が良ければ生き残るだろうさ。

 ギルドマスターも神官長もまだ生きているだろうしな。


 お前も生き残るかもよ。

 

 ま、

 その後は生き地獄だろうが……。


「な、何をする気じゃ!! よ、よせ!! ワシを解放しろ! これを外せぇぇぇえええ────」





 ──ナセル・バーーーーーーーーーージニアぁぁぁあああ!!

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