第29話「機械仕掛けのドラゴン」
※ バンメル視点 ※
「カーカッカッカ! 手も足も出んと見るな」
さっきまで快調に攻撃してきた鉄の箱が、突如としてピタリと沈黙してしまった。
あの光の矢による魔法攻撃も止んでいる。
(効いているようだな……!)
バンメルは敵が鉄の箱に籠った時点で、熱による蒸し焼き攻撃が有効ではないかと考えたのだ。
そして、上空に展開させたレッドドラゴンやノーマルドラゴンなどの炎を吐けるタイプに攻撃を指示した。
召喚した大型タイプだけでもかなりの数。
流石に一匹がブレスを吐き続けることは困難なため、順番かつ順繰りにドラゴンブレスを連射するのだ。
その結果、炎の海が絶え間なく眼下の大地を焼く。
バンメル配下の、レッドドラゴン、ドラゴン、レッサードラゴンども──。
彼ら様々な種類のドラゴンが、得意のブレスをローテーションで吐きまくると──。
パァン!! と破裂音。
その音が合図であったかのように、パァン、パパバン! と、次々に破裂音が鳴り響く。
音の出所は鉄の箱の上部で──ナセルが構えていた鉄の塊だ。
それを破壊する好機とみたバンメルは、さらにドラゴンブレスを連射。
なるべく間断なく発射し続けていくと、鉄の箱の上部に突き出していた黒い鉄の筒が、立て続けに──パパパパン!! と破裂音を立てて、ついには
その後は、熱によってぐにゃりと溶けて曲がってしまった。
(くくくく……やはりな!)
そう、
やはり────鉄なのだ。
炎が効かないはずがない。
「さて、そろそろ蒸しあがってきた頃か……んん────あ゛ぁ゛ん゛?」
上機嫌で笑っていたバンメルだが、突如異音と妙な気配に気づいて
そう、
更に上空を────。
グゥゥォォォォォオオオオオオン……!
(なんじゃ? 獣の──ほ、咆哮??)
サッと太陽を遮る何か──。
黒いシルエットが確かに……。
シルエットから零れた太陽の光が網膜を射し──ギラリと輝いてみえた。
「な、何じゃぁあ?」
そう、まさに「何──」だ?
──何かが、太陽の中にいた。
(ど、ドラゴン……?)
バンメルの思いついたのは真っ先にそれだ。
自らが使役し、自らを護り戦うもの──。
それに慣れて親しんだだけに、ドラゴンの気配は
空を制する最強種。ドラゴン────。
そのバンメルが思うのだ……。
それがなにか、わからずにドラゴンか? と、疑問を持って。
つまり──、
「ナセルの奴が呼びだしたのか──? いや、」
グゥォォオオオオオンンン────!!
「──ど、ドラゴンじゃない!?」
太陽から現れたそれは視界一杯に広がり、その陰で太陽を覆いつくすまでに接近した。
そのシルエットは────ドラゴンじゃないッ!
ドラゴンなものかッ!!
ドラゴンに非ず!!
「なんじゃ、あれは──────!?」
まるで鳥。
いや、剣────??
空一杯に広がる鍔と、お尻まで伸びる刀身──こちらを向く先端は風車の様なものが付き、その後ろにガラスの窓のようなものが────。
「な、なな!? ひ、人が乗っているッ?」
それに気づいた時に、破壊の嵐は訪れた。
──ドゥ、ドゥ、ドゥドゥドドドドドドドッ!!
