第38話「高速徹甲弾」


『敵司令官を確認ッ! 正面────正門上!』

「なに!!」


 走り寄ってきた『中隊長』から報告を受けたナセル。

 続いて手渡される双眼鏡に目を当てた。

 これの使い方は既にレクチャーを受けているので操作に問題はない。

 

 しかし、双眼鏡に不慣れなナセルのために中隊長はわざわざ砲塔によじ登り、腕をまっすぐに目標にむけ、視認方向を教えてくれた。


 その指示に従い、ピントを合わせると────……。


「いたよ……いやがったよ!」


 会いたかったぜぇぇえ────国王陛下よぉぉぉ!!


 そして、偶然だろうか?

 双眼鏡ごしに睨み付けるナセルの視線と国王のそれが絡み合う。


 ……いや、偶然などではない。


 確かに目があった。

 ナセルを睨み付ける国王の濁った目。

 間違いなくナセルの視線を受け止めていやがる。


 それもそうか……。ドイツ軍の先頭。そして、目立つ巨体の四号戦車に跨上しているのだ。


 見えないはずがない。

 そうとも、見えないはずがない。


 ……むしろ見ろッ!

 ────俺を見ろぉォぉぉおお!!


 すぅぅぅ、

「ご尊顔拝謁つかまり、まっこと恐悦至極に御座いますねぇぇぇええ!!!」


 えぇ、おい? 国王陛下殿よぉ。


 空気がビリビリと震えるほどの大声でナセルは呼ぶ。


 怨敵を呼ぶ。

 復讐最後の添え物を呼びつける。


 当然、気付く。

 国王も気付く。


 憤怒の表情で、正門上に立つと周囲を精兵に囲まれてふんぞり返る。


 そして、あろうことかナセルに反論して見せた──。


「聞けぇぇえ異端者がぁ! 貴様はやり過ぎた! 民を、国を、……そしてワシを怒らせた!」


 ほう、怒っているとな?

 えーと、誰が? 何に?


 …………?


 は? まさか、…………お前が、俺に?


 ………………。

 えぇおい、マジで言ってんのかコイツ?


「クソ国王陛下殿よぉ? すまんな、耳クソ詰まってたみたいだわ……誰かのせいで、ドン底生活でよ、ロクに体も洗ってないんでな!」


 ホジホジと耳クソを取り出す仕草。もちろん詰まっているわけがない。


「きっさま~! 劣等国民以下の異端者の分際でワシに歯向かうかぁぁああ! 身の程を知れッ」


 …………あ?


 言うに事欠いて、身の程を知れだぁ?

 異端者だぁ?


 そんでもって、誰が劣等国民以下だ……。


 俺はとっくに────。

「──テメェの臣下じゃねぇぇぇえ!! 何・が・劣・等・国・民・以・下・だ、ボケェ! こんな国、こっちから願い下げだ!」



 そうとも、……こんな国いるか!

 知るかッ!


 消えろッ!

「──滅ぼしてやる!!」


「──やってみろッ!!」


 両者とも気合の罵り合い。

 そして、戦端は開かれるッ!


「全隊攻撃開始ッ! 国王以外はブッ殺してよし!」


『『『了解ヤボール!』』』


 僚車二両から顔を出した車長二人、そして『中隊長』と工兵小隊長がそれぞれ敬礼する。


 それに返礼で答えたナセルは、挨拶とばかりに対空機関銃MG34を構えると、正門上の国王に向けてぶっ放してやる。


 当てるつもりだが、概してこういう時は当たらないとよく学んだ。

 だから、撃ったところでどうせ当たらない。それでいい。

 何せこいつはただのあいさつだからな!


 じっくりお返ししてやるつもりだ。

 このくらいで……くたばってもらっちゃ困るな。


「おらぁぁ! あいさつ代わりだぁ!」

「ほざけ異端者が! 防御魔法を展開せい!!」


 精兵たちの中に混じるのは魔法兵団の精鋭だろう。

 連中がローブを羽織ったまま朗々と詠唱している。


 む!? ありゃ……もしや、高位の防御魔法か────しかも、多重詠唱!?


「ちッ」


 させるかッ!


 対空銃座に固定されているMG34軽機関銃を操作。

 50連ドラム弾倉から初弾を送り込むとすかさず照準────くらえッ!


 ババババッババババババッババババババババン!!


 曳光弾の白い光の筋が真っ直ぐに王城の正門上に届く。 

 あっという間に飛翔した弾丸が国王に命中────バキン、バキィィン!


「ちぃ!」


 国王の正面に青白い障壁が現れては、また透明に戻る。


 これは…………、

 高位防御魔法────「障壁」か!


 着弾の瞬間にのみ顕現しているようにも見えるが違う。

 常に透明の壁があるのだろう。

 実際に、国王から外れた他の弾も別の個所で、バチン、ガキンと波紋を生むようにして弾かれている。


 そこには、ブルブルと空気の膜が震える様にして青い波紋が生まれ、そしてまた透明に戻る────。


「ぐははははは! 舐めるな異端者! 何の策もなく出てきたと思うてか! ──我は国王! この国の一番の偉大な者であるぞ!」


 はん! そうかよ。


「ワシのスキルは全体の能力上昇・・・・・・・! ……勇者の末裔を舐めるな!」


 あ、勇者だ?


 その単語にナセルの頬が引き攣る。


「……クソムカつく単語ワードが耳に入ったぞ?」

「はっ! 負け犬の遠吠えか? 貴様はどの道終わりだ。我が精鋭の攻撃を受けて見よ!」



 全軍────突撃ぃぃぃ!!



 サッと、手を振り下ろす国王に従い、跳ね橋がギギギギギギィ……! と唸り、桁を下げていく。


 その背後に奴のご自慢の近衛兵団でもいるのだろう。残余とはいえ、こちらよりは多いはずだ。


 だが、そんなことより────。


「砲手。ムカつくからあの障壁をぶっ壊せッ」


了解ヤボール。タングステン芯弾を使います。高速徹甲弾 PzGr40装填!』


 砲手の指示に、素早くこたえるのは装填手。


『高速徹甲弾、了解──……装填よしラーデングート!』


 ガシャキ! と砲尾に尾栓が閉塞。発射準備が整ったことを伝えるボタンを押すと、砲手に隣のランプが点灯。装填完了を伝えた。


 砲手はあらかじめ照準を定めており、砲と砲塔がウィィィイン──と動いている。


『照準よし!』


「ぶっ放せ!」


 どうせこれくらいで死ぬためだはないだろう。

 ふんぞり返っているボケの鼻先に75mm砲をぶち込んでやる!


発射フォイア!』



 ズドンッッッッッッ!!



「ぐはははははは! 手も足も出せんか、この異端、」


 ボキャーーーーーン!!


「ぎゃああああ!!」


 国王を覆っていた障壁が激しい音と主に砕け散る。

 ガシャン、パリン……と、まるでガラスのようにあっけなく。


「ななな……」


 幸いにも王には直撃しなかったものの、もの凄い力で引き裂かれたらしく、奴のお気に入りの小姓やら筋骨隆々の近衛の精兵が木っ端みじんに四散していた。


 詠唱を行っていた術者も数人が死亡。


 直撃しなかった者も、魔法が強引に破られたため泡を吹いてぶっ倒れていた。


 この場に残ったのは僅か数名の兵と、みっともなく悲鳴をあげる国王のみ……。





 ぶ、

「ぶひゃぁぁぁぁぁああ!!」


 




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