第54話「復讐の地(後編)」

「俺の怒りを知れッッ!」


 キューポラに足をかけて叫ぶナセル。

 それに答える者いないものの、城全体が震えているようだ。


 だが、

 ただ復讐すればよいというものではない。


 なによりも大事なこと。

 最後の家族────リズのことがある。


 ナセルはこの日──1日で、随分と復讐を済ませることができた。


 それでも、まだ終わりではない。


 いや、終わりなものか!


 勇者に復讐し、

 アリシアに御礼をすませて、


 ──それで終わるものかッ!!


 最後の家族──────リズを必ず救う。

 必ず────。


 だからよーーーー。

 国王陛下!

 再び、生きて捕らえてやるから覚悟しなッ!


 簡ッ単に、死なせやしねーからよ!!


 暗い目で報復を祈念し、

 燃える瞳でリズを救うことを誓うナセル。


 そうとも──────ドイツ軍がいれば可能だ!


 リズを救う。

 あとは知らん!


 王国?

 国民?

 知るかッッッ!


 ────滅びろ王国!


 俺には、ドイツ軍とリズしかもう残っていない。

 そうとも、もうこれしかない!!!


 だけどな!

 あの子は……きっと待っている。


 ナセルを待っている!!!


 異端者の家族の末路──噂では、前線に送られて、荒れた兵どものオモチャにされているというが……。


 必ず、救いだす!

 何があっても救いだす!!


 実際にどんな目にあっているか……本当かどうかは知らない。

 だが、異端者の血族で若く美しい女の扱いはそうだという。


 そしてリズはそう・・なのだ。


 あの幼く、美しい最後の家族が、どんな目にあっているやら。

 考えるだけで胸が張り裂けそうになる。


 そうとも、

 事と次第によっては、前線部隊を蹴散らしてでも、リズを探す。


 救う。

 護る。

 愛してみせる!

 

 たから、まずは国王陛下の身柄の拘束と、御礼参りだ!!

 あの小汚ない面と素っ首。


 ──見合うと思えないが、家族の受けた苦しみを存分に味わってもらう。


 槍で貫かれる痛み、

 荒れくれどもに弄ばれる苦しみ、

 業火に焼かれる絶望を────!!!!


 さぁ、もうすぐだ。


 リズの居場所を吐かせるとともに、

 リズを弄んだ回数だけ、奴の四肢と五指と内臓をもいででも、少しずつ前線に送り届けてやるぁッ!!


「邪魔をする奴ぁぁあ、八つ裂きだ!!」


 王城からパラパラと人影が現れる。

 散発的だが残った人々が逃散しているらしい。

 だが、今のところ国王は見当たらない。

 上空をブンブン遷移しているドイツ空軍ルフトヴァフェからも発見の報は入っていなかった。


(……最悪は城を捨ててとっくに落ち延びているかと思ったが──だが、どうだろうな)


 ナセルが王都に進撃してからまだ一日も経っていない。

 その間に驚異的な速度で敵を降している。


 冒険者ギルド、

 アンデッド化神殿騎士団、

 教会本部、

 魔法兵団元帥バンメル──そのドラゴンの群れ、

 そして近衛兵団と──────。


 普通なら中小国家を相手にするくらいの戦力がいるはずだが、ナセルの『ドイツ軍』はほとんど無傷で対峙できている。


 そして、それはなおも進化し続けていた。


「どこに逃げようとも草の根分けてでも探してやる────戦車まパンツァーフ…………」


 号令をかけようとしたナセルはピタリと動きを止める。


 城兵らが息絶え、砲弾と爆弾とロケット弾によって無茶苦茶に荒れた城内にあってそこだけが妙にくっきりと残っていた。


 バチ、バチ、バチ……。


 工兵の投じた発煙弾のスモークが晴れる頃。

 そして、スモークの晴れる前からたたずむ黒衣の軍勢と、瞑目し空を仰ぐナセルがいた。



 あぁ……。

 この場所だ────。

 忘れるものか……。


 耳にこだます幻聴──────。



※ ※

 ──へ~……たいしたトカゲじゃねぇか。


 ──ふん、余裕ぶるなよ。

 ────行けッ、ドラゴン!


 ──ドラゴンって、デカくて強いと思ったけどな。

 ──がっかりだぜ。


※ ※


 あの日の──キラキラとした召喚光を霧散させて、消えていくドラゴンを幻視するナセル。


 そうだ……。

 おれのドラゴン…………──。



※ ※


 ──お、おお! さすがは勇者コージだ!

 あのドラゴンを一瞬で倒してしまうとは!


 ──何と素晴らしい剣の使い手!

 神よ感謝します! 勇者に栄光を!!


 ──さ、さすがは勇者ということか……!

 まさかこれほどとは。冒険者ギルドも光栄です。




 ──勇者に栄光を!

  ──勇者に栄光を!

   ──勇者に栄光を!

    ──勇者に栄光を!

     ──勇者に栄光を!




 ──コージ素敵……。


※ ※


 あぁ、……俺のアリシア……。

 あの日の、あの時の、あの瞬間の光景がまざまざと甦り、脳裏で反響する。


 そして、

 あの言葉────。



※ ※


 ──異端者魔族に加担した者ってことにすれば、

 王国の全ての権利を取り上げられるんだって?


※ ※


 そうとも、

 その通りだ。


 全てを取り上げられた。

 

 ドラゴンも、

 家族も、

 尊厳も、

 人生も、

 俺も…………。


 

 この場所で、な。


 戦車からヒラリと降りると、すー……としゃがみこみ、瞑目したままのナセル。

 彼は地面の砂を一掬い。


 そして、サラサラサラーと、巻き落とすと──。


「ケリをつけよう。この国に……」


 そのあとで、

 ………………そうとも。


 そのあとに、お前たちへ会いに行く。






 コージとアリシア。






 国ということわりの範疇から外れたところで、お前たちには借りを返さないとな……。


 そうだろう?


 勇者コージ。


 そして、

 我が妻アリシアよ────。


 それまで、

 それまで精々愛し合うがいい。



 ──必ず、報いを受けさせる。






       必ず、な。

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