先端と鍔の部分がチカチカと輝いたかとおもうと、まるで光の帯──いや火山噴火のような炎の矢が、上空から降り注いできた。
「か、回避ぃぃぃいいい!!」
ズバァァン! その剣とも鳥ともつかぬ何かが通り過ぎたとき、炎に巻き込まれたドラゴンが撃墜されて消えていく。
「ば……か、な!?」
バンメルの乗るフロストドラゴンも、図体がデカすぎただけに何発か炎を貰ってしまったようだ。
その威力たるや……。
さっき、地上で鉄の箱からまともに食らった攻撃程ではないが、分厚いドラゴンの皮膚を貫いて尚──貫通し、羽をズタズタに引き裂くだけの威力があった。
「く……! なんだアレは? まるでドラゴンじゃ!」
だだの一航過だけでドラゴンの群れを蹴散らしてしまった初めて見る敵。
しかし、それだけで済むはずがない。
「戻ってきた!?」
ゥゥゥゥウウウウウウヴヴヴヴヴヴヴン!!
ドラゴンからすれば重々しい角度で旋回しつつも、その速度も上昇力も半端ではない。
そいつが──────来るッ!!??
バカな!!
「は、反撃じゃ!! 焼け! 凍らせろ! かみ砕けぇ!!」
ドラゴンたちがバンメルの命に従ってブレスを放とうとするが、それよりも遥かに早く、遥かに遠くから奴が咆哮する──。
ズドドドドドドドドドドドド────!!
「ぐぉおお!」
操っていたはずのフロストドラゴンが火山噴火の様な攻撃に怯えて身を捩らせる。
そこに奴が突っ込んできてフロストドラゴンとその取り巻きを叩き落としていく。
反撃など思いもよらない。
「な、何じゃこの化け物はぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げるバンメルだったが、フッ……と突如として浮遊感を感じた。
「ひょ?」
自分の間抜けな声に下を見れば、跨っていたフロストドラゴンはどこにもいない!
キラキラと残る召喚光の残滓は──……。
「ひょおおおおおおおおおお!!」
フワリと無重力を感じたかと思うと、内臓が押し上げられるような浮遊感を覚える。
「ど、ドラゴぉぉぉーーン!」
手を伸ばし助けを求めるバンメル。
地上はすぐそこだ!
新しく呼びだすことも考えられない程パニックに陥っていた。
そこになんとか間に合ったのが小型ドラゴンで召喚術Lv1~2で召喚できる程度の奴だ。
戦力としてはそれほどではないが────よくやった!
ドスンと落ちたバンメルの衝撃を上手く逃がすと、そのままヨロヨロと地上に向かって墜ちていく。
よくよく見て見れば、そのドラゴンも負傷している。
キラキラと光の粒子が輝いている所を見ればもう限界だろう。
そして、地面に不時着すると同時に消えていった。
(すまんのー……)
よっからせと起き上がらるバンメルは空を見上げる。
そこに繰り広げられた光景は、バンメルにとっては地獄絵図だ。
「わ、ワシのドラゴンたちが……」
いるのはボロボロの格好をした翁がいるだけだ。
空の先では、例の敵によってズタズタに引き裂かれて消えていくドラゴンの群れ。
いや、
今は残すところあと一匹となり──────それも消えた。
「ば、ばかな…………」
こんなことができる敵がいるのか?
こんな芸当が出来るとすれば、古代龍や伝説の存在くらいと思っていたが……。
ナセル────おまえ……。
「──あっと言う間だったな」
「ナセル!?」
落下した先、
地面にベチャリとへたり込んでいたバンメルに、悠々と近づいてくるのはナセル・バージニアその人。
「な、なんだあれは!? あんなドラゴン聞いたこともないぞ!」
「…………あれは、メッサーシュミット
バンメルの目に映るナセルは、もはやかつて最強と言われたドラゴン召喚士のそれではない。
奴は──────。
ニィィと口を歪めるナセル・バージニア。
彼の抱える心の闇と、復讐の業火に答えるように上空を舞う彼のドラゴンが力強く咆哮した──。
グゥゥゥゥウウヴヴヴヴヴヴヴンンン!!
──あれが??
め、メッサーシュミット…………??
パチクリと瞬くバンメルの前に立つナセル。
彼は高らかに宣言した。
そうだとも、
これが──────。
すぅぅうう……、
「─────俺のドラゴンだ!!!」
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