子供の問題

@mk1005

第1話

 世の中には数多の紙がございますが、元は草木から生まれを一つにするものでございます。

 ですが、ある物は『おふだ』や『おさつ』などと言われ尊ばれ、敬われたりもいたしますのに。中には文字通り唾棄される物もある始末。身を粉にし、人の世に役立たんと出で来ると思えば哀れなるかな憐憫の涙を禁じえず。思わずテッシュペーパーに手が伸び、涙ばかりか鼻をもかまれるのが紙の身の上でございます。

 世の汚濁をまだ知らぬ、紙のように純真無垢な子供にも紙の貴賤があると見え、千代紙は亀にも鶴にも折られて、万年千年のいやさかえめでたかりけるものを。中には、疎んじられ恐れられる紙もあるようでございます。

 

 とある学校の、あるクラスでのこと。

 「はい、じゃあこれから算数のテストをしたいと思います」

 先生が、そうおっしゃると教室には不満の声と悲鳴が巻き起こりました。

 「ちゃんと授業を聞いていたら、解ける問題ですよ」

 まったく慰めにならない言葉をかけながら、先生はテスト用紙を配ります。

 子供たちの将来のことを思っての親心、先生が夜なべして作ったテスト用紙ですが、そんなことなど、小一時間ほどテスト用紙に苦しめられる子供たちは知る由も無く、テスト用紙はひどい嫌われようです。

 うんうんと頭をひねり、知恵を絞って子供たちはテスト用紙へとむかいます。そして無情にも、はたまた救いか、授業の終わりを告げるベルが鳴ると。テスト用紙は集められ、先生の元へと帰っていきます。

 子供たちは、テスト用紙から解放されてやれ一安心と校庭などに遊びに駆けだします。

 ですが、忘れたころに手元に戻ってくるのがテスト用紙の嫌われる所以の一つなのでございます。

 数日が経って、採点を終えたテスト用紙が先生によって配られます。

 「これから先日の算数のテストを返します、間違ったところは復習しておくように。名前を呼ばれたら前に取りに来てください」

 ここで不思議なことに、あれほど子供たちが一様に嫌っていたテスト用紙が。ある子にとっては誇らしいものになったり、ある子にとっては忌避の対象になったりするのでございます。

 「私は、80点だったけど。賢一くんは、どうだった?」

 そう言うと、花子さんはクラス一の秀才である賢一くんのテスト用紙を覗きこみます。賢一くんのテスト用紙は、先生の赤ペンで三重丸の大輪のはな丸が咲き誇っています。

 「あら、凄い。また100点満点ね。それに比べて…」

 つづけて、花子さんは隣の席の健一くんのテスト用紙を覗きこみ。

 「まぁ、酷い。ペケばっかりじゃない」

 健一くんは、勉強があまり得意ではないとみえ。テスト用紙は赤ペンでペケばかり、必死に答えた解答もばっさばっさと切り捨て御免。地獄絵図のあり様でございます。

 「賢一くんは、お父さんのように大きなお船の船長さんになりたいの?」そう花子さんは問いかけます。賢一くんの父親は大きな船の船長で、長い船旅に出ているのです。

 「いいや、ボクは飛行機のパイロットになりたいな。飛行機だったら、船と違ってどこへでもすぐに行って帰ってくることができるからね」そう言って、賢一くんは寂しそうに微笑みました。

 「じゃあ、オレもパイロットになる」

 二人のやり取りに、そう言って割って入ったのは健一くん。

 それに、花子さんは「この前は、鞍馬天狗になるって言ってたじゃない」と手厳しく言い返します。

健一くんはにやりと笑うと、時代劇の殺陣のシーンのように血みどろになったテスト用紙を紙飛行機にして窓から投げてしまいます。

 「ほら、パイロット!」

 つと飛び立った紙飛行機は、子供の夢をのせて青空へとすいこまれて行きました。

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