第56話「消毒開始(後編)」

 ナセルの背後に付き従うドイツ軍に「アレ・・」を借りる。

 そう、先の市街地戦闘で使った「パンツァーパトローネ30」だ。

 だが、工兵分隊長が手渡してきたものは僅かに形状が異なっていた。

 訝しむナセルに、

『──最新式のものです。対戦車榴弾発射筒パンツァーファウスト60』


 ナセルの召喚した工兵分隊はLv5。

 彼らの装備品はLv4の召喚獣より若干新しいらしい。


 ちなみに、軍隊では「パンツァーファウスト」とは言わず「パンツァーパトローネ」というんだとか。

 わざわざ、ナセルに分かりやすく『パンツァーファウスト』と呼称してくれた。そして、説明を受けるに──30、60と言うのは有効射的距離のことらしい。


『──で、この照準を起こします。すると、安全装置が解除され、あとはレバーを押し込めば発射できます』

 そのまま、簡単に使い方をレクチャーされるが、無茶苦茶簡単だった。

『──これが照準。穴を覗きこんで、弾頭についている突起に合わせてください』

「それだけか?」

『はい。信管と弾頭は装填済み。後方に反動相殺のガスがでますので、発射の際は注意してください』


 なるほど……。

 こりゃ子供でも扱えるな────。


「こいつぁ、ご機嫌だ」


 ニヤァと笑ったナセルがMG42を投げ捨てると代わりに受け取ったパンツァーファウスト60を構える。


『後方噴射に注意────退避フロークト退避フロークト!!』


 ドイツ軍が慌てて近くの部屋に避難すると、そこに残っていたのは妙な鉄の棒を構えるナセルただ一人。


 その様子を見て、ナセルの召喚獣が消えた、あるいは逃げたと勘違いした城兵らがやにわに活気づく。


「おい! 見ろッ!」


「ち、チャンスだ!」「異端者を討ち取れ」「「「いくぞぉ!」」」


 ────おう!!! 


 手に手に剣を。

 バリケードから一斉に立ち上がり、突撃しようと────……。



「そうとも────逝けッッッ」


 ────地獄に落ちろッインデェヘレェ!!





 シュパン────────……。


「「な、なんだ?」」


 ズッ……、

 ──ッッドォォオオンン!!!!!!




 真っ赤な炎の矢が迸り、スポンッ──とバリケードに飛び込んでいった。

 城兵らの「へ?」という顔を最後に猛烈に爆裂。バリケードも王の居室の扉もぶっ飛ばしていく。


「「ぎゃぁ──────」」


 爆音で悲鳴は掻き消され。

 巻き起こった爆炎のあとには、ポッカリとあいた国王の居室があるのみ。


 そして────。

「ぶ、ぶひぃぃぃいいいいい!?」


 そこにおわす・・・のは──。

 あーーーーーーーーーら、不思議。


 たんまりと溜め込んだ金貨や宝石に囲まれ、そして、豪華な冠と豪奢なローブに身を包んだ国王陛下がいた。


「はっはっはっ!!」


 ため込んだ財貨をどうするつもりだ?

 ──あぁあん?


 濛々と黒煙が噴き出す中、最後の一兵すら失った国王がただ一人いる。



 そして、ゆら~りと、立ち塞がるのは復讐に燃える男がただ一人────ナセル!

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