ドイツ軍召喚ッ！〜勇者達に全てを奪われたドラゴン召喚士、元最強は復讐を誓う〜

第５５話「王城攻略開始（前編）」

　スゥ──と目を開けた彼の瞳の奥には、深い決意があった。

　もう、何も迷うものか。

　両親の死体はどこにもない。

　大隊長の身体も消えてなくなった。

　そして、最後の家族──リズは汚されている。

　だから、もう何も、そうとも……何も迷うものか。

　──復讐の果てに何がある？

　バンメルは言ったな。

　「その力を復讐のためだけに使うのか」──と。

「ハッ！！！！」

　知るか。

　俺は俺の道を行く。

　この国が俺を捨てた。

　なら、俺に捨てられて（・・・・・・・）も文句ないよな？

　救いがどこかにあるか？

　────……ないよな？

　王城前には、ズタボロになった半死半生の負傷兵らがいるだけ。

　もはや彼らを助けようとする兵も召使いもここにはいなかった。　

「行くぞッ！」

『はッ（ヤー）、指揮官どの（コマンデン）！』

　バシン！　と敬礼を見せた中隊長とドイツ軍。

　彼はナセルの前に一人立つと、背後に控える戦車と乗車歩兵を従えてみせた。

　攻略前に、士気を高揚させようというのだろうか？

　ズラリと整列してみせるドイツ軍。

　クン……。

　ク、クン……──。

　顔をスラリとナセルに向ける。

「傾注（アハトゥング）」

　ザ！！

　ババババン──────！

『気を付（シュティル　）けぇぇ（ゲシュタンデン）！』

　ガガガガガガッガガガガガン！！！

　一斉に踏み鳴らされる軍靴。

　ハーフトラック上で、姿勢を正す装甲擲弾兵たち。

『指揮官どのに（オゥスン　ツンクゥ　）敬礼ッ（コマンデン）──！　…………頭ぁぁ（アオゲェェン　）中ぁぁあ（ゲラーデアオス）！！！』

　スバババ！　と全てのドイツ軍から頭（かしら）の敬礼をうけ、注目を浴びるナセル。

　彼は一瞬面食らいながらも、かつて所属した王国軍風の敬礼をもって、ピシっと返礼し──手を戻す。

『直れぇぇえ（ザァイ　グボォフォン）！！！』

　戦車から、

　ハーフトラックから、

　あらゆる場所のドイツ軍兵士から注目を浴びることになった。

『……集合おわり（アンゲ　トレーテン）！』

　ビシィィイ──！

　最後に集合報告をすませて、不動の姿勢をとる中隊長。

　彼の背後にズラリとならんだ兵をみて、ナセルは軽く頷く。

　かつて、勇者と決闘し大勢の前で無様を晒したナセルが、同じ空間──同じ場所でドイツ軍を閲兵する。

　もはやここには近衛兵団も神官もいない。

　あるのは復讐に燃えるナセルとドイツ軍のみ。

　ならば往こう────。

　さぁ、

「…………多くは求めない。……国王を生け捕りに──邪魔する奴は速やかに殲滅しろ」

『了解（ファシュタンドン）！！』

「いけッッ！　我が愛しの召喚獣よ」

　バッと腕を振るうナセルに応えるように──、

『総員（アーレメナー）、状況（ジィツェトゥン）開始（ゲスターテッド）』

『『『『｜了解（ヤボール）！！！』』』』

　──続々と戦闘態勢を整えていくドイツ軍。

　中隊長はテキパキと指示を出し、突入班を分けていく。

『前進（マァルシュ）、王城（ブルグ）に突入する（　ファォシュトゥース）』

『了解（ヤボール）！』『了解（ヤボール）！』『了解（ヤボール）！！』

　彼らは室内戦闘を意識して武器をいくつか交換し始めると、

『総員（アーレメナー）下車ぁあ（　アウシュタィグン）！』

　ガコン！　とハーフトラック後部扉を開放し次々に飛び出してきた。

　さらには、態勢の整った戦車隊から順次『前進了解（パンツァーフォー）』の返答。

　下車歩兵達は武器を手に黙々と戦車に追従し、王城に取りつき始めた。

　パンター戦車とⅣ号戦車は砲塔を振りつつ、敵の弓兵らの狙撃を警戒する。

　下手に反撃しようものなら窓枠ごと……いや、その狙撃地点ごとぶっ飛ばすことができる。

　７５ｍｍ砲弾は強力無比で、現時点で最強だ。

　だが、敵の反撃はなく。ナセルとドイツ軍はすんなりと王城に入り込むことができた。

「反撃なしか……まるで、俺の復讐を後押ししてくれているようじゃないか！」

　驚きこそあれ戸惑いも何もなく、一人歓喜に包まれるナセル。

　王城突入を前に、もう一度王城を見上げる。

　……かつて忠誠を誓った国──。

　その象徴たる城だ。

　だが、いまやただの復讐の坩堝。

　ならば、

　──消えてなくなるがいいさ。

　何が魔王だ。

　何が勇者だ。

　何が国王だ。

　ただの屑どもじゃないか……。

　何を恐れ、

　何を敬い、

　何を信じていたのか……。

　軍靴の足音も高く、

　戦車の履帯音も低く響く中、

　ナセルは一人首を振る。

「──────出でよッ！　工兵分隊！」

　キラキラと輝く召喚魔法陣。

　そこにあらわれる多数の兵（つわもの）。

ドイツ軍Lv５：ドイツ軍工兵分隊1944年

　　　　　　　※火炎放射戦車装備

ス キ ル：地雷敷設、障害処理、陣地構築

　　　　小銃射撃（モーゼルＫ９８）、銃剣突撃、渡河作業

　　　　火炎放射、煙伏、ｅｔｃ

備　考：Ⅲ号戦車改良の火炎放射戦車を装備

　　　　敵前での工兵作業の主任務とする。

　　　　爆薬、破壊筒のほか、

　　　　地雷などの特殊な工兵器材を扱う。

　やはり、ここは工兵の出番だ。

　──全て消すには彼らほどの適任者はいないだろう。

　ナセルは突入班に所属するＬｖ４の召喚獣とは別に、新たに工兵を召喚し自分の手でケリをつけることにした。

　Ｌｖ４の擲弾兵中隊は同Ｌｖの工兵──Ｌｖ４の工兵小隊とともに先に突入させ、内部を掃討する。

　その後で、新たに召喚したＬｖ５の工兵分隊とナセルが王城をぶっ飛ばすというわけだ。

　間違っても国王を城ごと殺してしまうわけにはいかない。

　火炎放射戦車や、パンター等の戦闘車両はこの場に残置していくことになるが、それはひとまず放置する。

　ここまで来たからにはもはや追い詰めるだけ。

　あとは大詰めだ！

　いくぞッ！

『集合終わり（アンゲトレーテン）！』

　召喚したてのＬｖ５の工兵分隊が器材を満載した状態でバシリと敬礼して見せる。

「ご苦労。……ではこれより王城を捜索する！　目標は国王ただ一人！　生かしたまま見つけろッ。殺すな…………俺の獲物だ」

『『『了解（ヤボール）』』』

　ズザ──ガガガン！！！！

　一斉に敬礼するドイツ軍。

「期待しているよ──ドイツ軍」

『お任せあれ（ウバァ　ラス　ミィア）！』