第55話「王城攻略開始(後編)」
自身に満ちた表情の擲弾兵中隊の『中隊長』。
彼は、その後小隊長を集めて打ち合わせを始める。
彼ら各擲弾兵小隊には、それぞれ工兵一個分隊が支援についていた。
擲弾兵も工兵も重武装。
とくに工兵の機材は大量で、彼等の背に山と連なっている。
ドイツ軍が言うには、屋内戦は戦闘工兵の領分なのだとか。
詳しくは知らないものの、装備だけでも明らかに凶悪だ。
手榴弾の詰まったバッグや、手元に爆薬やら
──それに火炎放射器だ。
武器も小銃ではなく、なにやらずんぐりとした銃で、三本銃身を持つ
歩兵たちも今まで見た銃のほか、
小銃には既に着剣している者もいた。
彼等のもつ
さらにはお馴染みの
(……なるほど、装備をコンパクトにまとめて──かつ室内での不期遭遇に備えているのか)
それにしても、屋内戦闘すら難なく
軍隊であることは分かる……。
だが、ドイツ軍が戦うような世界。
一体彼らの世界ではどのような戦争が起こっているというのか……。
何万と軍勢を組むドイツ軍と対峙するモノ──それは想像するだに恐ろしい。
いや、考えるまい。
彼らはナセルの召喚獣。……それでいいではないか。
今は王城を掃討し、国王を捕らえることに集中するのだ。
──さぁ、行こう。
「露払いを頼む」
『
中隊長の敬礼を受け、ドイツ軍が王城正面に取りつく。
王城入り口正面の半壊した扉は、中途半端に開放状態。
擲弾兵の一蹴りでぶっ倒れるだろう。
その脇に続々と集結したドイツ軍は、
『
ドガッ────!!
王城正面の豪華な扉を蹴破る擲弾兵達。
すかさず、突入隊員を援護するために控えていた擲弾兵が──ババババ! と機関銃の連射を叩き込むが反応はなかった。
『
『
ダダダと足音も荒く突入しては暗がりや曲がり角などの怪しげなところに銃口を向ける。
少しでも異常を感じれば、タンタンタン! パパパッ! と3点射で発砲。
敵の有無を確認するまでもなく、捜査しクリアリングを行っていく。
『
『
ここにいるものは、全てが敵と言う認識なので、ドイツ軍も容赦が全くない。
銃撃に爆破と、情けも容赦も許容もなく、そして遠慮と言うものがなかった。
目標は国王だ。
その生死にだけ気を付けていれば、あとは知らぬとばかり。
『一階部分制圧! 次ぃ、上階にいく! 3名残置──この場を確保しろ!』
『
──ズドォォオオン!!
爆薬が弾け、王城全体が震えているようだ。
時々窓ガラスがぶっ飛んできては、外に破片を撒き散らしたり、格子窓の先から銃弾が煌く。
ナセルはその様子を召喚したハーフトラックの中で見ていた。
「──滅茶苦茶つえぇな……ドイツ軍」
ポツリと呟く間にも……。
ズドォォン! と見てる間に離れた尖塔からも黒煙が上がった。
見た感じでは全ての階を制圧したようにも見えるが────。
ザ……、
『こちら突入部隊。王城上階の一カ所を除きすべて制圧。……目標は発見できず』
ハーフトラックに備え付けの無線から流れてきたのは『中隊長』の声だ。
「了解した。おそらく、最上階だ……。その場を確保してくれ」
『
ザ……。
多分、他の階にはいないだろうと踏んでいたが、思った通りだ。
最後の砦として、最上階──螺旋階段の先にある自室に籠っているのだろう。
方針を伝えたとたん、ドイツ軍の動きは迅速だった。
さっきまでは王城の上階が騒がしかったというのに、今は兵が走り回る気配のみ。
銃声も途絶えていた。
時折、散発的に響くのは工兵が使ったと思しき爆薬の発破音のみ。
念のため隠し部屋などを捜索しているらしく、入り口が壁に隠されている可能性を考慮して、怪しい所をぶっ飛ばしているのだろう。
ほどなくして、
ザ……。
『こちら突入部隊。最上階以外の残敵の掃討完了────最上階手前でバリケードを確認、交戦中』
「
『
ザ……。
無線ごしに、中隊長たちを止めるとナセルはハーフトラックに残されていた
使い方は一通りレクチャーを受けていたのでなんとかなるだろう。
実際、分解結合以外は簡単なものだ。
肩掛け鞄に予備の弾薬を押し込むとハーフトラックを降りた。
そこに小走りに近づいてきた兵に、軽く手を挙げて答える。
『こちらです。案内します』
まだ若い顔の兵は、それでも肝の据わった顔をしており、同年代の若者と比べて纏っている空気が違った。
城の外の安全はほぼ確保しているが、それでも油断していないのか、視線は左右に向けられている。
銃口は
「頼む」
短く言ったナセルの言葉を合図に、先頭に立って歩き出す。
ぶっ飛ばされた王城の正面は荒れ放題で、ドイツ兵が荒らしたというよりも、それ以前に何者かが家財を持ち去った形跡が見て取れた。
「中は?」
『ほぼ無人です。略奪の痕跡はありますが、抵抗は僅かでした』
やはり、すでに大半の城兵らは王城を放棄したらしい。
さらには、先ほどまで威圧的に
それにしても、兵らが王城から家財を盗むということは王家の信頼が地に落ちたことを指している。
いくら価値があろうと、盗品ではな……。
王家の持ち物がそう簡単に売り物にならないことは想像に難くない。が、……それは、あくまでも、現王家が在位して治世に影響力を与えていた場合だ。
滅びた王家のものなら、それは逆に価値が上がるというもの。
「わかった。最上階まで案内してくれ」
『
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